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第128話

車に乗った後、啓司は一度病院を振り返った。

「さっき僕がいなくなった後、和彦と何を話していたんだ?」

「彼が大学時代に人を助けたことがあるかどうかを聞いてきた」

紗枝は隠さずに答えた。

人を助けた?

啓司は葵が大学に通っていた頃、和彦と彼の母親が事故に遭ったときに彼女が二人を助けたことを思い出した。

「それで?」

「それで、あなたが来たの」

紗枝はその話をこれ以上したくなかった。

時刻は遅くなっていた。

啓司は今夜、周年記念パーティーに出席する予定があった。

紗枝は彼と一緒に会社に戻る必要はないと感じ、窓の外で舞い散る木の葉を見つめながら言った。

「帰りたいの」

「今夜、君も一緒にパーティーに参加してもらう」

紗枝は驚いた表情を浮かべた。

啓司は特に説明もせず、運転手に会場へ向かうよう指示した。

周年記念パーティーが始まる前に、啓司は紗枝を静かな個室に案内した。

彼女は蒼穹色のドレスに着替え、その姿はまるで俗世に染まらない女神のように、清純で美しかった。

啓司は個室のドアのところで彼女を見つめ、その深い瞳には一瞬、驚きと感動が走った。

彼の喉がわずかに動いた。

「ここで待っていろ。夜になったら一緒に帰るから」

紗枝は顔を上げ、彼を見つめながら軽く頷いた。

「わかったわ」

彼女の従順な姿に、啓司の心は静かに波打った。

彼はそれ以上何も言わず、足早にその場を去った。

会社の周年記念パーティー。

葵と綾子も早々に到着していた。

「紗枝が牡丹に戻ってきたって本当?」綾子が尋ねた。

「ええ。どういうわけかわかりませんけど、たぶんまた啓司さんにまとわりついてるんじゃないでしょうか。二人はまだ離婚していませんし、彼女は厄介な人ですから」

葵は綾子に、実は啓司が紗枝に牡丹に戻るよう指示したことを伝えていなかった。

綾子は手に持ったワインを軽く飲みながら、前回の寿宴で二人が曖昧な関係であるところに遭遇したことを思い出していた。

もしかして、息子はまだ紗枝に未練があるのか?

綾子は葵に対してわずかに憂いを帯びた目を向けた。

「彼女はいったいいつになったら息子を放してくれるのかしら」

そう言うと、彼女は再び葵を見て言った。

「啓司が君を妻にすることを約束した以上、君は早く妊娠する方法を考えるべきよ。今日は、私が手伝って
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