第2話

「娘——」

「ワンワンワン！」

私は無事だったが、娘は犬に太ももを噛み裂かれた。

もしかして、私が再び生まれ変わっても何も変わらないのだろうか？

絶望感に飲み込まれながら、私は娘のもとへ這いずり、彼女をしっかりと抱きしめ、名前を何度も呼び続けた。

そのとき、ようやくサイレンの音が聞こえてきた。

娘は病院の救急外来に運び込まれ、傷口を縫合させられた。

息子は少し離れた場所で電話をしていて、楽しそうに話していた。

「本当？父さん、千鶴さんと一緒に首位を取ったんだって？すごいね。

祝勝会は二人で行ってていいよ。迎えに来なくても。

二人も久しぶりに会えたんだから、僕が邪魔する必要なんてないよ。

犬も元気だし、母さんのことも心配しなくていいから、僕が見てるからさ」

息子の態度はまるで千鶴が彼の実の母親であるかのようだった。

電話を切った途端、息子の顔から笑みが消え、冷たい声で言った。

「母さん、問題なければ会社に戻るよ。会社から何度も連絡が入ってるんだ……」

彼の言葉が終わる前に、私は懸命に近づき、手を上げて平手打ちをした。

息子は腫れ上がった頬を押さえ、信じられないといった表情で私を見つめた。「母さん、何やってんの？なんで僕を殴るの？」

息子が手を上げようとしたが、私が彼の親であることから、彼はドアを蹴飛ばした。

ドアがギシと音を立てた。

私は冷たく彼を見つめ、「この平手はお前の冷たい心のためにだよ」

「千鶴の犬の方がお前の母親みたいじゃないか。犬が襲ってきたとき、逃げていればまだ許せるけど、なぜ母を庇って犬を守るの？お前、頭がおかしくなったのか？犬が暴れてるのを見なかったのか？」

息子は俯き、小さな声で言った。「どうせ母さんが犬を怒らせたんだろうし」

「パチン！」

私は逆手で再び息子を叩いた。「お前は本当に治らないね。

妹が生死を分け隔てる手術を受けているのに、お前はただ千鶴のことばかり心配してる」

息子は全身から怒りを放ち、私を睨みつけた。「母さん、そこまでしろよ。僕はもう26歳だよ。母さんが子供扱いして、暴れん坊みたいに振る舞うのは良くないと思う」

そして小さく付け加えた。「だから父さんは千鶴さんが好きで、母さんが嫌いなんだよ」

それを聞いて、私は震え上がり、信じられない思いで息子を見つめた。私が一手で育てた息子が、こんな無情な言葉を吐くとは。

でも、健太が浮気したのは私では物足りないからなのか？

違う。

健太が浮気したのは、彼自身がろくな人間ではなかったからだ。

私が彼と結婚したときは一無所有で、一緒に働いて、子供たちを産んだ。なのに、私が産んだ息子が私を暴れん坊呼ばわりするとは。

息子は首を強張らせ、「母さん、何を悲しんでいるの？普通の主婦だったお前が今では会長夫人になれたのは、全部父さんが外で働き続けたおかげだよ」

「それに父さんが今日裸で自転車に乗ったのは、妹のために寿を祝うためなんだ。もっと柔軟に考えなさい。新しいことにチャレンジすることもあるべきだよ。

裸で自転車に乗るのは環境保護を訴えるためなんだ。父さんは妹のために祈願してるんだ。

ただ古い価値観を持つ主婦だけが父さんの行動を理解できないんだ」

私は怒りで震えた。

拳を握り締めて、彼を殴る衝動を抑えた。

ちょうどそのとき、看護師が現れ、娘の手術の同意書にサインが必要だと告げた。

私がサインを済ませると、いつの間にか息子はいなくなっていた。

前回、半人前ほどの犬が突如暴れ出し、私を襲ったとき、息子は冷たく見守っていた。

今回は、犬が少し怪我をしただけで、私を非難していた。

私の爪は肉に深く食い込んでいた。

息子にとって、私は犬よりも価値がないのかもしれない。

無力感が心の中に広がった。人は突然壊れてしまうことがあるんだな。

娘は手術室から出てきた。医師は幸運だったと言って、皮膚の表面的な傷なのですぐによくなると伝えた。

私はようやく安堵の息を吐いた。

「ママ、大丈夫？」

医師の言った通り、娘は半時間もしないうちに意識を取り戻した。

私の目は涙でいっぱいだった。この馬鹿な子供、自分自身がこんなに重傷なのに、最初に心配したのは私だった。

私は慎重に彼女を抱きしめ、彼女の傷を触れないように注意を払った。「バカね、ママは大丈夫よ。ただあなたが重傷を負っただけよ」

娘は優しく私の涙をぬぐってくれた。「ママ、泣かないで、痛くないから」

私は唇を強く噛み、涙を堪えながら頷いた。

そのとき、ドアが勢いよく開かれ、健太が怒りを露わにして入ってきた。「誰があんなことをする権利があるんだ？」

彼の後ろには白いドレスをまとった千鶴がついていた。

彼女は私を見て挑むように眉を上げたが、健太が振り向いた瞬間に涙を溜め、そして「トントン」と音を立てて私の前へ膝をついた。