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第209話

Author: リンフェイ
結城理仁は彼女の両手を掴み、彼女の頭の両側に力強く押さえつけ、素早く彼女の唇を塞いだ。

今回のキスは全く優しいものではなかった。

彼は怒りを発散させているようだった。

まるで獣が噛みつくかのような強制的で荒いキスだった。

内海唯花は彼のこの行為に怒りが込み上げてきて、彼の唇を血が出るほど力いっぱい噛んだ。彼はその痛みでようやく彼女から離れた。

彼が呆然としている隙に、内海唯花は素早く彼を押し返し、床に突き落とした。そして彼女は跳ね起きると、彼からかなりの距離を取り、警戒した様子で彼を見ていた。

結城理仁はゆっくりと起き上がり、唇の血を拭った。

彼はとても機嫌が悪そうだった。

「結城さん、おかしくなったの?お酒を数杯飲んだだけで、逆にお酒に吞まれてるわよ」

結城理仁は陰気な顔つきで彼女を睨んでいた。

そしてまた冷ややかな声で言った。「もう一回おまえに聞くが、今日は本当に義姉さんの家に行っていたのか?」

「だから私はお姉ちゃんの家に……」

内海唯花はそう言いかけて止まった。

結城理仁は冷たく笑った。「どうした、何か思い出したのか?おまえと金城琉生はビストロ・アルヴァで食事してただろ。おまえらは楽しそうに笑って話して、あいつに料理を分けてやってたじゃないか。あの親しそうな雰囲気ときたら、俺たちよりよっぽど夫婦らしかったぞ。内海唯花、俺は前言ったよな。俺たちが契約結婚期間中は、おとなしくしていろと。俺がいながら、浮気など許さんぞ!

俺にも我慢の限界というものがある。また同じような真似をしたら、おまえに容赦しないからな!」

内海唯花はようやくどういうことなのか理解した。

なるほど彼が酒に酔って暴れるわけだ。

つまり、彼女と金城琉生が一緒に食事しているところを見られたわけだ。

また彼女が金城琉生を離婚後の次の男にしようとしていると疑い、彼女に仕返ししようとしたと。

普段、彼は彼女に襲われるのではないかと警戒しているくせに、今夜は逆に……なるほど彼の男としてのプライドが彼をあのようにさせたのか。

彼女は自分の唇を触った。彼にさっき噛みつかれてまだ少し痛みを感じた。

「あなた、私と金城琉生が一緒にご飯を食べているのを見たの?」

結城理仁は何も言わなかった。

「明凛も一緒にいるのを見なかった?あなたってどうしてそう変な方向に物事を考えるの
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    玲凰はため息をついた。そうだ、人生には後悔はつきものなのだ。……唯花は姉が借りているマンションへと向かった。そして、清水と陽を連れて、理仁と一緒に店に出勤した。彼女は理仁の車に座ってはいなかったが、彼が車で彼女の車の後に続いて送ると言ってきかないので、それをおとなしく受け入れるしかなかった。陽は母親と一緒にいたことで、だいぶ落ち着きを取り戻していた。それに清水に遊んでもらうこともまた慣れたので、唯月はようやく働き始めることができたのだ。試用期間はまだ終わっていないので、ずっと休みを申請するわけにもいかなかった。店に到着してすぐ、理仁は唯花に催促した。「エタニティリングを早く」唯花「……つけるわ、今すぐつけるから。今後はずっとこの手につけ続けるって約束するから」そして、彼女はレジの前に行き、鍵で引き出しを開けた。あの相当に価値のあるエタニティリングはその引き出しの奥の方におとなしく眠っていた。それを見た理仁の顔色が闇夜の如く暗くなっていた。彼女はなんと適当なのだろうか。唯花はその指輪を取り出すと、再び薬指にはめ直した。昨夜、とりあえず応急措置でつけていたあのゴールドの指輪は、この日家を出る前にすでに外してあった。「ほら、確認した?」唯花はわざとらしく自分の手を彼に見せびらかした。理仁はこれでようやく満足してくれた。「ほらほら、早く会社に向かって。送れちゃうわよ」理仁「……」いつもいつも、早く早くと彼を追い出そうとするよな!彼女はちっとも彼のことを恋しいと思ってくれないのか。「陽ちゃん」明凛が店の奥から出てきて、陽が来たのを見ると、笑顔で向かってきて清水のもとから陽を抱き上げた。そして、理仁に挨拶代わりに少し会釈をした。本来は妻からキスの一つでももらってから出勤するつもりだったが、明凛が出てきたので、この淡い期待は悲しくも消し去るしかなかった。理仁は淡々と「どうも」と明凛に返事し、挨拶を済ませてから、すでに自分の近くからは去っていたあの人にもう一回意味深な目線をやり、背中を向けて店を去っていった。数歩進んで、また足を止め、振り返って唯花のほうを見た。明凛が唯花がつけているあのダイヤの指輪を見てきたので、唯花は手をまっすぐと伸ばして親友にそれをじっくりと見せていた。理仁

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    「これこそ私があなたを気に入っているところなの。人によっては相手が結婚しているかどうか無視して好きになったら真実の愛だとかなんとか言って、人の結婚をめちゃくちゃにしようとする人間もいるでしょう。ああいう人って、私本当に嫌いなのよね」彼女が言ったことは心から出て来た言葉だった。義妹である姫華の人となりがかなり良いからこそ、彼女は夫側の家族たちと同じように、まるで血の繋がりがあるかのように義妹に接しているのだ。それがもしクズのような人間であれば、彼女はこのような人間の相手などしたくない。「お義姉さん、私はもう大丈夫だから、もう一度寝てちょうだい。お兄ちゃんにも、私のことは心配しないでって伝えて。私だって別に結婚できないような女じゃないんだからね」「わかったわ、じゃあ私は部屋に戻るわね。あなたももう一度寝直したら?」「私は寝なくていいや。後で唯花を誘って遊んでくる。そうだわ、昨日うちのパティシエが作ったあのお菓子とても美味しかったわね。残ってるかどうかわからないけど、唯花と明凛の分を包んで持っていってあげようっと。あの子たちは二人とも甘いものが大好物だから」それは彼女の義姉と同じだった。神崎家には本来パティシエは雇っておらず、ずっとシェフがお菓子作りも担当していた。しかし、理紗が結婚して神崎家にやってきてから、彼女の兄が特別に理紗のために腕の良いパティシエを雇ってきたのだ。理紗のために様々なお菓子を作る専属パティシエだ。理紗は笑って言った。「私も食べてみたけど、とっても美味しかったわ。パティシエにはまた新しく今日デザートをお願いしていたの。下におりてみて、きっとできているはずよ。多めに唯花さんたちに持って行ってあげて。もし彼女が好きなら、毎日届けさせてもいいわよ」内海唯花がもしかすると夫の従兄妹かもしれないので、直接はまだ会ったことはないが、唯花に対して好感を抱いているのだ。「彼女はきっと好きよ」唯花と明凛の話題になり、姫華は話す時に笑顔を浮かべていた。あの二人はどちらも食いしん坊だから、確かに親友になるのは自然のことだろう。性格もだいたい似ている。話題が逸れた後、姫華は理仁が結婚していることはさほど気にしなくなったので、理紗は安心して自分の部屋に戻っていった。玲凰は部屋で妻が戻って来るのを待っていた。「姫華

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第566話

    理紗は義妹のことを可哀想に思い、しっかりと抱きしめ慰めた。「姫華ちゃん、結城さんは本当に結婚したみたいだし、もう彼のことを考えるのはおしまいにしましょう。この世には結城さん以外にもたくさん良い男性がいるわ。あなたが彼のことを完全に諦め切れたら、彼よりも良い男性がいるってことに気がつくはずよ。姫華ちゃん、私はあなたがとっても良い子だって思ってるの。結城さんがあなたのことを好きにならなかったからって、自分のことを否定しないで。私の話をしっかり聞いて。結城さんのことは忘れましょう。私とお兄さんがあなたに相応しい相手を探すのを手伝うから。あなただけを愛してくれる素敵な男性をね。将来、結城さんなんかよりもずっと幸せになれるって保証するわ。結城さんみたいに冷たい人と結婚した女性が幸せになれるとは限らないし。考えてもみて、誰があんなふうに毎日毎日氷山のように冷たい人と一緒にいたいと思う?」姫華はきつく下唇を噛みしめ、必死に涙を堪えていた。理紗は彼女がそんなふうに唇を噛んで出血しないか心配し、我慢できず夫の悪口を吐いた。「玲凰の大馬鹿者、こんな朝早くに私を悪者に仕立て上げるだなんて。姫華ちゃん、やめてちょうだい、そんなふうに噛んだら自分を傷つけちゃうわ。つらいなら思い切り泣いていいの。泣いて気持ちを吐き出すのよ。お義姉さんは余所者じゃないでしょ、家族なんだから、泣きたいなら泣いて。そうしたほうが気持ちが楽になるんだから。そうだ、私と一緒にショッピングに出かけましょうよ。たくさん買い漁るの。あなたが好きなものは何だって買っちゃうんだから。それか、あなたのお友達を誘って出かけてもいいじゃない?」姫華は手で目をこすり、唇を噛むのをやめた。笑おうとして笑ったが、その笑みは泣き顔よりも悲痛な表情を見せていた。彼女は「お義姉さん、私は大丈夫だから。前から知っていたことだし。あの日、理仁が結婚指輪をつけているのを見て、わかってたことだもの」と言った。「お義姉さんが言うことは正しいわ。この世界にはたっくさんイイ男がいるものね。それは理仁一人だけじゃないんだもの。私も別に彼じゃないとダメってわけじゃないし。彼がもう他の女性の夫になったんだっていうなら、彼への気持はもう諦めるわ。これでよかったの、彼がようやく私を完全に諦めさせてくれたわ」理仁が結婚指輪をしている

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第565話

    唯花が、生まれ変わって太陽のように暖かくなった理仁のおかげで心まで温かくなっている時、姫華のほうは朝起きてすぐに冷水を浴びせられたかのように心まで冷え切っていた。理仁の裏工作によって、姫華は全く唯花の投稿した写真を見ることはなかったが、彼女の義姉が見せたのだった。義姉は姫華が起きたばかりの時にドアをノックして中に入ってきた。そして、義姉は何も言わずにある写真を開いて彼女に見せた。姫華は起きたばかりだったので、義姉がこうする意味をよく理解できていなかった。それで彼女は義姉に尋ねた。「お義姉さん、誰がこんなラブラブっぷりを見せつけてきたの?わざわざ私に見せにくるなんて、彼氏がいないことを皮肉ってる?」神崎家の当主玲凰の妻である神崎理紗(かんざき りさ)は静かに彼女を見つめ、ひとことも発しなかった。実際、理紗は姫華が真実の愛を追い求めることに賛成していた。結城理仁はどこをとってもとても優秀な人間だから、義妹にとても相応しいと考えていたのだ。しかし、どうしようもないことに、結城理仁は全くこの義妹のことを好きではなかったのだ。義妹も諦めようと努力をしてみたことはある。しかし、数年間かけてもやっぱり諦めきれず、大胆にも公開告白し、理仁を追いかけ始めたのだった。それがまさか結城理仁が突然結婚するなどと誰が思いついただろうか。だから彼女は結城理仁はわざと義妹に結婚していると見せかけるために指輪を見せて諦めさせようとしているのだと思っていた。しかしこの日の朝、彼女は夫から送られてきた理仁のインスタのスクショを受け取ったのだった。理仁のその写真投稿には一文字もコメントをつけていなかったが、誰が見ても彼がインスタでもう結婚したと宣言したことがわかるものだった。玲凰はこの写真を理紗の携帯に送り、姫華に見せたのだった。つまり姫華に結城理仁のことを完全に諦めろと言いたいのだ。しかし理紗は夫に、こんな朝早くに姫華にこんなものを見せたら心に悪い影響が出るんじゃないかと言った。玲凰は姫華は遅かれ早かれ知ることになるからと返事した。結城理仁がこの写真をインスタにアップすれば、星城の上流社会ではこのことがあっという間に広まり、隠せることではなくなるからだ。彼らは姫華の家族として、他人が彼女に教える前に姫華に見せたのだ。姫華が家族が自

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第564話

    「本当に気が利く優しい人ね」唯花は服を手に取り、すぐにはベッドをおりなかった。片手で服を抱きかかえ、もう片方の手で携帯を取り、いつものように先にインスタを開いて確認した。昨夜アップしたストーリーズには数人「いいね」を押してくれていた。しかし、そのストーリーズを公開している人は近しい友人などに限っていた。業者が提携している店にだけ売るように、彼女は誰にでも見せるのではなく、自分のプライベートな空間をしっかりと守っていたのだ。ストーリーズなら、どのみち24時間で削除されてしまうし。昨晩アップしたストーリーズに初めに「いいね」を押した人は理仁だった。唯花はそれを見て驚いた。彼ら夫婦がお互いにインスタをフォローした時に、彼女はストーリーズを彼に対して公開するにしていただろうか?たぶん当時、彼がフォローしてくれた時に、特に彼に対してストーリーズを非公開設定にはしていなかったのだろう。結婚手続きをしてからというもの、彼女のハンドメイド作品やベランダに咲く花以外に特に何もストーリーズに投稿していなかったことを思い出した。唯花はそれでホッと胸をなでおろした。幸いにもインスタで理仁の悪口を言っていなくてよかった。その時、理仁がドアを開けて入ってきた。「目が覚めた?」彼はスポーツウェアを着ていた。聞くまでもなく、彼は外で朝のジョギングをしてきたのだ。「寒くなったのに、あなたもこんな朝早くに起きてジョギングだなんて」「習慣になってしまったからね」理仁は部屋のドアを閉めた後、彼女のほうへ歩いてきて、ベッドの端に腰をおろし、心配そうに彼女に尋ねた。「お腹はまだ痛い?」「もう大丈夫よ」唯花は服を抱えて携帯を手に持ちベッドからおりた。「今すぐ着替えたりしないよね、私が先に洗面所に行ってくるから」「先に使って。俺は朝ごはんを作りに行くから」唯花はそれを聞いて足を止め、彼のほうへと向いて尋ねた。「あなた、問題ない?」聞いた理仁は顔を暗くさせた。唯花は彼のその表情の変化に気づき、急いでいった。「そういう意味じゃなくて、美味しい朝ごはんが作れるかって聞きたかったの」理仁は立ち上がり、彼女の前までやって来ると、手を彼女の整えていない乱れた髪に当て、それを梳かしてあげながら低い声で言った。「俺に問題があるかないかは、君が実際

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