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第568話

Author: リンフェイ
玲凰はため息をついた。

そうだ、人生には後悔はつきものなのだ。

……

唯花は姉が借りているマンションへと向かった。そして、清水と陽を連れて、理仁と一緒に店に出勤した。

彼女は理仁の車に座ってはいなかったが、彼が車で彼女の車の後に続いて送ると言ってきかないので、それをおとなしく受け入れるしかなかった。

陽は母親と一緒にいたことで、だいぶ落ち着きを取り戻していた。それに清水に遊んでもらうこともまた慣れたので、唯月はようやく働き始めることができたのだ。

試用期間はまだ終わっていないので、ずっと休みを申請するわけにもいかなかった。

店に到着してすぐ、理仁は唯花に催促した。「エタニティリングを早く」

唯花「……つけるわ、今すぐつけるから。今後はずっとこの手につけ続けるって約束するから」

そして、彼女はレジの前に行き、鍵で引き出しを開けた。あの相当に価値のあるエタニティリングはその引き出しの奥の方におとなしく眠っていた。

それを見た理仁の顔色が闇夜の如く暗くなっていた。

彼女はなんと適当なのだろうか。

唯花はその指輪を取り出すと、再び薬指にはめ直した。

昨夜、とりあえず応急措置でつけていたあのゴールドの指輪は、この日家を出る前にすでに外してあった。

「ほら、確認した?」

唯花はわざとらしく自分の手を彼に見せびらかした。

理仁はこれでようやく満足してくれた。

「ほらほら、早く会社に向かって。送れちゃうわよ」

理仁「……」

いつもいつも、早く早くと彼を追い出そうとするよな!

彼女はちっとも彼のことを恋しいと思ってくれないのか。

「陽ちゃん」

明凛が店の奥から出てきて、陽が来たのを見ると、笑顔で向かってきて清水のもとから陽を抱き上げた。

そして、理仁に挨拶代わりに少し会釈をした。

本来は妻からキスの一つでももらってから出勤するつもりだったが、明凛が出てきたので、この淡い期待は悲しくも消し去るしかなかった。理仁は淡々と「どうも」と明凛に返事し、挨拶を済ませてから、すでに自分の近くからは去っていたあの人にもう一回意味深な目線をやり、背中を向けて店を去っていった。

数歩進んで、また足を止め、振り返って唯花のほうを見た。

明凛が唯花がつけているあのダイヤの指輪を見てきたので、唯花は手をまっすぐと伸ばして親友にそれをじっくりと見せていた。理仁
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有泉保江
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