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家族が命の助けを待つ間、彼は愛人と共にいる
家族が命の助けを待つ間、彼は愛人と共にいる
著者: 針谷ねつみ

第1話

父も母もおばたちも全員が救急室にいて、医者は最適な治療時間はあと2時間だと告げた。

私は山田に電話をかけた。彼は「すぐに行く」と言ったが、2時間経ってもまだ姿を見せなかった。

私は父と母の手を握りしめ、耳元にはおばたちの苦しげなうめき声が響いていた。必死の思いで、「行かないで」と叫ぶ声が胸に突き刺さるようだった。

小さな甥っ子は私の服の裾をぎゅっと掴みながら、「おばさん、山田おじさんが僕たちを助けてくれるって言ったよね。嘘つきだよ!」と泣きじゃくりながら責めた。

私は声にならない涙を流しながら、彼らが目の前で息を引き取るのを見つめるしかなかった。

茫然自失の私を医者が支えて廊下に連れ出してくれたが、涙はもう枯れ果て、手元のスマホには何の返信もない。

「ご家族の方、ご愁傷さまです。これから手続きをご案内します」

私はぼんやりと看護師の後について一階へ向かった。しかし、階段の踊り場に差し掛かった瞬間、山田輝が若い女性を抱き寄せている姿が目に飛び込んできた。

「ほら、どうしてそんなに不注意なの!」

「もう、大げさだなぁ。ちょっと切って血が出ただけだよ、別に大したことないってば」

山田は眉をひそめて、「何言ってるんだ、あの包丁は錆びてたんだぞ。感染でもしたらどうするんだ!」と声を荒げた。

私は初めて彼の顔にそんな表情を見た。心配そうな目、焦りの色が浮かんでいた。

山田が顔を上げて私を見た瞬間、動きが止まった。

「高橋?」

泣き腫らした私の顔は、きっと見るに耐えないほどひどかっただろう。どうやって彼の目の前まで歩いてきたのか、自分でもよくわからなかった。

「約束してくれた薬はどこ?」

あの女がくすりと笑いながら言った。「輝ちゃんの彼女なの?ごめんね、不注意で手を切っちゃったの。輝ちゃんが心配して、車で迎えに来てくれたのよ」

その言葉を聞いた瞬間、全身の血が頭にのぼり、声が震えた。「だから、山田、薬はどこなの?」

山田は眉をひそめて、「薬は手配したから、すぐ届くはずだ。お前、そんな姿になって……早く片付けておけよ。後でまた話すから」と言い放つと、

あの女を抱き寄せて立ち去った。その背中を見つめながら、父や母たちが亡くなる直前の苦痛な表情が脳裏に浮かんだ。その瞬間、目の前が真っ暗になり、意識を失って倒れてしまった。

再び目を覚ましたとき、看護師がそばにいた。「やっと目が覚めましたね!医者が言うには、あまりにもショックを受けたせいで、心労が極限に達したんですって。少し休めば大丈夫です。これ、高橋さんの資料です。何かあったら呼んでくださいね」

彼女に礼を言った後、私は必死に体を起こし、枕元のテーブルに置かれた一束の死亡証明書を見つめた。もう乾ききった涙すら流れなかった。

遠くに住む親戚たちは皆、急いでこの地に向かっている。今の私は、まだ倒れるわけにはいかない。

そして、山田輝、希望を与えたかと思えば、それを無情に踏みにじり、私を奈落の底へ突き落とした男。

十数人の命を犠牲にした彼を、私は絶対に許さない。彼には血で償わせる。

私は立ち上がり、自分のアパートへと戻った。ここは山田と私が一緒に暮らしていた小さな部屋だ。

部屋の中は、私が出て行った時のままだった。四日も経つというのに、山田は一度も戻っていない。

まあ、かえって都合が良かった。私は部屋を一通り掃除し直し、監視カメラを設置した。そして、二人の写真やペアグッズといったすべての思い出のものをゴミ袋に放り込んだ。

一日中掃除をして過ごし、夜になると山田が帰ってきた。リビングにいる私を見つけると、彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに淡々と言った。「薬は送ったよ。あいつら、もう大丈夫だろう?言っただろ、あれはただの微量の毒で、そんなに大事じゃないって」

「どうしてそんなことが分かるの?」彼の言葉の中に隠れた意味を察知した私は、即座に警戒心を強めた。

山田は何かに気付いたようで、「考えてみろよ。劇毒の廃水なんか、どこの企業が本気で流すと思うんだ?」

私は目を細めて山田を見つめた。私は一度も、彼らが汚染された水で中毒になったことを話したことなどない。

それなのに、彼はすべてを知っていた。いや、知っていたうえで、私たちを放置したのだ。

私の家族は、彼のせいで、死んだ。

誰が毒水を流したのかは関係ない、私は必ず、復讐する。

私が黙り込んでいるのを見て、山田は近づいてきて、私を抱きしめようとした。だが、私は身をひねってその手を避けた。空中で止まった彼の手が不自然に固まり、表情に苛立ちが浮かんだ。「高橋、お前、何を怒っているんだ!」

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