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第273話

もし目的が金銭であれば、佐藤家と松本家は共に強大な家柄であり、金銭に困ることはない。

だが、相手の意図がただの金銭ではなく、それ以上に重要な何かを求めているのではないかという不安があった。

松本悠真は車椅子に座り、手すりに置かれた痩せた手には浮き出た血管がはっきりと見えた。

松本隼人は厳粛な表情を浮かべていた。他の者は知らないが、彼らは知っていた。金銭よりも、佐藤峻介の正体が暴かれることの方が恐ろしかった。

たとえ今日、松本里美を失うことになっても、彼らは佐藤峻介の秘密を守り抜かなければならなかった。

松本悠真と松本隼人は目を合わせ、瞬時に共通の理解を得た。

最愛の者が海上に吊るされ、命の危険に晒されていたとしても、その秘密に比べれば他に選択肢はなかった。

何も知らない山田麻衣だけが泣き続けていた。「言ってよ!あなたは何が欲しいの?いくらでも払うから、どうか彼女たちを助けて!」

「松本夫人の涙は本当に心を打ちますね。見ず知らずの私でさえ、心が痛みます」

その声が再び響き渡った。惜しむような口調でありながら、人々の耳には言い知れぬ不気味さが漂っていた。

そして案の定、その声はこう続けた。「でも、その涙が愛しいのは継娘のためなのか、それとも実の娘のためなのか。そこが気になるところですね」

山田麻衣は鼻をすすり、「彼女たちはどちらも私の娘です。何か違いがありますか?」と答えた。

「ふふっ」

相手は軽く笑い、「もちろん違いがありますよ。どちらも大切な存在だとしても、やはり異なるんです。私はね、何も欲しいものはありません。ただ、あなたたちと爆弾ゲームを楽しみたいだけです」

「皆さん、テレビを見たことがありますよね。爆弾処理の専門家が最後に直面する2本の線は知りますよね。1本は命を救うことでき、もう1本を切ると……boom、爆発する」

その人物はわざと爆弾が爆発する音を真似してみせ、現場にいた人々は一斉に驚きの声をあげた。

「ねえ、彼女たち二人はそれぞれ青い線と赤い線で縛られています。ゲームのルールは、1分以内にどちらかの線を切るのを決めることです」

この言葉が発せられると、現場は騒然となった。「なんてことだ!線を切れば誰かが死ぬということか!」

「親しい人にそんな選択を迫るなんて、お前は悪魔か?」

「前妻だろうと現妻だろうと、お前に彼女た
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