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第3話

家に入ると、佐藤成は優しく中村由美をソファにそっと下ろした。

母は慌ててテレビをつけ、ぎこちなくも由美の大好きなドラマをちゃんと探し出した。

父は無言で、テーブルに置かれていた果物を彼女の手元にそっと運んだ。

「由美、ここで少しテレビを見ててね。お母さんが由美の好きなご飯を作ってくるから!」

普段はほとんど料理をしない母が、タブレットを手にして料理の作り方を調べ始めた。

中村由美はただソファに座って、佐藤成から食べ物をもらいながら、楽しそうにテレビを見ているだけ。それだけで、家の空気は彼女を中心に回っている。

私は見慣れたこの家を見ながら、心の中に溢れ出る悲しみを抑えきれなかった。

ここは、私の家だったはずなのに、家のどこを見ても、私を震えさせる辛い記憶が染みついている。

新しい家に引っ越してきた時、自分の部屋が持てることがただ嬉しかった。

中村由美の部屋の3分の1しかないけれど、それでも、ようやく物置部屋ではなく、ちゃんとした部屋で寝られるのが嬉しかった。

でも、食事の時間に階下へ降りると、十歳の中村由美が私を呼び止めた。

「美咲、そんなに嬉しい?」

彼女が何を言いたいのか分からなかったけれど、子供の頃から彼女にかなわなかった私は、反射的に一歩後退してしまった。

次の瞬間、彼女は不気味な笑みを浮かべ、「美咲お姉ちゃん!」と叫びながら、自ら階段から転げ落ちていった。

私は彼女がどうなったのか心配で、急いで駆け下りた。

でも、彼女は母の腕の中にすがりつき、青白い顔をして、無力そうに呟いた。

「お母さん、美咲お姉ちゃんを責めないで。私が大きな部屋を譲るから」

その一言で、私はまるで罪のある人間というレッテルを貼られてしまった。

母は私を強く叩き、耳鳴りの中に怒りの声が響いた。

「美咲、あんた人を殺す気か? どうしてこんな恩知らずの娘がいるの?

自分勝手で嘘ばかりついて、今じゃこんなにひどいことをするようになったのか?

命の恩人の娘に手を出すなんて、どういうつもりよ!」

私は必死で首を振り、「彼女が自分で落ちたんだ」と反論した。

だけど返ってきたのは、痛みで叫ばずにはいられないほど強烈な打撃だった。

藤の鞭が私の体に打ち付けられるたび、痛みに耐えきれず地面でのたうち回った。

「ちゃんと人間として生きられるのか! 話せ! ちゃんと生きられるのか!」

お母さん、本当に、痛いよ。

それ以来、母は私の言うことを一切信じなくなった。

私は再び、窓もない暗い物置部屋に追いやられた。

今日、母はたくさんの料理を作っていた。

「由美、これはお母さんが上等な海鮮を使って作ったスープよ。いい香りがするでしょ!

由美はタニシ麺が大好きなのに、外で食べるのは汚いって言ってたでしょ」

母は田中由美にご飯をよそいながら、優しく語りかけていた。

「この大きなロブスター、全部あんたにあげるよ!

いつも由美は良いものを食べるのをためらって、美咲に分けてあげてるんだからね。

美咲なんか全然感謝もしない。由美が半分でもしっかりしてくれてたら良かったのに」

私は無感情にその豪華な料理を見つめていた。

母が自分でタニシ麺を作ることがあるなんて、そしてその香りを褒めるなんて嘘みたい。

あの時、私は妊娠していて、アレルギーがないことを確認してもらった上で、インスタントのタニシ麺を作ってもらったことがあった。

けれども、ちょうどその時田中由美が生理中で、母は怒鳴りながら「家が臭くなる!」と私を外に追い出した。

あの日は真冬で、風が顔に刺さるようで、心にまで刺さった。涙がタニシ麺に混ざって、一層辛かった。

もし魂が飢えることがあるなら、私はこの豪華な食卓に向かって吐いていただろう。

塩気の効いたチーズカニ、タニシ麺のスープに浸ったロブスター、新鮮な蒸しガーリックオイスター。

海鮮アレルギーの私は、笑いが止まらないほどだった。

そして残ったのは蒸し豚とエビの料理。

私は気管支炎があって、豚肉を食べると体が冷える。

この食卓で私が食べられるのは、茹でたレタスだけだ。

もし私がここに座って、黙ってレタスを食べていたら、母のヒステリックな怒鳴り声が聞こえてきそうだ。

「美咲、また誰に可哀そうな振りしてるの? 食べたくないならさっさと部屋に戻って、私たちの気分を害さないで!」

田中由美は海鮮が大好きで、母は私が海鮮アレルギーであることを覚えていない。

海鮮を食べるたびに、由美はわざわざ私に最も良い部分を分けてくれる。

私が「海鮮アレルギーだ」と言うと、母の怒鳴り声が返ってくるか、スプーンが私の頭に飛んでくるかのどちらかだった。

いつだって、そうだった。

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