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第30話

西境の明王、西境軍の大将、一人の下、万人の上に立つ、権力の頂点に君臨する人物。

彼はゆっくりと歩み寄り、その存在感は非常に強大だった。

吉兆料亭の外では、すべての人々が息を止めていた。これが明王、五軍の大将である。

以前はテレビでしか見たことがなかったが、今、彼を目の前にして、その圧倒的なオーラに皆が震え、身動きさえもできなかった。

中村貞志と数人の警備員は地面に跪き、震えていた。

唐沢梅も地面に座り込んで泣いていたが、明王が近づくと泣き止み、大きく息をすることさえ恐れた。彼女はニュースでこの人物を見ており、白石哲也以上に恐ろしい存在であることを知っていた。

黒木静も同様に、恐怖で動けなくなっていた。

皆が恐怖に満ちた表情を浮かべていたが、唯一、江本辰也だけは冷静だった。

明王、彼はかつて一度会ったことがある。それは彼が大将になる時だった。

「竜…」明王は歩み寄り、江本辰也に目を留め、その目には驚きが一瞬現れた。彼は口を開こうとしたが、江本辰也の視線を感じ取り、すぐに察して周囲を見渡した。

そして、地面に跪いて震えている中村貞志を見て、淡々と尋ねた。「どうした?」

「大、大将、い、いえ、何でもありません」

明王はこの状況を一目で理解し、厳しく叱責した。「この管轄区域内での騒ぎは禁止だ。違反すれば厳しく処罰する。消えろ」

「は、はい」

中村貞志は即座に立ち去り、まるで蹴飛ばされたボールのように転がりながら去って行った。

警備員たちも同様に、転がるようにその場を去った。

その時、数台のジープが近づいてきた。

明王は江本辰也を一瞥し、何も言わずにジープに乗り込み、そのまま立ち去った。

彼が去った後、吉兆料亭の人々はようやく息をつくことができた。

「こ、これが新任の五軍大将か?」

「なんて強いオーラだ。彼が現れた瞬間、胸に石が乗せられたような感じがして、息ができなくなりそうだった」

「明王、西境の大将か。今や五軍の大将でもある。この世の頂点に立つ、本物の大人物だ」

「なんて堂々とした男だ」

明王の車が遠ざかっていくと、吉兆料亭の外はようやく騒がしくなった。

そして、黒木静は江本辰也にこれ以上の厄介事を押し付けることを恐れていた。幸いにも明王が怒らなかったため、黒木家は一瞬で滅びることを免れた。

「江本辰也、唐沢桜子、覚えてい
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