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第2話

亜季が私の手を握った。

私は彼女に首を振って、

「大丈夫、痛みなんて怖くないよ」

実際にはとても痛かったが、靖彦に傷つけられた痛みと比べたら、それほどでもなかった。

二人きりの病室で、亜季は私を慰めた。

「あいつらはクズ同士だよ!無視しよう!

そうだ、孝志は海鮮アレルギーだって何度も言ってるのに、海鮮粥を作って来たわ!

もう別れたって言ってるのに、何かおかしいと思わない?」

私は笑った。

「彼はただ気にしてないだけだよ。他の人と付き合ってみたらわかるよ」

亜季は深く頷いた。

「まあ、もういいわ」

彼女はタブレットを開いて私にビデオを見せた。

「最近面白いブロガーがいてさ、通りすがりの人々にいろんな味の団子を食べさせて、中身はバラエティ豊かなんだよ!すごく面白いんだよ!」

彼女は慣れた手つきでブロガーのページを開くと、ちょうどライブ中だった。

目の前の通行人こそ、彼女の忙しい元カレ、孝志だった。

「これを食べたら、カメラに向かって何を言いたい?」

孝志は梅味噌を詰めた団子を一口で食べ、苦しそうな顔をして眉をしかめたが、それでも強がって言った。

「次の人にはバラの団子を食べさせてあげたい。そして、それが佳奈であってくれることを願ってるよ!佳奈、頑張って!」

彼はカメラに向かってハートを作るジェスチャーをした。私が画面をスクロールしようとしたとき、亜季が止めた。

彼女はすぐにコメント欄に書き込んだ。

「佳奈はバラの団子が好きだってよく知ってたくせに、自分の彼女が海鮮アレルギーだって覚えてないなんて!」

すぐにそのコメントは流れて行った。私は亜季を慰めた。

「私たちの生活に彼らは必要ないよ」

亜季は何度も頷いたが、ブロガーのフォロワーは四百万以上いて、孝志はすぐに見つかった。

「黒羽家の御曹司だよ!金持ちの二世だね!」

「黒羽のお坊ちゃんに祝福された女の子は幸せだね!」

「お坊ちゃん、いつから働けるか楽しみにしております!」

ネットユーザーたちはジョークを飛ばし、孝志はすぐに有名になった。誰かは佳奈が羨ましいと言っていた。

佳奈自身もソーシャルメディアで一枚の写真を投稿し、キャプションには「バラの団子を食べることができて幸せだわ!願いが叶うとはこのことね!」と書いてあった。

写真には綺麗に飾られたバラの団子があり、その隣には孝志が座っていた。

それを見た亜季は鼻で笑った。

「ふんっ、ドハマリだね!」

私は噴き出して笑った。亜季の言う通りだった。二人とも佳奈の周りを回っていて、どちらが勝者なのかわからない。

あるいは、どちらも勝者ではないのかもしれない?

私は気にしなかった。

靖彦が佳奈と婚約した日、私たちの関係は終わったと思っていた。退院したら彼のものを持って帰ろうと思っていた。

交際中に靖彦がくれたプレゼントは高価なものもいくつかあったが、その恩恵は受けないことにした。

四十八時間後、私は一般病棟に移された。担当医が来てチェックをしたとき、私を見てため息をついた。

「あなたは本当に生命力があるね。ガラスの欠片が心臓に刺さっていたんだよ。もう少し深ければ命に関わっていたかもしれない。でも、今後は気をつけて。感情はコントロールするように。体を大切にね」

「ありがとうございます、先生」

医師が部屋を出たとたん、靖彦からの電話が鳴った。

見ると事務所からの電話で、驚いた。この番号をブロックするのを忘れていたので、受け取るしかない。

「全部見たろう!あの日、佳奈がいなかったら婚約パーティーは成立しなかったんだよ!もう我慢できなくなったなら、戻ってきなよ!」

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