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第6話

とっさのことだったが、私は机の上を手探りし、最後に手が電話機の受話器に触れた。考える間もなく、受付へ電話をかけ、同時にスピーカーモードをオンにした。

「もしもし?こちら受付です」電話の向こうから佐々木愛里の声が聞こえた。

中村大輝はその声を聞いて明らかに体が硬直し、徐々に私を放した。

その隙に逃れ、電話をつかんで冷たく言った。「佐々木愛里、あなたの副院長を連れて私のオフィスから出て行ってください。私の許可なしには二度と踏み入れないで!」

言い終わると、私は電話をガチャリと切り、中村大輝を一瞥することもなく、オフィスのドアを開けて冷たく言った。「出て行け!」

中村大輝の顔色は恐ろしいほど暗く、私を深く見つめ、一言も発せずに去って行った。

その後の数日間、私は二ヶ月後に迫った全国歯科研究大会の準備に全力を注いだ。

この大会は私にとって非常に重要だった。父は国内でも著名な歯科専門家で、業界での評判も高い。この大会で私が優れた成果を出せば、父が国内の一流医科大学で客員教授として推薦してくれる予定だ。

そうなれば、最先端の歯科技術に触れられるだけでなく、大学で専門論文を発表することもでき、将来のキャリアに役立つはずだ。

考えてみると皮肉なものだ。あと二ヶ月で私は顧釗と結婚するはずだったのに。

しかし、損切りできてよかった。今はもっと重要なことがある。

その日、大会用のパワーポイントを半分ほど作成し終え、コーヒーを入れようと給湯室に向かおうとしたとき、廊下から慌ただしい足音と女性の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

気になって顔を出すと、廊下の中央に中年の女性がひざまずいて、心の底から泣き叫んでいた。「先生!お願いです!私の息子を助けて!彼が一体どうなったのか教えてください!」

その絶望的な叫び声は、聞いているだけで胸が痛くなるほどだった。

私は急いでその女性の元に駆け寄り、周りの人々をかき分けてその場に向かった。彼女が歯科診療室の前でひざまずいており、床にはいくつかの医療器具が散乱していた。その診療室は高野先生のものだった。高野先生は普段は大雑把だが、業務能力は高い。どうしてこんなことが起こったのだろうか?

急いで診療室に入ると、高野先生が汗だくで8、9歳頃の男の子に心肺蘇生を施しているのが見えた。その背後の隅には、顔色が青白い許如綰が立っており、手を強
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