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第154話

望月景真は白石沙耶香と数言の世間話を交わした後、再び話題は和泉夕子に戻り、彼の表情は次第に暗くなっていった。

「この数年間、夕子と霜村冷司の関係は、恋人とは言えない。ただの一枚の契約に過ぎなかったんだ」

「でも、夕子が本当に霜村冷司を愛しているのは確かだ。もし彼に心を移さなければ、夕子は立ち直ることができなかったかもしれない……」

白石沙耶香は彼に隠すことなく、真実を話した。それは彼が早く気持ちを整理して前に進めるようにとの思いからだった。

すべての変化の原因は彼自身にあった。彼を忘れるために、彼女は霜村冷司を愛するようになったのだ。

望月景真は、この瞬間、自分がどんな気持ちでいるのか言葉にできなかった。ただ、心の奥に広がる虚無感が、じわじわと彼を蝕んでいくようだった。

「一度彼女を逃したら、一生失うことになる。彼女のことは早く忘れなさい……」

白石沙耶香はそう言い残し、車のドアを開けて降りていった。

望月景真はシートに倒れ込み、血走った目を閉じた。

ボディーガードが帝都からの電話を受け、急いで車の窓をノックした。

「社長、会長からお電話です」

望月景真は無表情で、ボディーガードが差し出した電話を受け取った。

電話の向こうから、年老いた望月会長のかすれた声が聞こえた。「景真、そろそろ帝都に戻る時だ」

望月景真は何も答えず、ただ視線を上げて、あのアパートを見つめた。

望月家のせいで、彼は和泉夕子を失ったのだ。

当時、彼は和泉夕子を売られたと思い込み、彼女と激しく口論し、彼女を怒らせて追い出してしまった。その時、望月家の人間が彼の元を訪れた。

その時、彼の兄ではなく、家の執事が現れ、彼の意思を無視して無理やり連れ戻そうとした。

彼は必死に逃げ出し、車から飛び降りたが、結局は連れ戻されてしまった。

家に戻った時には、彼は既に記憶を失っていて、何も覚えていなかった。

彼の兄は双子であること、そして彼らが生まれた時に家族に何かが起きたことを彼に告げた。

叔父が望月家の継承権を狙い、一家を誘拐したのだ。その途中で事故が起こり、彼の母親はその場で亡くなり、父親は植物状態になった。

彼はその後、人買いに拾われ、二年間売られ、養父母を失い、孤児院に送られた。

一方、兄は運良く父親に守られ、命を取り留め、執事に見つけられて家に戻った。

その
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