第3話

坂本静香は林原千代が林原光一を急かして搭乗する声を聞くと、声が急に大きくなった。

「まさか林原千代と一緒にいるの？！

彼女と付き合わないように言ったじゃない。

菊池美奈は？お盆休みに彼女と一緒にいないで、逆に林原千代と旅行に行くの？」

林原千代はそれを聞いて、林原光一を見る目がとてもかわいそうな感じになった。

林原光一は急いで声を下げた。

「菊池美奈が海に行っていいのに、俺たちはダメなの？

お母さん、ここ何年も林原千代を好きじゃない理由がわからないんだ。彼女は母さんを助けて......」言葉を半分にして、彼は急に口を閉じた。

「搭乗しなければならない。帰ってからまた母さんに話す。お金が足りないなら俺に言ってください」

林原千代は林原光一を引っ張って急いで飛行機に乗り込んだ。歩きながら林原光一が先ほど坂本静香にそんなふうに話すべきではないと文句を言った。

「おばさんが私のことを好きじゃないのは当然のことよ。だってあの時私は口を滑らせてしまったんだもん」

「それは君のせいじゃないよ。そんなに小さな時に嘘をさせるわけにもいかないだろう？」

林原光一は不満そうに言って、坂本静香が私の言葉を聞いてからこんなになったと言った。

「全部菊池美奈のせいだ。彼女が死んだら、全部よくなるんだ」

本当に？

私はふっと笑った。

私は既に死んでいたよ。

坂本静香は長年、林原光一の父親、林原智也に暴力を受けていた。

林原光一は父親を責めないばかりか、坂本静香にこの家のために我慢するように言った。

私は林原光一と結婚してから一度目撃して、驚きで言葉もなくなった。

私は警察に通報して、警察官に記録してもらうように強く要求した。

林原光一は父親にも苦衷があると言って、彼らの家庭の問題だから警察官を介入させないように言った。

私はとても不思議に思って、林原光一にどんな苦衷があっても人を殴ってはいけないと尋ねた。

林原光一は答えてくれなかった。

私はそれからこっそりと坂本静香の説得を始めて、彼女に林原智也を離れて、新しい生活を送るように勧めた。

坂本静香は泣いた。彼女はこの半生で誰にも理解してもらず、私は初めて彼女に離婚を勧める同性だと言った。

私は坂本静香を迎えて私たちと一緒に住ませた。林原智也は知って追いかけてきて、もみ合いの中で、坂本静香は押されて机の角にぶつかった。

その時私はもう林原光一の言うことを聞かなかった。

通報して、また傷の鑑定もした。坂本静香が回復したらすぐに離婚訴訟を起こした。

私たちは勝った。坂本静香は大部分の財産を得て、老人ホームに入った。

そして林原智也は自分が面子もお金も失ったと思って、毎日酒を飲んでタバコを吸って肝臓病になって、病院に入った。

それから、林原光一は私を恨むようになった。

特に祝日の時、他の家族が団らんしているのを見て、私の鼻先を指して罵った。

「あなたが邪魔しなければ、うちもバラバラにならなかったし、今でも仲むつまじいのに」

林原光一と林原千代がビーチで海風を吹いている時、彼の携帯のアラームが鳴って、見下ろすと私の誕生日のリマインダーだった。

彼はこの時初めて今日が私の誕生日だと思い出した。

「お兄ちゃん、何を考えてるの？早く来て食べよう」

林原千代は両手で巨大なロブスターをつかんで、林原光一を呼んだ。

彼女は携帯の画面をちらりと見て、林原光一の方に寄って目をぱちぱちさせた。

「お兄ちゃん、お姉さんのことを思ってるの？じゃあ、お姉さんに電話して一緒に来て食べるように呼んであげようか。

おばさんもロブスターが大好きだったことを覚えてるよ。小さい頃、家族全員が集まると、おばさんはいつも私たち子供たちにロブスターをむいてくれてた」

林原光一の顔は暗くなった。「もういい。彼女のことを持ち出さないで」

林原千代はわざとらしく携帯を取り上げた。

「確か今日はお姉さんの誕生日でしょ。お兄ちゃん、お姉さんとけんかしないで、彼女をなだめてあげようよ。だっておばさんは彼女のことがとても好きなんだから」

林原光一は力を入れて、ロブスターのハサミをパキッと折って、思い切りかぶりついた。

「もう言っただろう。あの女のことを言うな」

林原千代がまだ何か言おうとしていると、林原光一の携帯が再び鳴った。彼は私からの電話だと思って切ろうとしたが、父親の主治医からの電話だと気づいた。

医者は彼に、林原智也の病状が悪化して、肝臓移植のために適合性検査をしなければならないと言った。

「あなたは彼の息子だから、成功の確率はとても高い」

林原光一の顔に再び恐怖が走った。

林原千代はすぐに航空券を予約して、林原光一に必ず適合性のある人を見つけてあげると約束した。

林原光一はとても感謝して、必ずまた休暇を取って彼女だけと一緒に過ごすと約束した。

彼は携帯の誕生日リマインダーを消して、「あの女は嫌なやつだ。彼女の誕生日に当たって不吉だ」

彼らが病院に戻ると、主治医は林原光一を引っ張って適合性検査をしに行った。

彼は不安そうに林原千代をちらりと見た。林原千代はすぐに遮って言った。「お兄ちゃんは小さい頃から体が弱いから、先に彼を連れて検査をしに行ってくる」

彼らは階段室に入った。

「お兄ちゃん、安心して。このことは誰にも言ってないから、あなたは適合性検査をしなくてもいい。血液に問題があるという報告書を偽造してあげるよ」

林原光一はとても感謝していて、次の瞬間林原千代に土下座しそうになった。

林原千代は階段室から出てきた。

林原光一は鼻歌を歌いながら階段を降りていった。階段室を出たら、頭にパンと叩かれた。

「この不孝な息子。お前の母親は逃げたし、お前も俺を見捨てようとしてるか？」

林原智也は林原光一の襟首をつかんで大声で叫んだ。周りの人々の視線が集まった。林原光一は顔が真っ赤になって、どこかに穴があれば入りたいほどだった。

仕方なく、彼は林原智也に押されて適合性検査を受けざるを得なかった。

数日後、林原光一が適合性検査に成功したと知らされた時、彼の顔には信じられないという表情が満ちていた。

「ありえない。俺は彼の......」言葉が終わらないうちに、林原光一は遠くから急いでやってくる林原千代を見ると、すぐに適合性検査の結果を袖にしまった。

林原千代は彼の顔色がおかしいのを見て、慌てて彼に何があったのか尋ねた。

「大丈夫。父親に叱られただけだ。俺が不孝だと言われた」

「お兄ちゃん、心配しなくていいよ。私がおじさんに言ってあげる。安心して。絶対に口を滑らせないから」

林原光一は林原千代の後ろ姿を見ながら、すぐに主治医のところに行って、早く手術を手配して、林原智也に肝臓を提供してほしいと要求した。

私は彼について一緒に家に帰って、彼が床にひざまずいて中からファイル袋を取り出すのを見た。

開けると、なんと親子鑑定報告書だった。

報告書の結果は彼と林原智也の親子関係の可能性が99.9%だった。

半空中に浮いている私は突然林原光一が言った苦衷が何を意味するのか理解した。

そして林原千代が言った秘密を守るとはどんな秘密なのかも理解した。

林原光一はベランダに一夜座っていた。

次の日、太陽が昇った時、彼は警察から電話を受けた。

「林原さん、奥さんの虹彩データと蝋人形館で見つかった女性の死体のデータが一致した」

警察はその蝋人形にされた女性の死体が私だと確認した。