共有

第6話

恭一は立ち尽くしたまま、めぐみに袖を引かれてようやく我に返った。

「お、おじい......ちゃん......?」

その声が途切れる間もなく、恭一は藤原会長に駆け寄り、泣きすがった。

「どうしてこんなに遅かったの?僕と母さんがどれだけ苦労したか......」

「黙れ!親不孝者め。さくらの息子を名乗る資格などない!」

平手打ちの音が響き、恭一は床に倒れた。誰も助け起こそうとはしない。

「わが社では、コネと金で入社させる愚は断じて許さん。この二人の名を、グループ企業すべての採用拒否リストに永久登録せよ」

高慢な態度を崩さなかった矢島夫妻も、ついに取り繕えなくなった。矢島母は過呼吸を起こし、その場に崩れ落ちた。

だが、駆けつけた警官は容赦なく水を浴びせかけた。

「虚偽告訴の容疑です。署までご同行願います」

矢島家の面々は黙って連行されていった。

最後の望みをかけるように、めぐみが私に許しを乞おうとした瞬間、疲れ果てた私の意識が途切れた。

目を覚ますと、清潔な病室だった。

老紳士が涙を堪えながら、そっと私の頬に触れていた。

「よく頑張った......」

堰を切ったように、父は私を抱きしめて泣いた。

見覚えのあるその顔に、胸が締め付けられた。

「お父......様......?」

言葉が出ない。失われた歳月の痛みを、すべて吐き出したかった。なぜ、もっと早く......そう問いただしたかった。

でも、肉親との再会の瞬間、そんな思いは跡形もなく消え去った。

私は財界の重鎮、藤原勝也の一人娘。三十年以上前、企業の買収騒動の最中に何者かに誘拐された。

救ってくれた恩人だと信じていた恭一の実父母こそが、私を誘拐した張本人だった。

彼らが事故死した時、恭一はまだ乳飲み子。恩に報いるため、私は十八で学業を諦め、工場勤めをしながら一人で彼を育てた。実の子以上に、恩人の遺児として大切に育てたのに。

しばらくして、父は慈しみの目で私を見つめながら言った。

「よく戻ってきてくれた。手術は成功したよ。医師団の話では、しっかり療養すれば完治するそうだ」

涙まじりに微笑んだ。父は怒りを押し殺しながら、優しく私に語りかけてくれる。

一ヶ月の療養を経て、ようやく歩行が許可された。

父は国内屈指の医療チームを集め、足の治療だけでなく、全身の調養も施してくれた
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status