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第2話

「お兄ちゃん、航空券を買ったわ。お姉さんってずっと海に行きたがってたじゃない。ちょうどお盆休みだし、一緒に行こうよ?

あ、そうだ、おじさんとおばさんも連れて行って、気分転換しよう」

林原光一の顔色は瞬間に暗くなった。「菊池美奈のバカを連れて行くな。彼女が起こしたトラブルはまだ少ないのか?

彼女を見るとイライラする。死んだらいいのに」

「でも私、航空券を買っちゃったんだよ......お兄ちゃんも知ってるよね、私の仕事って休みがなかなか取れないんだから」林原千代の声には泣き声が混じっていた。

「俺が君と行く」

電話の向こう側の林原千代はすぐに歓声を上げ、林原光一と一緒に食べたい海鮮を次々と口にした。

林原光一は微笑んで聞いていて、甘やかすように言った。「いいよ、いいよ。全部食べてみよう」

一ヶ月前、私も彼にこう言った。

私の誕生日が近づいてきて、林原光一に内陸で育った私を海に連れて行ってくれないか、ドキュメンタリーでしか見たことのない海鮮を食べさせてくれないかとお願いした。

彼は林原千代が飼っている猫がもうすぐ産むから、離れられないと言った。

「彼女の猫が子猫を産むことって私の誕生日よりも重要なの?」

林原光一は真剣にうなずいた。「千代ちゃんに約束したんだ」

彼は忘れていた。彼は私にも約束したのだった。

毎年私の誕生日に彼が私に何を願うか尋ねるが、私はいつも海に行ってみたいと言った。

毎回彼は来年は必ず私を連れて行くと約束した。

でも私が死んでも林原光一は私を海に連れて行ってくれなかった。

私はラウンジに座って、向かい側で搭乗を待っている林原光一と林原千代を見ていた。

林原千代は無邪気な顔で林原光一を見ていた。「お兄ちゃん、今回の蝋人形コンテストが延期になったって聞いたけど。どうして?」

林原光一の目に一瞬ためらいが走った。林原千代にあの血生臭いことを言うと彼女が耐えられないと思ったのだろう。

だが、彼は林原千代が外科の主刀医だとことを忘れてしまった。どんな血だらけの場面も経験しているのだった。

彼女はフライドポテトにケチャップを絞りながら、生き生きと手術中に患者の大動脈に誤って触れて、血が一メートル以上も飛び散ったことを語った。

「お兄ちゃん、何か私に隠していることがあるんじゃない?」林原千代は近づいて、手を林原光一の手の甲に置いて、無邪気な大きな目を瞬かせて、低い声で言った。「あのこと、私は誰にも言ってないよ」

林原光一の顔に一瞬恐怖が走った。そして蝋人形のことを話した。

林原千代は彼の手の甲をたたいて慰めた。「安心して。お姉さんはきっとこの頃海辺にいるよ。ちょうど私たち二人で彼女を探しに行って、サプライズをあげよう」

「別に菊池美奈のことなんか心配してない」林原光一は思わず口に出した。「彼女には永遠に会わないほうがいい」

林原千代の大きな目に笑みを隠し、謝罪と罪悪感があふれていた。「全部私が悪いの。お兄さんのモデルになりたいなんて思っちゃって......」

「君と何の関係がある?彼女がわがままなんだ。俺の蝋人形のモデルを何年もやっていて、まだ飽きないか?」

もしできるなら、私は笑い出してしまっただろう。

昔、林原光一は貧しくて、モデルを雇う余裕がなかったので、私を代わりに使った。

その後、彼はだんだん有名になって、蝋人形を作って私の誕生日プレゼントにした。なぜなら、それはお金がかからないからだった。

毎年私は同じような誕生日プレゼントをもらうのだった。

とっくに飽きていたが、言い出さなかった。二人の関係を壊したくなかったからだった。

林原千代は携帯を取り出して、私に謝ろうと言った。

しかし電話は長い間鳴っても出なかった。

林原千代はまぶたを下ろし、声には自責の念が満ちていた。「お姉さんはきっとまだ私のことを怒ってる」

林原光一は手を振って携帯を奪い取り、赤いボタンを押した。「彼女には君を怒る資格なんてない。彼女が死んだものとして」

残念ながら林原光一はまだ私が既に死んだことを知らなかった。

放送で搭乗案内が流れた。林原光一が立ち上がった途端、携帯が鳴った。

電話をかけてきたのは彼の母親、坂本静香だった。

「菊池美奈はもう何日も私のところに来てない。二人は一緒にいるの?何かあったのかしら?」

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