第718話

悠斗の背筋が寒くなった。今の峻介は、まるで鎖を引きちぎろうとしている野獣のようだった。

優子こそが彼を繋ぎ止める最後の鎖であり、もし優子に何かが起これば、彼がどう変わるか分からなかった。

「君は自分があまりに独断的だとは思わないのか？治療を受けるかどうか、少なくとも優子本人の意見を聞くべきだろう」

峻介は一言一言噛み締めるように言った。「彼女を生かすこと、それが最良の結末だ。僕は過程にはこだわらない。必要なのは、彼女が生きること、それだけだ。分かったか？」

そう言うと、峻介は大股でその場を立ち去った。悠斗は彼の背中を見つめながら、優子に同情の念を抱かずにはいられなかった。

この男は相変わらず自己中心的だった。彼は本当に人を愛する方法を知らなかった。

正昭は嵐のような勢いで到着すると、峻介に会うなり自分の顔を平手で叩き、深い謝罪の色を浮かべた。「佐藤総裁、すべて僕のミスです。最も重要なことを見逃してしまい、奥様をこのような状態に追いやってしまいました」

峻介は誰を責める資格もなかった。優子がこうなったのは、すべて自分のせいだった。他人を責めることはできなかった。

「謝罪は後だ。これは優子ちゃんの検査結果だ。何か方法がないか見てくれ」

「分かりました」正昭は雨水に濡れた手を拭き、検査結果を受け取った。

結果を見た途端、彼の顔は険しくなった。「どうしてこんなに重篤なんですか？もう末期まで進行しているなんて！」

峻介は悲しみを堪え、拳を強く握り締め、壁に向かって打ちつけた。低く沈んだ声が漏れた。「M-1ががん細胞を誘発したんだ」

「佐藤総裁、あまり自分を責めすぎないでください。弟から聞きましたが、当時の奥様の健康診断の結果は誰かに改ざんされていたそうです。そして奥様は全てをあなたに隠していたんです。あなたがこうなることを望んだわけではないでしょう」

手に入れたいものがあればあるほど、それが遠ざかってしまう。峻介は全力で彼女を守ろうとしたが、結果的に彼女を遠ざけてしまった。

峻介は歯を食いしばって言った。「葵の仕業だ」

正昭は彼らの家庭問題に関わりたくはなかったので、話題を変えた。「今、奥様の容態はどうですか？」

「医者は治療を諦めるよう勧めた。僕は優子ちゃんに化学療法を受けさせて、がん細胞の拡散を抑えるようにしているが、天寧や毒虫組織に有効な