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第2話

私は翡翠のブレスレットを嫌そうに横に放り投げたが、久佳は自ら私の袖を引っ張った。

「瞳さん、行かないでください。あなたがそうすると、修一さんが私を責めてしまいます。翡翠のブレスレットは修一さんがあなたのために特別に用意したものなんです」

「私が嫌いでも構いません。私が自ら身を引きます。修一さんとは本当に何もありませんから」

私は久佳の方を振り向いた。口では修一との間には何もないと言っていたが、その目は満足げな光を帯びていた。

同じ女性として、私は彼女の心の中を察していた。要は、私が去る前に修一に好印象を残そうとしているのだろう。

修一に、自分は私とは違い、水のように優しい女性だと思わせたいのだ。

私は久佳に対する嫌悪感をさらに抱いた。彼女が私の袖を掴む腕を振り払おうとしたその時、彼女は突然後ろに倒れ込んだ。

前田修一は驚き、すぐに彼女を抱き留めた。

次の瞬間、久佳の目から涙がぽろぽろと溢れ、泣き顔になっていた。

「瞳さん、あなたが私を嫌いなのはわかっていますが、手を出すのはよくないですよ」

私が何か言う前に、前田修一は私に跪いて久佳に謝るように命じた。

「久佳が親切に贈り物をしたのに、なぜ彼女を突き飛ばしたんだ?早く謝れ!」

本当に、人は言葉を失ったときに笑うものだ。つい先ほどの出来事は、彼もはっきりと見ていたはずだ。

私の力は微々たるもので、私たちは体型や体重もほとんど同じだ。彼女を倒すほどの力があるはずもなかった。

私は前田修一に掴まれた手を振りほどこうと力を入れたが、彼の力はあまりにも強かった。

私は冷たい視線で彼を見つめた。今日、彼は愛する初恋のために正義を貫こうと決めているようだ。

私の頑なな態度に謝罪の意志がないのを見て、前田修一は徹底的にやることを決めたようだった。

彼はテーブルのそばにあるケーキを手に取り、私の方へ歩いてきた。

その瞬間、彼の目に宿る感情は私への憎悪に満ちていて、まるで私たちが敵同士であるかのようだった。

「自ら謝らないのなら、仕方がないな」

次の瞬間、前田修一はケーキを私の頭に押しつけ、力づくで私を地面に跪かせた。

ケーキからの濃厚なマンゴーの香りが鼻をつき、息が詰まりそうになった。

私はマンゴーにひどいアレルギー反応を起こし、ショック状態になって病院に運ばれる可能性が高い。

そして、前田修一は私の致命的な弱点をよく知っている。彼のこの行為は、私の命を半分奪うも同然だった。

ケーキが溶けると同時に、私の心も砕け散っていった。

濃厚なマンゴーの香りのケーキが肌に触れると、次の瞬間には肌にアレルギー反応が現れ始めた。

私はマンゴーにアレルギーがあるが、これは息子が一番好きだったケーキだ。

まさか、息子への愛がいつの日か私自身を傷つける刃となるとは思ってもみなかった。

「瞳さん、大丈夫ですか?今、本当にひどい状態ですね。早く起きてください、許してあげますから」

久佳は見下ろしながら私を見て、その言葉はまるで私が自らひざまずいているかのようだった。

「あなたが私を苦しめるなら、もう共倒れするといい!」

私は立ち上がり、彼女の手首を掴もうとしたが、再び前田修一に制止された。

「狂った女だな。どうやら俺は普段あんたに甘すぎたようだ!」

前田修一は両手で私の頭と手を押さえつけ、力ずくで私に久佳に何度も頭を下げさせた。

額から血が滲み出るまで、前田修一は私を放そうとしなかった。

血痕と涙がケーキと混ざり合い、この瞬間、私はより一層惨めに見えた。

最初はまだ力が残っていたが、体のアレルギー反応がひどくなるにつれて、ついに私は地面に倒れて意識を失った。

前田修一はまだ怒りが収まらないようで、嫌悪感を込めて私を一蹴りした。

その後、彼は執事に私を病院に連れて行くよう命じた。

「この冷酷な女を病院に運べ。ここで死なせるな、厄介なことになるからな」

目を覚ましたとき、自分が病院にいることに気づいた。体のあちこちにアレルギー反応がまだ残っていた。

携帯のロック画面には、前田修一からのメッセージが表示されていた。

「今回はお前が自分から久佳に謝罪したことにしておく。次に同じことをしたら、夫婦の情を無視しても責めるな」

胸に苦い思いが込み上げた。彼の心の中に、果たして私という妻は存在しているのだろうか。

結婚当初、私はペアリングをオーダーメイドしようとしたが、彼は「そんなものは好きじゃない」と言った。

それでも今では、他の女性と薬指にペアリングをはめている。

彼は私が話しすぎるのが嫌いだと言い、仕事には静かな環境が必要だと主張していた。

それ以来、私は徐々に自分の性格を変えた。いつか彼が振り返って私と息子を見ることを期待して。

あの年、山登りをしている時、彼は足を滑らせ転倒し、息子は彼を助けるために片足を犠牲にした。

それでも彼は結局、「大丈夫だ」と軽く言っただけだった。

過去の出来事が鮮明によみがえり、感情は喉につかえ、涙がすでに襟を濡らしていた。

疲れた体を引きずりながらベッドから降りた。今日は息子の葬儀の日だ。

彼のために風水の良い場所を選ばなければ。次の世では、こんな家庭に生まれないことを願って。

これが、母親として彼のためにできる最後のことだった。

立ち上がろうとした時、看護師が検査結果を持って私のそばに来た。

「前田さん、こんにちは。報告によると、妊娠三ヶ月ですが、感情の高ぶりと体力の低下があるため、日常の養生には注意が必要です」

看護師の言葉を聞き、無意識に手を下腹に当てた。

この子はちょっと時期が悪かった。もう二度と、彼に前田修一のような父親を持たせるわけにはいかない。

私とこの子の縁は、きっと今日で終わりを迎えるだろう。

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