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甘い血-2

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-03-19 06:00:00

 我がヴァールス家は、元より吸血鬼に好まれる血を有しているらしい。普通の人間よりも血の濃度が濃くて栄養価が高いのだとか。

 本来、吸血鬼との関わりは本家しか持たない。だから、本家の人間以外は、吸血鬼の存在など噂程度でしか認識していない。だが、稀にローズのようにヴァールスの血筋と結ばれることがある。そういった場合に、支援や管理をするのも本家の役割なのだ。

 俺の場合、アイツらとの関係はしくじっただけの話で、愛でも恋でもない不毛なもの。本家の面汚しもいいところだと思っている。

 だが、本当に情けないけれど、今更どうしようもない。こんな身体に成り下がった今、すぐにアイツらと離れるなど気も身体も狂ってしまう。

 だから、せめてもの罪滅ぼしに、今はできる仕事をこなしていくしかないのだ。

 それにローズの話はいつだって興味深い。人も人外も関わりなく、学ぶ事が多いのは有難い事だ。

 何より、ローズは理性的で夫であるウィルを一途に愛している。その姿は人間と相違ない。本能にのみ従って生きているアイツらとは、同じ種族と思えないほど違う。

「日々改良を重ねているのですが、味や成分など、本物の血液との差異は埋まってきていますか?」

「そうですわね。ほとんど差異はないのですけれど····ただ1つだけ、どうしようもない事がありますの」

 頬を赤らめ、詰んだ薔薇に口付けて目を伏せるローズ。

 淑女に対して愛らしいという表現は失礼かもしれないが、まさにそういう雰囲気を醸し出している。まるで、その薔薇に恋をしたためているかのようだ。

「何ですか?」

「とても甘い“恋の成分”と呼ばれるものです」

「それはまた····。恋とは随分と厄介ですね」

 本気なのか冗談なのか、見て取れないのが厄介でしょうがない。

「ふふふ、そうかもしれませんね。でもね、これが何よりのスパイスになるのですから譲れませんわ」

「そうですか。これは幾ら研究を重ねても··
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     俺は、ノウェルをイェールに盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ」 俺の頬に手を添え、迷わずに言い切ったノウェル。俺は、その言葉に安心してしまった。「イェールには申し訳ないけれど、君と愛を交わす為に利用させてもらっているだけなんだから。ヌェーヴェル、安心しておくれ。僕はいつだって君の思い通りに動くよ」「そ··んな事····俺が言える立場ではない。イェールの事はノウェルが決めればいい。でなければ、イェールに不誠実だろう」 ノウェルの目を見て言うことができない。どれほど卑劣な考えがよぎっているのか、自分でわからないはずがないのだから。「はは····君は本当に真面目だね。そして狡い。自分の気持ちは見ないフリしてしまうのだから」「そんなつもりじゃ····いや、そんな事はない。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた」 ノウェルから逸らしている視線を、さらに落として続ける。俺はこれを、自身への戒めとして口にするのだ。「クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ。俺は、俺が許せない····」 ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」「······あぁ」 俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだ。だからなのか互いに緊張を隠せず、妙な遠慮を孕んでいる。「お前が挿れるのか?」「君、僕

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   試み-2

     感情が昂って喚いた俺を馬鹿にするように、ノーヴァは鼻で笑って言う。「ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やだよね」「ぶふっ····ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ。幾らくだらない理由だからって····」「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」 2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。 心の傷を嘲笑われたの事や男として終わっていた情けなさ、他にもぐるぐる巡る様々な感情で気持ちがぐじゃぐじゃだった。 嫁探しは白紙に戻したい。けれど、跡を継ぐ事は諦めない。などと、そんな勝手が許されるはずはない。百も承知だ。 それでも、もう決めた事。後継問題は先送りにして、跡を継ぐ事に専念するしかない。後の事は継いでからどうにかすればいいのだから。 このくだらない実験に、意味があったのかは分からない。俺が傷ついただけな気もする。だが、できる事とできない事が分かっただけでも儲けものだ。今はそう思う事でしか、自分を慰められなかった。 どのくらい経ったのか、いつの間にか涙は止まり呆然と天井を眺めていた。何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。 コツコツと遠慮がちに窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。 俺は無気力に窓を開け、思考など手放してノウェルを迎え入れた。「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」「あはは、意地悪を言わないでくれよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど····ってヌェーヴェル、もしかして泣いていたのかい?」 心配そうな困り眉になり、俺の目尻を親指で拭う。乾い

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