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第234話

バットが地面に打ち付けられるたびに、その衝撃が和泉夕子の心にまで響いてくるようで、彼女は恐怖で後ずさりした。しかし、不注意にも足元の小石を踏んでしまい、バランスを崩して倒れそうになったとき、背後から伸びてきた長い手が正確に彼女の腰を支え、体を安定させてくれた。

振り返ると、冷たい視線を池内蓮司に向ける霜村冷司が立っており、和泉夕子はその姿に思わず胸が高鳴った。

霜村の影響力を考えると、池内が彼を敵に回すことは避けたい。彼女はすぐに霜村から身を引き、大胆にも池内の腕を掴んで言った。

「あなた、もうやめましょう。帰りましょう」

あなた?

池内は彼女を一瞥し、不機嫌そうに目を細め、まるで「冗談はよしてくれ」と言わんばかりの表情を浮かべていたが、和泉夕子はそんなことを気にしている余裕はなかった。彼女は池内の腕にしがみつき、こっそり耳元でささやいた。

「少しの間だけでいいから協力して」

しかし池内は素っ気なく鼻で笑った。

「自分で引き起こした問題だろう。自分で片付けろ」

焦りながらも和泉夕子は小声で懇願した。

「彼に連れて行かれたら、姉の心臓まで持っていかれるわよ」

池内はしばし黙り込み、バットを下ろしてため息をつき、渋々頷いた。

「分かった、行こう」

和泉夕子が彼の協力に安堵し、彼の腕をしっかりと掴んで歩き出すと、背後から冷ややかな声が響いてきた。

「待て」

冷たく厳しいその声に池内は一瞬足を止め、和泉夕子の手を引きながらもさりげなく言った。

「無視しろ」

しかし、池内はその場を離れず、手に持っていたバットを回しながら、霜村に挑発的な視線を向けた。

「俺の妻に手を出しておいて、まだ食い下がるつもりか?お前は一体何様のつもりだ?」

霜村は池内を全く意に介さず、まっすぐ和泉夕子の前に立つと、手を差し伸べて言った。

「一緒に帰ろう」

和泉夕子が断ろうと口を開く前に、池内が彼女の肩を引き寄せて腕を回し、抱き寄せて言った。

「何の権利があってそう言うんだ?」

霜村は彼女が他の男に寄り添っている姿を見て、怒りに満ちた声で叫んだ。

「僕は彼女を愛しているんだ!」

その声には、彼の八年間の抑えきれない思いが詰まっており、彼の目には血のような赤い色が宿っていた。

池内は霜村の目の色を見つめ、一瞬だけ下を向いて微笑んだが、再び和泉夕子を抱き
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