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第5話

その後数日間、彼女は私を心配そうな目で見て、時々手作りのおかずを持ってきてくれた。

私もお礼に小さな贈り物を返すようにした。

時が過ぎるのは早いもので、伊藤瑾也とは半月も連絡を取っていなかった。

SNSを見ると、彼らは「家族」四人で車の旅行に出かけていた。

高橋蘭子は毎日のように写真を投稿していて、まとめて九枚も載せることもあった。

ほとんどが伊藤瑾也と手を繋いだ親密な写真や、頬を寄せ合うような写真ばかりだった。

伊藤言和からも連絡はなく、私もそれを受け入れることにした。

この半月間、私は心から幸せだった。今までの五十年で感じたことのないような幸せを感じた。

自分で選択できているから。

誰かの足手まといでもなく、誰かに頼ることもない。

私はただありのままの私だから。

誰かの娘でも、妻でも、母でもない。私自身として生きている。

伊藤瑾也から再び電話がかかってきたのは、一ヶ月後のことだった。

息子の結婚後、初めて彼があの家に戻った時だった。

しかし部屋は空っぽで、テーブルには厚い埃が積もり、冷蔵庫の中の食材は腐っていた。

悪臭に顔をしかめながら、瑾也は冷蔵庫を閉めた。

何度か私の名を呼んだ後、部屋から私の持ち物が全て消えていることに気付いた。

クローゼットには彼の服だけ、スリッパは一足減り、引き出しの私の常備薬もなくなっていた。

伊藤瑾也は苛立ちを隠せない様子だった。こんな年になって、まだこんな真似をするのかと私を叱りたいようだ。

しかし埃まみれの部屋を見て、携帯を取り出して電話をかけてきた。

見慣れた番号を見ながら、離婚の件はもう随分引き延ばしていたと思い電話に出ることにした。

私が何か言う前に、伊藤瑾也の怒りの声が響いた。

「この前言ったことが分からないのか。もういい年なんだから、こんな家出みたいなことはやめろ。

家の中はめちゃくちゃで、足の踏み場もない。これが妻のすることか。

息子の里帰りの時のプレゼントもあんな程度で、家の恥をさらすつもりか」

伊藤瑾也の声は次第に高くなったが、すぐに諦めたように柔らかくなった。

「どこにいる?迎えに行くから、帰って家の片付けをしてくれ」

当たり前のような口調、命令するような物言い。まるで私が、彼の家の使用人のような気分になった。

思わず苦笑いが漏れ、問い返した。

「瑾也
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