ヌェーヴェルは、実の兄弟ですら家督を狙い企てを起こす因子として認識している。しかし、幼い頃から兄弟の様に育ち、裏表なく接してくるノウェルの好意だけは疑うことがなかった。
ヴァールス家の嫡男として生まれたヌェーベルは、下心に塗《まみ》れた好意を押し付けられて育った。それ故に、いつもでも優しく愛情に満ちていた母と、バカ正直で真っ直ぐなノウェル以外に、心から信じられる者などいない。愛のさえずりを薄ら寒いと感じ、幼少の頃から一蹴してきたヌェーベル。それでも、ノウェルが傷つけば痛める心くらいは持ち合わせている。
などと自覚していないヌェーベルは、面倒極まりない問題の解決を疑う事などなく、山積みの仕事をこなす事で頭が一杯になっていた。*** 離れでは、ノウェルの母上が日課の薔薇摘みをしている。ノウェルの母・ローズは、公に知られていないが吸血鬼の末裔である。つまり、本人は知る由もないが、 ノウェルもその血を引いているのだ。
我が一族の特異体質に関係するのだろう、吸血鬼と縁が深かったヴァールス家では、先の戦い以前から親交があった。なので、本家では吸血鬼にまつわる特殊な事情の管理を国から任されている。 今はもっぱら、俺の担当になりつつある管轄。希少価値の高い生き残りと言っても、正体を隠して暮らしている吸血鬼は人に我がヴァールス家は、元より吸血鬼に好まれる血を有しているらしい。普通の人間よりも血の濃度が濃くて栄養価が高いのだとか。 本来、吸血鬼との関わりは本家しか持たない。だから、本家の人間以外は、吸血鬼の存在など噂程度でしか認識していない。だが、稀にローズのようにヴァールスの血筋と結ばれることがある。そういった場合に、支援や管理をするのも本家の役割なのだ。 俺の場合、アイツらとの関係はしくじっただけの話で、愛でも恋でもない不毛なもの。本家の面汚しもいいところだと思っている。 だが、本当に情けないけれど、今更どうしようもない。こんな身体に成り下がった今、すぐにアイツらと離れるなど気も身体も狂ってしまう。 だから、せめてもの罪滅ぼしに、今はできる仕事をこなしていくしかないのだ。 それにローズの話はいつだって興味深い。人も人外も関わりなく、学ぶ事が多いのは有難い事だ。 何より、ローズは理性的で夫であるウィルを一途に愛している。その姿は人間と相違ない。本能にのみ従って生きているアイツらとは、同じ種族と思えないほど違う。「日々改良を重ねているのですが、味や成分など、本物の血液との差異は埋まってきていますか?」「そうですわね。ほとんど差異はないのですけれど····ただ1つだけ、どうしようもない事がありますの」 頬を赤らめ、詰んだ薔薇に口付けて目を伏せるローズ。 淑女に対して愛らしいという表現は失礼かもしれないが、まさにそういう雰囲気を醸し出している。まるで、その薔薇に恋をしたためているかのようだ。「何ですか?」「とても甘い“恋の成分”と呼ばれるものです」「それはまた····。恋とは随分と厄介ですね」 本気なのか冗談なのか、見て取れないのが厄介でしょうがない。「ふふふ、そうかもしれませんね。でもね、これが何よりのスパイスになるのですから譲れませんわ」「そうですか。これは幾ら研究を重ねても··
「ヌェーヴェル!」 本館の方へ戻ると、ノウェルが駆け寄ってきた。そして、わざわざ俺の手を握り、鬱陶しいほど瞳を輝かせる。「またお前か。さっき会っただろうが」「何度だって会いたいさ。それより、母様には会えたのかい?」「ああ、用も済んだし帰るよ」 見るからにしょぼくれるノウェル。子犬のような潤んだ瞳に、僅かながら罪悪感を覚えてしまう。「君はいつも忙しそうにしているね。そうだ、この薔薇を君に」「こういう物は女にくれてやれ····って、これはお母上の薔薇か?」「そうだよ。とても甘い香りがするだろう?」 確かに、嗅ぎ覚えのある香りだ。だから、そうなのかと確かめたわけなのだが。「そう言えば、君からも同じような香りがするね。ああ、ヌェーヴェルはまさに“薔薇の君”だ。我が家はこの薔薇で埋め尽くされているから、鼻が慣れてしまったのかな。今の今まで気づかなかったよ」 近い。とにかく近い。首筋を嗅がれた時はヒヤッとした。アイツらに齧《かぶ》りつかれる時のような感覚に陥り、身体が勝手に硬直してしまう。 それよりも、これは偶然なのか? いや違う。この世に偶然など存在しない。起こる事象は全て必然だ。 ノウェルの言う、俺から発している甘い香りと、この薔薇の香りが同じだとするのなら、吸血行為と関係があるのではないか。俺たちのそれが、恋だのと戯れ言を吐《ぬ》かすつもりはないが、全くの無関係という事もないだろう。 そうするとだ。もしやこの薔薇、ローズが言っていた『恋の成分』とやらが含まれているのか? これは一体どういうことだ。くそっ、考えがまとまらない。「ノウェル、この薔薇は····お母上はいつからこの薔薇を?」「そうだなぁ····10年くらい前かな。確か、父様が研究に明け暮れて、家に帰らなくなった頃からだよ」「···&m
寂しさを紛らわせる為、ローズは薔薇を育て始めた。結婚前、ウィルが会う度に贈っていた思い出の花。名と瞳の色と同じ、紅い薔薇《ローズ》を。 そして、ローズが丹精込めて育てた薔薇には、他とは決定的な違いがあった。それが原因で、この薔薇は特有の匂いを放っていたのだ。その匂いは、吸血鬼にしか嗅ぎ取れないもので、人間の俺やウィルには知り得ないものだった。「彼の血液をね、薔薇に吸わせてみたの。なんとなく、本当にただ、なんとなく····」 どちらかの血液だとは思ったが、やはりウィルのものだったのか。なるほど、俺にも嗅ぎ取れたわけだ。 それは、ある可能性を秘めていると証明することになる。認めたくはないけれど、現に俺にも嗅ぎ取れてしまったのだから。まぁ、それは追々考えるとしよう。「主人から採取していた血液を飲んで、グラスに残った数滴を水に混ぜたの。薔薇《はな》に想いを馳せてしまったのかしらね。薔薇を彼だと思って、大切に育てたかったのかもしれないわ」 と、ローズは言った。どういう原理なのかはわからないが、水やりの時にウィルの血液を少し垂らした水をやると、甘い“恋の成分”の匂いがするのだそうだ。 何はともあれ、これで研究が飛躍的に進展する筈だ。 ローズのそれは病と言っても、吸血を我慢しすぎた所為で摂食障害を起こしているだけなのだ。彼女が、ウィルを守る為に食事を拒んだ結果だ。 分家の人間の血液生成能力は、本家に比べればかなり劣る。食事として吸血を続ければ、ウィルの体には相当な負担がかかるだろう。 従来ならば、本家の血筋の者を充てがうのだが、ローズが頑なにウィル以外の血は吸わないと言い張ったのだ。それならば作ろうと相成ったわけだ。ローズの病は、血液を充分に摂れば治るものらしい。 ウィルの血は、血液過多になるのを防ぐため採血したものしか飲まない。ローズが、ウィルを危険に晒さないため、固く心に決めた事なのだ。 そもそも、吸血鬼といえど普通の食事を食べられないわけではない。ただ、味を感じず栄養にもならないので必要がないのだとか。まったく、厄
俺が人様の役に立っている間も、奴らは俺の吸血に明け暮れていた。翌日に響かないよう加減できなければ、容赦なくお預けをくらわせると言ってやったら、多少なりとも加減を心掛けていたようだ。 だが、数日もすれば結局だった。ノーヴァは相変わらず血を啜り放題だし、ヴァニルは吸血に留まらない絶倫っぷり。 まぁ、期待はしていなかったが。それでも、1週間くらいは頑張れよと呆れてしまった。 そんな中、ヴァニルは数日に一度、吸血だけで終える日がある。あまり想像したくないが、それにはきっとノウェルが関わっているのだろう。 都度、記憶を弄られてさぞ大変だろうに、ワケも分からぬまま身体が変化していると気づい日には····。ノウェルの心境を想像しただけでゾッとした。 そちらに回す手がない今、ヴァニルを問い詰めないよう徹したけれど、そろそろ潮時ではないかと感じている。心底面倒だが、今抱えている仕事が片付いたら対処するとしよう。*** 戯れを終え、ヌェーヴェルの部屋から出てきた2人。 ノーヴァはつまらなそうに唇を尖らせ、どうにも様子のおかしいヴァニルに尋ねる。「まだノウェルにちょっかい出してんの?」「····貴方が言ったんでしょう、邪魔者だと。だから、私が処理しようとしてるんじゃないですか」 ゲンナリとした表情で言うヴァニル。しかし、気怠そうな表情の裏に隠した甘美さに、気がつかないノーヴァではなかった。「そう····ま、好きにしなよ。でもさ、ヴェルが怪しんでるよ」「そうですね。気をつけます」「まったく、あんなの馬鹿でもわかるよ。絶倫のお前が血を吸ってはい終わり。そりゃ気づくでしょ」「はは、確かに。と言っても、ヌェーヴェルに言われた通り加減していただけなんですけどね。抱き潰すと怒るくせに、彼の我儘も困ったものです」 ヴァニルは、ふと高い天井を見上げ、大きな溜め息を漏らした。
深夜2時を回った頃、ノーヴァはヌェーヴェルの部屋へ忍び込んでいた。 数時間前、ヴァニルに気を失うまで犯されたヌェーヴェル。今日も今日とて死んだかのように眠っている。 これは好機《チャンス》と言わんばかりに、ノーヴァはベッドへ潜り込む。 しばしヌェーヴェルの寝顔を眺め、前髪をサラリと指で攫った。 月明かりに影を落とすほど長いまつ毛や薄桃色の薄い唇、稀に見る端整な顔立ちだ。ノーヴァは、吸い込まれるように瞼へキスをした。「んん····」 ヌェーヴェルがぼんやりと目を覚ます。ノーヴァは、弛んだ口角をきゅっと引き締めた。「やぁ、ヌェーヴェル」「ん····なんだノーヴァか。······寝ろ」 寝ぼけたヌェーヴェルに、ギュッと抱き締められるノーヴァ。小気味よく背中をトントンと叩かれ、完全に寝かしつけの体勢へ持ち込まれた。ウトウトと瞼が落ちてゆく。 ノーヴァはハッと気づく。添い寝をしに来たのではない事に。ましてや、寝かしつけられるなど言語道断。子供扱いの極みではないか、と。 再び眠って重くなった腕を退かし、布団へと潜り込むノーヴァ。ズッと履物を下ろし、ヌェーヴェルのモノを咥える。「······んっ····はぅんっ!?」 ヌェーヴェルは快感に驚き、今度こそしっかり目を覚ました。投げ飛ばす勢いで毛布を捲り、自分のブツを咥え込むノーヴァを凝視する。「おっ、おまっ、お前! 何シてんだよ!? 寝込みを襲うとか····バカっ! んぅっ····やめっ」「····うぅ
ノーヴァは俺に跨り、豊満な躯体をこれでもかと密着させてくる。動揺している俺の顎へ指を掛け、クイッと持ち上げた。「こっちのほうが喜ぶのかなって思ったんだよ。男に興味無いとか言ってたらしいし」「い、言ったけど、そういう事じゃ····」「あ。それとねぇ、昔の約束なんてボク知らなぁい」 普段と変わらない口調なのに、艶やかな微笑を浮かべてねっとりと話すだけで、随分と雰囲気が変わるものだ。 「知ってんじゃねぇか」 呆れて言葉遣いが荒れた。貴族らしい振る舞いを心掛けているのだが、コイツらと関わっていたらつい素が出てしまう。「はぁー··お前さ、何考えてんの? 何がしたいんだ? 俺の尊厳イジめんじゃねぇよ····」「尊厳··か。んー······ヴェルって童貞だよね?」 俺の顔をまじまじと見つめ、溜めに溜めて放った一言がコレ。何なんだコイツは。 何でどいつもこいつも、デリカシーの欠片も無いんだ。そもそも童貞の何が悪いってんだ。くだらない女にくれてやるくらいなら、一生童貞のままでいいじゃないか。「な、なんで知ってるんだよ」「わぁ、本当に童貞だったの? ウケる〜」「····出てけ」「はぁ?」「出てけよっ!! どうせ俺は童貞だよ! 顔が好きだの、中身とのギャップだの、金目当てだのってロクな女がいねーんだからしょうがねぇだろ! 俺だってさっさと卒業してぇよ! でもそんなの好きな女とヤリてぇだろ! 童貞が何だよ、悪いのかよ!?」 あぁ、盛大に心の内をぶち撒けてしまった。終わりだ。絶対に笑われる。もういっそ殺してくれ····「じゃあ、ボクで卒業していいよ」「&mid
──コンコンッ 静かなノックの音に驚く。俺は、ノーヴァにつられて扉の方を見た。「やめておきなさい、ノーヴァ」 いつの間に来たのか、開け放たれた扉へ寄り掛かったヴァニルがノーヴァを制止した。 卒業の機会《チャンス》と覚悟を奪いやがって、と言いたいが、声を荒らげるような雰囲気ではない。ヴァニルの深刻そうな様子に、心臓がドクンと嫌な跳ね方をする。「ヴァニル····どういうつもり? 何邪魔してくれてんの」 ノーヴァが睨みをきかせて言った。けれど、その鋭い視線にも怯む事なく、ヴァニルは意味のわからない事を言い出す。「今のまま彼と交われば、確実に血の味が変わりますよ」「······何それ。そんなわけないでしょ」「まったく、貴方は未だ自覚がないんですか?」 やれやれと溜め息を吐くヴァニル。ムッと頬を膨らませているノーヴァと交互に見て、俺はイラつきをぶつける。「お前ら、さっきから何の話してるんだよ。俺にはさっぱりなんだが」「お前は知らなくていいよ」「え····俺、当事者じゃないの?」「ははっ、しっかり当事者ですよ。それはもうガッツリと」「だよなぁ。そうだよなぁ。で、俺は知らなくていいと?」 ノーヴァは苛立ちながら、何故かまたモジモジし始めた。頬を赤らめて、どういう感情なんだよって表情《かお》をしている。 ヴァニルは、ノーヴァを揶揄うように薄ら笑み、呆れた目を俺たちに向ける。「ヌェーヴェル、貴方は我々の事をどう思っていますか?」「どうって、何だよ唐突に。漠然としてるな····」「ヴァニル、はっきり言いなよ。甘い血は、こ、恋の証なんでしょ」「ふふっ、そうですよ。ノーヴァ、貴方の初恋ですね」「ハツコイ·&mid
甘い血を求めるのは吸血鬼の本能。ローズが言う恋の成分を含んだもの、それを探知する為の能力らしい。 けれど、ほんのりと甘く絶品なのは片想いの間だけ。両想いになると、喉が焼けるほど甘く感じるようになる。曰く、恋い慕う人間の愛を手に入れる代償なのだと言う。 それはおそらく、人間と吸血鬼が交わる禁忌への戒めでもあるのだろう。混血は禍いをもたらすという、古代人の意味不明な迷信に過ぎないが。現に、ノウェルは特段禍いの種になどなっていないのだから。 だが、より甘くなるなら代償とは言わないのではないだろうか。吸血鬼の感性はよく分からん。「なぁ、なんでもっと甘くなるのがいけないんだ? 吸血鬼って甘いの苦手なのか?」「いえ、本当に喉が焼けるんですよ」「はぁ!? いや、待て。ローズの喉は焼けてないぞ。そんな話、一度も····」 俺が取り乱すと、ヴァニルは不機嫌そうに顔を歪めた。「チッ··ローズって誰ですか? その方の事は知りませんが、きっと喉は焼け爛れている筈ですよ」「そんな事····」 愕然とした俺を見て、歪めていた表情を戻したヴァニル。今度はとても穏やかな表情で、そして、慈しむような声で囁くように言葉を置く。「それでも飲み続けるという事は、よほど番を愛しているのでしょうね」「番って····。つぅか、喉が爛れて飲めるものなのか?」 半信半疑な俺を見て、ヴァニルはフンッと鼻を鳴らした。「まぁ、吸血鬼ですし回復はお手の物ですから」「なるほどな」 納得している俺に、ヴァニルは注釈を添えるように言う。「····ただ、尋常ではない痛みに耐えている筈ですけどね。何度も自ら焼く覚悟、それはもう至極の愛ですよ」 うっとりとした表情を浮かべ、胸の前で指を絡めて語るヴァニル。
何度射精を受けたのかわからないが、俺が返事もままならなくなった頃、ようやくノーヴァが俺のナカから出ていった。「ノウェルも挿れたいですか?」 ヴァニルが、イェールに抱き潰されていたノウェルに聞く。「はぇ····ヌェーヴェルに、挿··れる····挿れ··たい」「はは。そんな状態で挿れられるんですか? 随分ヘロヘロで可愛らしくなってますけど」 嫌味を言うヴァニルへ、イェールが代わりに減らず口を叩く。「可愛く仕上がってるでしょう? オレ、気づいたんですよねぇ。ノウェルさんがそこの男たらしに挿れらんないくらい、抱き潰せばいいんだって。ね、ノウェルさん。もう勃たないですよね?」「んぐぅぅ····イェール、もう、奥抜くの、やだぁ····」「あっはは! イェールは見込みがありますねぇ。貴方は我々寄りだ。愛の奴隷となり存分に楽しみなさい」「アンタに言われなくても、ノウェルさんは俺のモノにしますよ」 ノウェルがイェールのものに····やはり、それは嫌だな。 俺は、遠退いていく意識を手放さないよう踏ん張りながら、心が呟いた言葉をそのまま口から零した。「ノウェルは、お前のモノには····ならない······」 ヴァニルとイェールが、ドスを利かせ『は?』と声を揃えた。「ヌェーヴェル、それは、どういう意味だい? だったら僕は····誰のモノなんだい?」「お前は、俺のモノだろ。違うのか?」 ノーヴァと入れ替わりに、再び俺のナカ
俺以外に笑顔を振り撒くことに少し腹が立つのは、ノウェルの言う通り俺がヴァニルを好いているからなのだろうか。これが、嫉妬というものなのか。「ほら、ヌェーヴェルもノウェルの方を向いてください。貴方の心がノウェルへ向いたとしても、今貴方のナカに居るのが誰なのか、しっかりとここで感じてください」 ヴァニルは俺の下腹部を握って言った。意図して爪を立てられ、皮膚にくい込んだそこからタラッと違う流れる。「イァ゙ァッ····」 痛みと快感が同時に走った。そこを刺激されると、俺の身体はイクように躾られているのだ。「やっ、あぁっ♡ ぅあ゙あ゙ぁぁっ!! 爪っ、痛゙いぃ! やめっ、腹を握るなっ──んはぁっ····ヴァニル、嫌だ、そのまま奥抉るなぁぁ!!!」 ここから、ヴァニルの容赦のない責めが始まった。 ノウェルと向かい合わせにされ、互いの漏らす嬌声を耳元で受けながら、腹の奥をぐぼぐぼ抉られ続ける。ケツも腹も麻痺してきて、段々と感覚がなくなり、叩きつけるような衝撃が脳まで痺れさせる。 それなのに、快感がやまないのは何故なのだ。「ヌェーヴェル、息しててくださいよ。まだまだ、これからなんですから、ねっ」「ンンッ、イ゙ッ、にゃぁぁぁぁっ!! もうらめらって、奥やらぁ!! も、もぉけちゅの感覚ないんらって。けちゅおかひくなってぅからぁ!!」「ヌェーヴェル、落ち着いて。大丈夫だから····ん、ふぅ····はぁ··ン····」 ノウェルが甘いキスをしてくる。どうしてくれよう、声を出さないと苦しいのに、口を塞がれてしまった。「あぁ··、締まりますね。喋れていないのも可愛いらしいです。ヌェーヴェル、ノウェルとのキスは気持ちイイですか?」「んっ、はぁっ&m
月明かりが眩い夜更け。俺に跨るヴァニルの顔がよく見える。無感情に作られた笑顔が、身震いしてしまうほど恐ろしい。「おや? ヌェーヴェル、震えてませんか? 寒いですか?」「違····お前が怖いんだよ」「そうですか。自業自得ですから、仕方ありませんね」「なぁ、何が気に食わなかったんだ? ノウェルと出掛けた事か? それとも、煽った事か?」 震える声で聞く俺を、蔑むような冷たい眼で見下ろす。愛だの恋だのと言っていた甘い雰囲気は何処へやら。 吸血鬼たる冷酷さが剥き出しになっている。その無機質な瞳からは、背筋が凍るような殺意を感じた。「全部です。慰みにノウェルを選んだ事も、あんな厭らしい顔で帰ってきた事も、全部。ですが、貴方は私を妬かせたかったんですよね。えぇ、充分妬いてますとも。その結果がこれです。満足ですか?」 饒舌に嫌味を垂れるヴァニル。嫉妬深さを知っていながら煽った、俺の落ち度である事は間違いない。けれど、それにしたって限度というものがあるだろう。 ヴァニルを部屋に迎え入れた途端ベッドへ放り投げられた。挙句、ヴァニルが腰の上に跨っているから、蹴って抵抗する事もできない。「ヴァニル、あまりヌェーヴェルに酷いことをするなよ。瀕死のヌェーヴェルを見るのは嫌なんだ」「大丈夫ですよ、ノウェル。この人、死にかけて感じてますから。貴方が、虫の息のヌェーヴェルを見るのが辛いのは知ってます。いつも目を伏せてますものね。しかしまぁ····ヌェーヴェルを連れ出した事、怒ってないわけじゃないですからね」 冷ややかな目でノウェルに言い置くと、ヴァニルは俺のケツをろくに解しもしないで捻じこんできた。 自分のブツのデカさを考えろ。そう言ってやりたかったが突然与えられた痛みに耐えきれず、思わずヴァニルに抱きついてしまった。「い゙っ··ンァ····ヴァニル、痛い··&mid
抵抗する余力もなく自ら穴を拡げ、勝手に振れてしまう腰がノウェル誘う。ノウェルを受け入れる体勢が、完璧に整ってしまったじゃないか。「いくよ。根元まで全部、いっきに挿れるからね。最奥で僕を受け止めて。ハァ····ンッ゙··愛してるよ、ヌェーヴェル····ヌェーヴェル····」「ひぎぃ゙っあ゙ぁ゙ぁあ゙あ゙ぁ!!! らめぇっ、腹裂けてるっ!! やらぁっ、腹あちゅい! ノウェルの精子あづいぃぃっ!!!」「んぐっ····そんなに可愛いと、射精が止まらないじゃないか」「バカッ!! どんらけ出すんらっ! あ゙ぁ゙ぁ゙~~っ····噴くの、止まんにぇぇぇ····」「ンッ、あぁっ······このままもう1回、いいかい?」 と言いながら、もう腰を振っているじゃないか。「ひぃっ、いいわけねぇだろ! ぬ、抜けよ····」 聞いたくせに、俺の言葉を無視するノウェル。その後も、欲望のままに俺を犯し尽くした。性欲で言うと、ノーヴァとヴァニルの間くらいだ。 俺は失神を繰り返し、気がつくと窓から朝陽が差し込んでいた。「ノウェ··もう、朝ら····いつまでヤッてんら······」「本当だ、心地いい朝だね。。すまない、君に夢中になりすぎていた。本当に、もうこれで最後にするからね」「嘘らろ····まらヤんのか&
ノウェルは屹立したそれを入り口に馴染ませると、俺の反応を見ながらゆっくり挿入した。「んぁっ····前立腺、ゆっくり擦るな····」「これ、気持ちイイね。あぁほら、どんどん溢れてくる」「勝手に出るんだから、しょうがないだろ。あぁっ! 待て、奥はダメだ」「すまない、痛かったかい?」「違う····すぐに、その、イッてしまうから····」「そうか、痛くないのなら良かった。けど、奥はもう少し解してから貫いてあげるね」「ふあっ、やめろって! 本当に、止まらなくなるからぁっ」 ノウェルは予告通り、奥をグリグリとちんこの先で解すと、一息に差し貫いた。「んあ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁ!! やっ、ああぁっ····ダメだ、やめっ、ひあぁっ··止まんねぇ····」 潮を噴くのが止まらなくなり、ベッドも俺達もぐしょぐしょになってしまった。非常に気持ち悪い。これは何度やらかしても慣れない。 なのに、ノウェルは嬉々として奥を抉り続ける。「はぁ····ンッ、ヌェーヴェル、後ろから突きたい。そのまま体勢を変えられるかい?」 なんて聞きながら、強引に足を持ち上げて俺を半回転させる。俺はへばりながら、腕で支えてなんとか身体を捻じった。「お前のこと··だから、俺の顔を、見ながら··ヤりたがると··思ってた。んあ゙ッ····奥、も、やめろぉ····」「よく分かっているね。君の顔が見られないの
ノウェルの間抜けな微笑みを見て心臓が跳ね、抱き締めたいと思った。これは、俺がこいつに恋をしているからなのか。本当にこの気持ちの正体が、バカ2人とノウェルへの恋心なのだろうか。 到底認めたくないが、症状がノウェルの定義した“恋”には当てはまる。だとしたら、これは由々しき事態だ。性別どころか人数まで、俺はどこまでいい加減で不誠実なのだ。 こいつらに本気で心を奪われる事など、有り得ないと確信していたのに····。 これまでの俺は、女に限らず他人を信用しないで、家督を継ぐ事ばかり考えていた。だから、何かに心を揺さぶられようが、それはひと時の迷い事でしかない。そう思っていたのだ。 だからこそ、今まで真剣に考えてこなかった。恋などというものを、まさか自分ができるとも思っていなかった。憧れだけを残し、政略結婚をするのだろうと踏んでいたのだから。 こんなにも他人を自由に想う事ができたなんて、正直戸惑いを隠せない。しかし、ようやく向き合う決心をしたのだ。これまでの凝り固まった考えなど捨て、柔軟にこいつらと向き合いたい。だが····「俺は、お前の定義でいくとマズいんだ。ノウェルだけじゃなくて、ヴァニルとノーヴァにも恋をしている事になる。こんな不誠実なものが恋なわけないだろう」「確かに不誠実かもしれないね。けど、全部恋でいいんだよ。君は、僕達それぞれを想ってしまった。それだけの事さ。いずれ、僕を選んでくれればそれでいいんだよ」 愛情に見せかけた、傲慢でエゴイスティックな笑顔を俺に向けたノウェル。妖艶とも不気味ともとれるその厭らしい笑みに、俺はまた鼓動を高鳴らせる。「そんなの····選べるかわかんねぇ··から、約束なんてできない」「今はそれでもいい。君の心がほんの僅かでも、僕に向いてくれているのなら」 ノウェルは優しいキスをする。ノーヴァとヴァニルは滅多にしない、唇を重ねるだけのキス。キスって、こんなにも
俺は、ノウェルをイェールに盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ」 俺の頬に手を添え、迷わずに言い切ったノウェル。俺は、その言葉に安心してしまった。「イェールには申し訳ないけれど、君と愛を交わす為に利用させてもらっているだけなんだから。ヌェーヴェル、安心しておくれ。僕はいつだって君の思い通りに動くよ」「そ··んな事····俺が言える立場ではない。イェールの事はノウェルが決めればいい。でなければ、イェールに不誠実だろう」 ノウェルの目を見て言うことができない。どれほど卑劣な考えがよぎっているのか、自分でわからないはずがないのだから。「はは····君は本当に真面目だね。そして狡い。自分の気持ちは見ないフリしてしまうのだから」「そんなつもりじゃ····いや、そんな事はない。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた」 ノウェルから逸らしている視線を、さらに落として続ける。俺はこれを、自身への戒めとして口にするのだ。「クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ。俺は、俺が許せない····」 ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」「······あぁ」 俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだ。だからなのか互いに緊張を隠せず、妙な遠慮を孕んでいる。「お前が挿れるのか?」「君、僕
感情が昂って喚いた俺を馬鹿にするように、ノーヴァは鼻で笑って言う。「ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やだよね」「ぶふっ····ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ。幾らくだらない理由だからって····」「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」 2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。 心の傷を嘲笑われたの事や男として終わっていた情けなさ、他にもぐるぐる巡る様々な感情で気持ちがぐじゃぐじゃだった。 嫁探しは白紙に戻したい。けれど、跡を継ぐ事は諦めない。などと、そんな勝手が許されるはずはない。百も承知だ。 それでも、もう決めた事。後継問題は先送りにして、跡を継ぐ事に専念するしかない。後の事は継いでからどうにかすればいいのだから。 このくだらない実験に、意味があったのかは分からない。俺が傷ついただけな気もする。だが、できる事とできない事が分かっただけでも儲けものだ。今はそう思う事でしか、自分を慰められなかった。 どのくらい経ったのか、いつの間にか涙は止まり呆然と天井を眺めていた。何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。 コツコツと遠慮がちに窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。 俺は無気力に窓を開け、思考など手放してノウェルを迎え入れた。「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」「あはは、意地悪を言わないでくれよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど····ってヌェーヴェル、もしかして泣いていたのかい?」 心配そうな困り眉になり、俺の目尻を親指で拭う。乾い
俺は、嫁探しの話を白紙に戻そうと模索していた。あまり時は無い。早々に理由を考え、どうにかして父さんを言いくるめなければ。 そう思っていた、見合いを終えた日の夜。「ノーヴァ、今日は勘弁してくれ。本気で言い訳を考えにゃならんのだ」「話はわかったけどさ、何にしても試しておかなきゃダメでしょ」 と、ノーヴァは俺のちんこを弄りながら言う。「試すたって····この間、お前のケツでイけたじゃないか」「お尻じゃ赤ちゃんデキないでしょ。バカなの? それに、ヴァニルに挿れられてたし。女でイク気ないじゃん」「うっ··あ、あるわ! で····なぜ手でするんだ? また女体化するんじゃないのか?」「あー····初めから女の姿がいい?」「まぁ、な。どうせ童貞は奪われたんだ。もう気にしなくていいなら、楽しめるものは楽しまなきゃ損だろ」「ヴェルさぁ、ホント欲に忠実すぎない? かつて出会ったどんな人間より素直に貪欲だよ」 褒めているのか貶しているのか知らないが、ノーヴァは呆れ顔で女に変身し、いよいよ女の身体をいただく流れになった。にしても、この緊張感は何だ。 どういうわけか震えが止まらない。震えている事がバレないよう慎重に触れてゆく。その所為か、思うように事を運べない。 悔しいが、ノーヴァの手解きに従い進めてゆく。「ん····そろそろ挿れていいよ。ヴァニルは手を出しちゃダメ。実験が終わるまで、上手に“待て”できるよね?」「わ、わかってます····」 俺の背後に近づいてきていたヴァニルは、ゴクッと息を呑み引き下がった。ノーヴァのこんなにも破廉恥で妖艶な姿を見れば、誰だって従わざるを得ない。 あまりにも残酷な結果だったの