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第194話 どんなに頑張っても無駄だ。

 紀美子は女性の傷に薬を塗り終え、清潔な服を持ってきた。

 そして、朔也が彼女に食事を勧めている隙に、念江に電話をかけた。

 「ママ!」電話に出たのはゆみだった。「ママ、また私と兄さんたちが恋しくなったの?」

 紀美子は微笑み、「そうね。でも、他にも用事があるの。ゆみ、佑樹に代わってくれる?」と言った。

 ゆみは電話越しに叫んだ。「兄さん、ママから電話だよ!!」

 すぐに佑樹が電話に出た。「ママ、何か用事?」

 紀美子は食事をしている女性を一瞥し、「佑樹、人の情報を調べられる?」と尋ねた。

 佑樹は即答した。「もちろん。誰を調べればいいの?」

 「その人が誰なのかもわからないのよ」紀美子は説明した。「後で彼女の写真を念江のラインに送るから、それを見てどれくらいで調べられるか教えて」

 「任せて、ママ。でも、報酬はちゃんともらうからね」佑樹は悪戯っぽく笑った。

 紀美子は苦笑し、「この生意気な子、三日も叱らないとすぐに調子に乗るわね」

 「冗談だよ、ママ。本気にしないで」佑樹はすぐに降参した。

 他の人から頼まれたらお金を稼げるところだけど、相手がママなら仕方ない。

 数分間話した後、紀美子は電話を切り、女性の写真を念江に送った。

 写真を受け取った後、佑樹は早速調査を始めた。

 いつもなら、写真さえあれば数分でその人の情報を見つけ出せる。

 しかし、今回は30分経っても何の手がかりも掴めなかった。

 まるで誰かが意図的にその女性の情報を消去したかのようだった。

 佑樹は初めての挫折感を感じ、小さな指でキーボードを叩き続け、悔しさを発散させているかのようだった。

 傍らの念江が「佑樹、もうやめろ」と声をかけた。

 佑樹は眉をひそめて手を止め、「おかしいと思わない?」と問いかけた。

 「確かに」念江はコンピュータを見つめ、「でもデータが消去されていたら、どんなに頑張っても無駄だ」

 その一言が佑樹の心に響いた。「そうだ、念江はデータの復元が得意じゃない?」

 「それには最低限の情報が必要だ。そうでなければデータの復元はできない」念江はため息をついた。

 佑樹は肩を落とし、「ママが初めて僕に頼んだのに、結果はこんなものか」と落胆した。

 その時、唇に何かが押し当てられた。

 佑樹は驚き、下を見るとそれはチョコレートだった
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