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第3話

周りの囁きが耳に入るたび、私の体は怒りで震えた。その様子に気付いた矢島夫妻が私の方を向いた。

「あの、そこのおばさん。結婚式のお客様?どちらのご親戚かしら」

矢島母が私を上から下まで値踏みするような目で見ながら、軽蔑的な声を投げかけた。

「あの......ご親戚というか......私が恭一の母親で......お手伝いできることがあればと......」

「あぁ、あなたが村瀬の母親?来るなって言ったはずでしょう。なんで来たの?」

「ここにいらっしゃる方々は皆、選りすぐりのお客様よ。早く帰って。私の結婚式の品位を下げないでいただきたいわ」

めぐみの言葉に私は耳を疑った。この刺々しい物言いの人が、私の息子の妻になるのだ。

一家からの心ない仕打ちに私は途方に暮れながらも、震える声で言った。

「ご両親も東雲台のマンションを......?でも、私が用意した新居も、その......同じところ......」

矢島夫妻の表情が一瞬歪んだが、すぐに取り繕った。

「もういい加減にしろよ!まだ恥さらす気か!」

恭一が駆け寄ってきて、事情も聞かずに私を怒鳴り散らした。

面目を潰されためぐみは、ますます声を荒げた。

「五つ星ホテルだって聞いてたのに。こんな身分の低い人間まで入れるなんて、どうかしてるわ」

恭一は一方でめぐみを宥めながら、もう一方で矢島夫妻に頭を下げ続けた。

「申し訳ありません。私の不手際です。母が来るとは知りませんでした。すぐに帰らせますから、どうか怒らないでください」

矢島母は腕を組み、私を見下ろすように言い放った。

「村瀬君、うちのめぐみをもらえるなんて、あなたは最高の幸運よ。そのことをよくよく分かっておいてちょうだい」

「息子の結婚式なのに......私が来ちゃいけない訳がありません!」

矢島夫妻の傲慢な態度に我慢できず、思わず声を上げた。

その一言で、恭一の怒りが爆発した。

私の不自由な足のことなど意に介さず、腕を掴んで引きずるように連れ出そうとした。

「ちょっと待ちなさい!この老いぼれ、私たち矢島家を侮辱してるってこと?今日のうちにハッキリさせてもらうわよ!」

「あなたの息子と結婚してあげるのよ。これ以上の幸せなんてないでしょう。年上だからって私に命令するつもりはないわよね」

「その服だって、わざとでしょう?親戚や友人に かわいそうな嫁いじめ って思わせたいの?」

「計算高いんだから!」

そう言うと、めぐみは私を突き飛ばした。まだ気が済まないのか、私の服に手をかけた。

必死で服のボタンを押さえながら、私は恭一に助けを求める目を向けた。

だが息子は知らんふりどころか、火に油を注ぐような言葉を投げかけた。

「怒んないでよ、めぐみ。こんな田舎者が、お義父さんお義母さんに比べられるわけないじゃん。俺のことは許してくれる?」

長年の屈辱と悔しさが一気に込み上げ、涙が零れ落ちた。

「何よ、私の結婚式を台無しにしておいて、よく泣けるわね。誰に見せつけてるの?もしかして、男でも作ったの?」

めぐみの下品な言葉に、私は怒りで真っ赤になった。

「結婚式で不倫相手を探すつもり?あなたの息子が藤原グループに入れたのも、うちの七光りがあってこそでしょう。今後一銭だってあてにしないでよね」

めぐみの手から逃れようとした私の抵抗が、さらなる怒りを引き起こした。

矢島母が私の頬を平手打ちすると、母娘で私の服を引き剥がし、肩の醜い傷跡をさらした。

それでも飽き足らず、警備員を呼んで私を会場から追い出そうとした。

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