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第4話

財産分与は六対四にした。半々にしようかとも思ったけれど、そんな必要はないと思い直した。

自分でも意外だった。こんな年になって、一生従順に生きてきた私が、離婚を切り出すなんて。

若い頃は父の言う通りに、学校も、人付き合いも、仕事も、全て決められた道を歩いてきた。

結婚してからは伊藤瑾也の望む通り、子育てと家事に専念する良妻賢母になった。

今度は息子の言うことを聞くべきなのだろうか。

何度も自分に問いかけた。でも答えはいつも同じだった。

いいえ。

もう十分。

私も、自分の人生を生きたい。

彼らは失った恋を取り戻したいというのなら。

私だって、本来の自分、あの生き生きとした自分を取り戻したい。

引っ越して初めての夜は、慣れない寝床で落ち着かず、早朝に目が覚めた。

携帯を確認しても、着信もメッセージも何もなかった。伊藤瑾也は昨夜帰宅していないから、離婚届にも気付いていないはずだ。

今日は山田優子の里帰りの日。贈り物は前もって用意していた。

伊藤言和は私の大切な子供だ。彼の人生の大切な節目を台無しにしたくなかった。

よく考えた末、デリバリーサービスを使って、新居に贈り物を届けることにした。

三十分後、配達員から連絡が入った。申し訳なさそうな声で言った。

「あの......申し訳ございません。お荷物をお断りされまして......」

携帯を握りしめたまま、胸が締め付けられた。やっと「ありがとうございます」と言えた。

「よろしければ、お持ち帰りください。処分していただいても結構です。お手数おかけしました」

「かしこまりました」

電話を切る直前、向こうから伊藤言和の声が聞こえてきた。

「ママ、あの人って昔からケチだから、プレゼントもショボいんだよ。

こんなものを義父に渡すなんて、家の恥さらしじゃないか。わざわざ届けさせるなんて、恥ずかしくないのかな」

高橋蘭子が優しく諭すように「まあまあ、そんなこと言わないの。気持ちは気持ちとして」

伊藤言和は慌てて頷いて、また同じことをすると冗談めかして言った。

その後の一週間、伊藤瑾也とは一切連絡を取らなかった。

何度か電話はかかってきたけれど、出なかった。

伊藤瑾也は私が拗ねていると思い込んで、そのうち電話をかけてくるのも止めた。

どうせ私のことを分かったつもり。今まで喧嘩をしても、長く
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