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第100話

「俺が浴室にいた時、確かに雅子もそこにいた」藤沢修は彼女の拒絶を無視して、さらに言葉を続けた。

「もうやめて、聞きたくない!」

松本若子は両耳を塞いで叫んだ。「あなたがそこで何をしたかなんて知りたくない!」

藤沢修は前に出て彼女の手を掴み、無理やり耳から引き離した。「どうして聞かないんだ?君は俺が何をしたと思ってる?」

「何をしたかなんて、あなたが一番分かってるでしょう!」彼女は怒りに満ちた声で返した。

「ふっ」藤沢修は急に笑い出した。「若子、やっと分かったか?この気持ちが」

松本若子は一瞬戸惑い、「どういう意味?」と尋ねた。

「昨日、病院でお前は俺に怒ったよな。俺が君の言い分を聞かないって。でも今、お前だって俺の説明を聞こうとしない」

「…」

松本若子は言葉を失った。

確かに、彼女は彼の説明を聞こうとしなかった。しかし、彼と桜井雅子の関係については、もはや説明など不要だと思っていた。

「それは違う!」松本若子は悔しさに満ちた声で反論した。

「何が違うんだ?」藤沢修はさらに言葉を重ねた。「お前は俺が雅子と浴室にいたことしか聞いていない。でも、どうしてそこにいたのかは聞こうとしない。昨夜の俺と同じだよ。俺も、お前が雅子に水をかけたとしか聞いていなかった。でも、その理由を聞こうとしなかったんだ。若子、俺たちはどっちも冷静じゃなかったんだ」

藤沢修は、昨夜の松本若子の気持ちをようやく理解することができた。彼が彼女の説明を聞かず、彼女は説明したくてもできなかった。

その苦しさを今、彼自身が感じているのだ。

これが「報い」なのか?こんなにも早くやってくるなんて。

誤解されて、説明することもできない。それがこんなにも苦しいとは。

松本若子はしばらく何も言えなかった。

彼の言葉は、まるで彼女を罠にかけるように感じられた。

「若子、君が想像しているようなことじゃない。俺は雅子を浴室に連れて行っただけだ。彼女を助けて浴室に入れただけで、すぐに出た。矢野涼馬が君から電話があったと伝えてきたから、俺はすぐに戻ったんだ」

松本若子は、ずっと緊張していた気持ちが急に崩れ落ち、代わりに胸が締め付けられるような苦しさが込み上げてきた。

鼻がツンとし、涙が一気に溢れ出した。彼の説明を聞いてほっとしたのに、それが余計に彼女を辛くさせた。

自分が、まだこんな
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