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第5話

「藤原勝也?藤原グループの会長?」

「長年表舞台から退いていた藤原会長が、こんな小さなホテルに?」

「まさか......あの方が藤原会長の娘さん!?」

周囲がざわめく中、先ほどまで威張り散らしていた矢島善一は、今や背中を折り曲げ、冷や汗を滝のように流していた。

めぐみが真っ先に声を上げた。

「ありえないわ!あの人、若くして未婚で子供を産んで......ただの掃除のおばさんでしょう?藤原グループのお嬢様なんて、絶対に嘘よ!」

「そうよ、きっとネックレスの件がバレそうになって、この人、わざとおじいさんを連れてきて私たちを騙そうとしたんでしょ」

恭一もようやく我に返ったように、「はっ、お嬢様なわけないだろ。子供の頃、おもちゃ一つ買ってくれなかったくせに。それに、どこのお嬢様が十八で結婚して子供作るんだよ。ねぇ、おじいさん、この人に惚れちゃったんじゃないの?」

心の中で大切に育ててきた息子のその言葉に、私の心は完全に凍りついた。

「おじさま、藤原グループの幹部なんだから、会長のことはよくご存知でしょう?この女がどんな芝居を打つつもりか、見てやってください」

めぐみは、藤原会長に庇護される私を睨みつけながら、異様な様子の善一には全く気付かないまま、畳みかけるように言った。

「黙りなさい!」

善一の怒鳴り声に、めぐみは目を丸くした。

「私に向かって怒鳴るの?忘れたの?恭一と私を藤原グループに入れるために、両親がいくら積んだか。今すぐこの女を解雇するべきよ!」

私は震える指で恭一を指さした。

「もういい!恭一、今日限り、私たちの縁は切れた!」

矢島家の面々が喜色を満面に浮かべるのを見て、やっと分かった。今日の仕打ちは全て、私と恭一の関係を断ち切るため。私が彼の足枷になることを恐れてのことだったのだ。

「会長、調査結果が出ました。村瀬さくら様は間違いなく、お探しだったご令嬢です。ブレスレットと母斑、全て一致いたします」

秘書らしき青年が声高に報告した。

「なお、矢島めぐみ様の『紛失したネックレス」については、完全な自作自演であることが判明。

「監視カメラの映像は既に警察に提出済みです」

藤原会長は、もはや感情を抑えきれない様子で、失われた娘を取り戻した喜びに満ちた眼差しで私を見つめた。

だが今は再会を喜ぶ暇もなく、まずは私を支え起こすよう
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