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第51話

景之は彼女の言葉を聞いて、ただ貞操が危うくなると感じた。

シャワーを浴びて、着替えを済ませると、すぐに自分の部屋へ休みに行った。

同時に、黒木家。

啓司はボディーガードからの連絡を受けて、紗枝がホテルで食事をした後、館に戻ったことを知った。

彼の心ここにあらずの様子を葵と母親の綾子は見て取っていた。

「葵、今日はせっかく来たのだから、ここで泊まっていって。明一さんは明日帰ってくるから、君に会いたいと言っていたよ」

綾子が言った。

啓司の父親は浮気性で、年を重ねても色恋に関心があり、家には滅多に帰らなかった。

葵は恥ずかしそうに頷いた。

「はい」

啓司は彼女たちの会話には無関心で、食事を少しだけ口にして、椅子を引いて食卓から離れた。

「啓司、どこに行くの?」

綾子は疑問に思い尋ねた。

「家に帰る」

綾子は驚き、彼が言っているのが岱椽のことだと分かった。

それは彼がかつて結婚後に紗枝と住んでいた場所で、どうして家と言えるのだろう。

「今日はここに泊まりなさい、明日お父さんが帰ってくるから、葵との婚約のことも一緒に相談しましょう」

婚約?

啓司の深い瞳に冷たい光が走った。

「まだ離婚していないのに、どこに婚約の話があるんだ?」

綾子の心にまた一つの影が落ちた。

傍らの葵の表情は変わらなかったが、箸を握る手が無意識に締まった。

紗枝はもう何年も前に亡くなっているのに、離婚したかどうかそんなに重要なのか?

啓司が出て行く前に、彼女は追いかけた。

「黒木さん」

啓司は足を止めた。

葵は前に進み、情感を込めて言った

「黒木さん、私のどこが悪いの?」

「なぜ今になっても私を受け入れてくれないの?」

「紗枝があなたと結婚してから、今まで、私は八年間待っていたの」

葵の瞳に涙が浮かんだ

「私はあなたにふさわしくないのが怖くて、ずっと努力して、ようやく今の地位に立ち、再びあなたに近づく勇気が出たの」

彼女は話しながら、手を伸ばして啓司を抱こうとした。

しかし啓司はそれを避けた。

葵はその場に硬直し、啓司の冷たい声が聞こえた。

「この数年、君が欲しいものは何でも与えてきた。

「いい加減、足るを知れ」

啓司は車に乗り去り、葵だけが風の中に取り残された。

その時、綾子が出てきて、冷たく彼女を見下し、容赦なく嘲笑し
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