第76話

「待て」

隼人は先ほどの言葉に何かが引っかかり、心に苛立ちが沸き上がり、静かに口を開いた。「小春、まだ謝罪していないのでは？」

優希は呆れたようにため息をつき、心の中で「もういい加減にしろ」と叫びたかった。彼は隼人の口に自分の靴下を詰め込みたくなるほどだった。

桜子は胸に鈍い痛みを感じ冷たく彼を見返した。

隼人はその失望しきった目が自分の魂を貫いたように感じた。

「違う、姉さんじゃないの！姉さんがやったんじゃない！」

その時、まるで雲の中から長い間雷鳴を待ちわびたような声が響き渡り、誰もが驚きに包まれた。

桜子はその声の方に目を向け暗かった瞳に再び光が宿った。

「初露！」

白いワンピースを着て菜の花のような髪型をした、白くて華奢な顔立ちの少女が急いで駆け寄ってきた。

その滑稽な髪型は、白露の「傑作」だった。

宮沢家では、初露はずっと白露のライバルだった。

白露は妹が自分よりも美しいことを嫉妬し、いつも初露をいじめることばかり考えていた。公の場で顔を出す時には妹が自分の目立つことを恐れて、わざと醜く見せるように仕向けていた。

初露は幼い頃から自閉症を患っており、そのため性格はますます内向的で孤立しがちになり、知らない人と会うときはいつも肩をすぼめ口数が少なかった。

だが宮沢家に嫁いだ三年間、彼女に温かさを与えてくれたのは、白倉さん以外ではこの目立たない妹だけだった。

彼女が宮沢家を去った後もずっと初露のことを気にかけていた。

今日ここで彼女と再会できたことは、桜子にとって何よりも嬉しいことだった。

「何を言ってるんだ、このバカ娘」

白露は妹を鋭く睨みつけた。「あの時、洗面所には柔ちゃんと彼女しかいなかったんだ。彼女がやったに決まってるじゃないか」

「ち、違う！姉さんじゃない！」初露は焦りと恐怖で、言葉がうまく出てこなかった。

「初露、ここには関係ないだろ。向こうで遊んでいなさい！」宮沢秦も冷たい目で彼女を見つめ、その視線は氷のように冷たかった。

初露は小さな拳を握りしめ、高くそびえる隼人の前に立ち、小さな顔を上げて彼を見上げた。

「お兄ちゃん！姉さんがやったんじゃない！」

「初露、どうしてそう言うんだ？」隼人はこの妹に対して、珍しく優しい口調で尋ねた。

「私、見たんだ！あの時、私も洗面所にいたの！全部見てたの！」