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第314話 念江くんを困らせないで

 藤河別荘に戻る途中、入江紀美子はずっとぼんやりとしていた。

別荘の入り口に着いて、彼女は太ももの上に置いていたハンバーガーのことをすっかりと忘れ、そのまま車を降りると、ハンバーガーを全部地面に落とした。

紀美子は地面に散らかっていた食べ物を見てうっとりした。

杉本肇はその様子を見て、慌てて落としていた食べ物を拾い、袋に入れ直して紀美子に渡した。

紀美子は固まった動きで袋を受け取り、かすれた声で呼びかけた。

「杉本くん……」

肇は冷たい顔色で、

「入江さん、聞きたいことは分かっていますが、どうか聞かないようにしてください」

紀美子は眉を寄せながら、目線を下向けにした。

そうだ、もともと彼女は森川晋太郎と一切会わないと決めていたのに、今更彼の状況を聞いてどうする?

しかしこの時、脳裏は晋太郎の姿で一杯で、振り払おうとしても消えてくれなかった。

彼は森川次郎を殴ったから、父の森川貞則の性格だと、彼は罰を受けることになるのか?

ただでさえ、彼は父との関係が厳しかったのだ。

肇は見ていられず、「私はこれで帰ります。入江さん、あまり考えすぎないように」と慰めた。

紀美子は頷き、

「……分かったわ」

肇が帰った後、紀美子は別荘に戻った。

入江家の親戚たちは紀美子の顔色が悪いのを見て、こっそりとアイコンタクトを取り合った。

入江世津子「彼女はどうかしたの?あの顔色、まるで会社が潰れたかのようだわ」

入江邦夫「そんなことねえだろ、会社が潰れたら俺達どうするんだ??」

入江万両「待て、ネットで調べてみる」

彼は携帯で検索して、Tyc社が倒産した記事はなかったので、

「大丈夫だ、潰れてなんかいない!」と言った。

世津子は胸を撫でながら、「よかった、潰れてさえいなければ、たとえ彼女が母を死なれた顔をみせても私達と関係ないわ」

万両「彼女は食い物を持っていたな」

「万両、取ってきて、私たちはまだ昼ご飯を食べていないのよ!」

世津子は息子の背中を押した。

「分かった!」

万両は紀美子の前に行って、何も言わずに彼女が持っていた袋を奪い取った。

「これはこれは、食いもんまで買ってきてくれるとは。あんがとな!」

紀美子は彼を見て、「うん、あなたにあげる」と言った。

どうせ一度床に落としたもので、子供達に食べさせるわけにはいかなかった。

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