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第6話

「いい加減にしろ。確かに彼女とは昔付き合っていた。でも、それはもう過去の話だ。それだけのことを、いつまでも引きずるつもりか。

それとも、この旅行が気に入らないのか。これは息子の希望なんだ。大切な時期だろう。お前だって息子の幸せを願うはずだ。

それに高桥蘭子は俺のために結婚もせずに待ってくれた。申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。息子も俺の気持ちを理解して、彼女に恩返ししたいと思ってくれている。それも反対するのか。

美咲、いつからこんな意地の張る人間になったんだ」

彼の言い逃れを聞きながら、私は気づいた。

私は本当の伊藤瑾也を全く知らなかったのだと。

彼は自分の非を、いつも私のせいにしてしまう人だった。

今まで息子のため、家庭のために黙っていた。

でも、もう我慢する必要はない。

私は彼の言葉を遮った。

「佐藤瑾也、離婚しましょう。離婚協議書はテーブルに置いてあります。確認してサインしてください。後日、区役所に行きましょう」

そう言って電話を切った。

私は口べたで、彼に言い負かされるだけ。もう無駄な言い合いはしたくなかった。

穏便に離婚できれば、それでいい。

伊藤言和は私が離婚を決意して引っ越したと聞き、怒って押しかけてきた。

私は心の中で嘲笑った。一ヶ月も連絡のなかった息子が、今更何を言おうとしているの?

彼は怒りに震えながら、私を指差して言った。

「いい加減にしてよ。五十過ぎて何を騒いでるんだ。離婚なんてとんでもない。

父さんは蘭子おばさんと少し旅行に行っただけじゃないか。二人とも年なんだから、そんな心配要らないだろう。

大目に見ればいいじゃないか。更年期でも来たのか。

離婚するにしても、なんでこんな条件なんだ。父さんの財産の半分なんて、図々しいにも程がある」

山田優子は隣で彼の腕を軽く引き、言葉を和らげるよう促した。

そして私に申し訳なさそうに「お母さん」と呼びかけた。

私は軽く頷いただけで、冷静に答えた。

「言和、君も結婚したんだから分かるはず。夫婦の共有財産というものを。

お父さんの稼ぎの半分は私の権利よ。二十五年間、私は君たち親子の面倒を見てきた。

家政婦を雇っていても、二十五年分の給料は相当なものよ。私の分を主張するのは当然でしょう」

伊藤言和は食って掛かった。

「でも母さんは家政婦じゃないだろう。母親
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