主人公「私」こと夜鷹 空(ヨダカ ソラ)。 私にとっての至福の時間。 それは家の横庭でごはんを食べたり焚き火をするといった庭でキャンプ。 メインディッシュは自然の中で、キャンプ飯を食べる。 ある時は星空観察、ある時は焚き火をしながら珈琲を嗜む。 キャンプを通じて感じたスローライフな空間を書き記した、ショート日常的ストーリー集
View More——四月半ば頃……。(せっかく暖かくなったと思ったのに、また数日の間少し寒くなるのかぁ……)仕事の休憩時間、何気なく窓の外を見ようとレースカーテンをチラッと開けてみる。ヒュッ……!(ひゃっ! 冷たっ!)雲がなく晴れているものの、窓からひんやりと伝う冷気がまだ残っていた。この感じだときっと、外はもっと寒いのかもしれない。私のルームウェアすら、まだモコモコとした冬用の厚手を着ているくらいだから。(うーん、今年は相当、寒い日が多い気がする……)もちろんこの日も外には出ず、長時間ずっと部屋に篭りっぱなしだ。仕事でパソコンとにらめっこしては、原稿と照らし合わせて修正箇所など確認している。部屋の中をずっと篭っていたら、息苦しさもだんだん感じてしまう。少しでも空気の入れ替えを兼ねて息抜きが必要だった。だがそろそろ四月の後半へ差しかかるのに山奥では、まだ寒さが残っている。エアコンの暖房がいまだ手放せないのである。(そろそろ、暖房の要らない時期になってほしいものだけど……まだまだ程遠そうだな)我が家の住んでいる山奥の気候は、北海道並の気温まではいかない。むしろ昼過ぎになると、平地とは変わらないほど暖かいくらいだ。けれど朝と夜のみ一桁台の温度といった地方だから、ここだけポツンと冬の感覚が残っている。とにかく今の季節は春だとしても、まだ三寒四温の状態が激しく続いている感じだ。恐らく大気中にいる寒気の気持ちから読むと、まだ居座りたい気持ちなのかもしれない。(ん、そういえば……)今日のニュースで見た天気予報では、確か雲がないほど澄んだ青
(誰からだろう……。あっ、恭弥さんからLIMEが来た) 恭弥さんとは、三つ歳上の旦那さんのことなのだ。たまに「恭さん」と呼んだりもする。彼は、フォトグラファーとしての活動が主な仕事。時に取引先から、グラフィックデザインの注文も請け負っている。仕事上、風景など色んな場所で撮影をするために出張や別宅兼作業場での泊まり込みが多い。だから毎夜、LIMEでチャットメッセージを送り合う。たまに時間が合って、長く話せそうな時はテレビ通話もしている。(さて、届いたメッセージは……)恭弥さん「今、晩御飯を食べてるのかな?」私「うん、庭で一人焼肉してる。今日のご飯は豚肉の塩レモン香草焼きにした」恭弥さん「あっ、美味そう! てか、この前スーパーで買ったもの?」私「そうだよ。恭弥さんが最初にオススメしてくれたものだけど、美味しかったからリピートした」恭弥さん「そっか、それは良かった(笑)」こんな感じで、だいたい私と恭弥さんとのメッセージはたわいのないもの。日々、平凡な会話を交わしている。(この時間にメッセージを送るってことは、今……休憩中かな? でも嬉しいなぁ……)ちなみにこのタープや焚き火台等の道具は、一年前に元々二人で一緒にするために買い揃えたもの。恭弥さんは昔からアウトドアに詳しかった。私にタープの立て方や焚き火の火起こしなど、一から教えてくれた。それに加え彼は、元から料理が得意である。キャンプ飯も美味しく作ってくれたりとプロ並みの域だ。実は、庭でキャンプするようになったキッカケがある。それは、私の心の呟きから始まった。(キャンプ、してみたい……)ある日、私が毎週見ているものがある。深夜帯の時間に放送するテレビ番組のことだ。その番組は、初心者であるMCやゲスト出演のタレントがキャンプを道具など一から学べるというテーマである。「さぁ、今日のゲスト講師は東町さんです」「よろしくお願いします」「早速、今回のテーマはなんでしょう?」「今回、僕が紹介したいのはキャンプ飯なんですけど……」ゲストはキャンプの活動内容によって変わる。特に講師役は一人、決まっているのはそれを長く経験しているタレントが交代で務めている。例えば、キャンプ飯を得意とする人であってもそれぞれ違う。お手軽な料理を目指す人から、食材や調味料にこだわりのある人
(うん、これで準備万端だ!) まずは手始めに……。やっぱりなんと言っても、メインは焼肉を美味しくいただくことだ。主役のお肉から焼かないことには始まらない。用意した豚肉は、週に一度は通う馴染みのスーパーで買ったもの。鮮やかな桃色のお肉と乳白色の脂の割合がちょうど良い。その上、塩レモンのタレと香草などの調味料で加工されている。豚肉をステンレス製のトングで摘み、網の上へ三枚ほど敷いてじっくり焼く。まだかまだかと、ソワソワする気分になりながら待っている。(あっ、色が変わってきた!)下の面が焼けてきたら、ひっくり返して反対側も焼く。艶のある脂の雫が今にも落ちそうだ。脂の雫が燃料となって炭にぶつかり、パンッと弾けて火がまた燃えていく。その瞬間が、炭火で焼く焼肉の醍醐味ともいえるだろう。(そろそろ、焼き加減もいい頃合い。じゃあ、今から……)「いただきます」お肉が良い焼き色になったのを確認したところで、食事を始める挨拶を呟いた。ここからが庭ごはんの時間だ。そのまま、焼き上がった豚肉をステンレス製のお箸で取って口のなかへ頬張る。 (うん! 塩とレモンのサッパリした味付け、なかなか良い! それにしっかり味付けしてあるから、タレが無くても食べられる)次は輪切りにした玉ねぎを焼いて、ついでにお肉の追加もしておく。そうこうしていると、横で炊いているメスティンの蓋が浮いている。まるで水分が抜け出すかのように、沸騰しながら少し容器の外へ溢れ垂れてきた。(この調子だったらもう少しでお米が炊ける……。楽しみだぁ……)ワクワクしながら、お米の炊き上がりを待っている。だが、よそ見している暇はない。近くから煙が少し立っていた。 (はっ! のんびりしている場合じゃない! 玉ねぎが焦げちゃう……そろそろ返さないと!)慌てて玉ねぎをひっくり返してみると、少しだけ黒の焦げがついていた。一人だとマイペースには出来ても、やることが多くてこなさないといけない。忙しくはなるけれど、その分楽しさは生まれてくる。(玉ねぎが良い感じに焼けたから、そろそろ引き上げよう)焼けた玉ねぎは、一度タレ無しで食べてみることに……。 (ん~! これは甘い! 意外にタレが無くてもイケる!)私は玉ねぎの甘さに感動を覚えた。多少焦げた部分が苦かったとしても、甘みの方が勝って
(まな板はこれにして、包丁は……) まな板と包丁を用意し、下準備として野菜を切ることから入る。焼き野菜用に、キャベツを手で大きめにちぎる。大きい方が焼きやすいし大雑把にしても構わない。(寧ろ、その方が美味しく感じるんだよなぁ)私の勝手ながらだけどそう思う。玉ねぎは外皮を剥き包丁で先端と根を切り落とす。その後、一センチほどの厚みで輪切りに切る。ここである食べ物を思い出した。一昨日、実家から自家製きゅうりの浅漬けが届いていたことだ。(一品ものも欲しいし、ちょうど良さそうだ。下準備が終わったら冷蔵庫から取り分けておこう)玉ねぎを早めに切り終わらせ、再度冷蔵庫の中を覗く。きゅうりの浅漬けはプラスチック製のタッパーに入っている。冷蔵庫内の食材を探っている中、白菜のキムチも入っていることに気づいた。行きつけの焼肉屋で頼んでいるメニューの一つに、必ずと言ってもいいくらいキムチも頼んでいる。それをキッカケに想像していたら、また違うメニューが浮かんだ。(あぁ……焼肉をやるとなったらやっぱり白ご飯も欲しくなる……。だったら先日、百円ショップで購入したメスティンを使ってご飯を炊いてみたい!)想像するだけでヨダレが垂れそうになる。もちろん、顔の表面上はすまし顔だけど。(ご飯を炊くなら、今のうちにやってしまおう)米びつからカップですり切り米一合分だけ掬い取る。すぐにご飯を炊けるよう、あらかじめ白米を少し洗う。お米を炊くための四角いメスティンに入れて吸水させる。(食材の準備はこれで大丈夫かな?)食事の準備を終えた私は、急いで庭に出る時用の格好に武装する。所謂、私の趣味である庭でキャンプする時の服装のことだ。黒のジーンズ、中に暖用仕様の長袖シャツの上に紺色のトレーナーパーカー、ワインレッドのウインドブレーカーで武装をする。これが、私が着る庭キャンプをする時の正装である。(よし、着替えもバッチリ! 外に出よう!)着替えた後、私は紺色のアウトドア用ブーツを履き外に出る。庭にある収納庫からメッシュタープと自分用に座るベージュ色したローチェア。メッシュと板状の二つタイプが合わさった折り畳み式の黒のスチールテーブル。焚き火台としても使えるバーベキューグリルを出した。(あとは炭と、家の中のものを運べる準備とか出していこう)その準備の合間で
——四月上旬、ある日のお昼を過ぎようする頃。(ふぅ、やっと一つ目の原稿が終わったぁ……) 私、夜鷹空は仕事部屋の中にいる。今日は預かった原稿を校正したり、雑誌内の特集をゲラへ組み込む編集作業の日。デスクトップの編集画面や、いくつも書かれている記事の原稿用紙と睨めっこをしていた。その内、一件分の作業がようやく終えたところだった。(それにしても、今回の仕事……かなり時間が掛かるなぁ……)午前の早い時間から、いくつものの記事が書いてある原稿をチェックする。そうでもしないと、最終締め切りに間に合わない。赤ペンで修正と加筆しては文字数の調整したりと繰り返し行っていたからだ。ここ最近、特に校正作業でスケジュールを詰めてたけどようやく落ち着いた。(そういえば……) 私は、ふと思った。四月といえば……という話のこと。(この時期、新人社員は研修や入社式も終わって配属も決まったり、本格的に部署でお仕事を始めてる頃だなぁ)私も新人社員の頃は真剣に取り組んでいた。けれど、色々と覚えることが多いし時に先輩からお叱りも飛んで大変だった。今となっては大変なこともあったけど、懐かしい思い出としみじみ思う。「空さん、あんまり根を詰めすぎたらダメよ。私も手伝うし一緒にやろう!」雪絵さんは昔勤めていた出版会社の同僚、桐島雪絵のことである。雪絵さんと私は入社時の同期。現在は、昇進して編集エグゼクティブディレクターという肩書を持っている。云わば編集長に近い役職についているキャリアウーマンだ。雑誌の特集企画などを立てて受け持っている。(入社してから同じ部署について一緒に行動して……。あの時、初めて話しかけてくれた雪絵さんのお陰で、特に人付き合いのことで助けてもらってたなぁ)私が出版社を退職しても、彼女からの校正の手伝いやアドバイスなどお互いに受けたりする。距離が離れても仕事など苦楽を共にしてできるくらい信頼できる人だ。もちろん、今受けている仕事も彼女からの依頼として数件入っている。今後もどこかで彼女の話がちょこちょこ出てくるから、今回はこの辺にするとしよう。(さて、外はどんな感じかな……?)家の外の様子を見にデスクチェアから立ち上がる。レースカーテンを捲り大きな窓から覗いてみた。暖かい日差しが柔らかくてポカポカしてて気持ちいい。寒暖差がまだ
私の名前は、夜鷹 空。地方の出版社と契約をしているフリーライターであり、編集や校正の仕事も請け負っている。ある自然豊富な山奥の一軒家に住んでいる。(んーーっと! 今日も良い天気だ)外に出て、私はストレッチするかように腕を上の方へ伸ばした。周りの景色は草木や田んぼ、畑が多くお店すら何もない。けれど、私にとって落ち着きやすくのどかで素晴らしい場所だ。(はぁ、新鮮な空気……気持ちいい)春は積もっていた雪から解放され、新たな生命として芽生えてくる草花と共に桜の花が開花宣言を告げていく。涼しく青々とした緑の葉っぱがひらり、シトシトと湿りのある梅雨。夏は田んぼの側で、太陽から煌めきを放つような向日葵が光に向かって、背伸びするかのように咲いている。秋はコスモスやススキで辺り一面を生い茂っている。山の表面には、緑から赤や黄色が交わり移るような森林に色変わる。冬はしばらく生命の活動にお休みを頂き、また新しい時を待つために覆う白い雪……。四季折々の景色が、一つ一つ輝いて見えるところ。(だから……もっと楽しむためには)こういう場所で至福になれる時間がある。それは、庭でキャンプごはんを作ったり焚き火を楽しむ。いわば「庭キャンプ」のことだ。私が住んでいる家の横にある庭を小さなキャンプ場としてイメージする。余暇があればタープを立てたりと準備を行い、その休憩としてコーヒータイムで一服……なんてことも。庭でするのも楽しいけれど、本当は本格的にキャンプ場で宿泊することも憧れを持っている。(さて、そろそろ庭キャンの準備をしようっと)——そして、今日も一人、庭で焚き火やごはんを楽しんでいくのである。
私の名前は、夜鷹 空。地方の出版社と契約をしているフリーライターであり、編集や校正の仕事も請け負っている。ある自然豊富な山奥の一軒家に住んでいる。(んーーっと! 今日も良い天気だ)外に出て、私はストレッチするかように腕を上の方へ伸ばした。周りの景色は草木や田んぼ、畑が多くお店すら何もない。けれど、私にとって落ち着きやすくのどかで素晴らしい場所だ。(はぁ、新鮮な空気……気持ちいい)春は積もっていた雪から解放され、新たな生命として芽生えてくる草花と共に桜の花が開花宣言を告げていく。涼しく青々とした緑の葉っぱがひらり、シトシトと湿りのある梅雨。夏は田んぼの側で、太陽から煌めきを放つような向日葵が光に向かって、背伸びするかのように咲いている。秋はコスモスやススキで辺り一面を生い茂っている。山の表面には、緑から赤や黄色が交わり移るような森林に色変わる。冬はしばらく生命の活動にお休みを頂き、また新しい時を待つために覆う白い雪……。四季折々の景色が、一つ一つ輝いて見えるところ。(だから……もっと楽しむためには)こういう場所で至福になれる時間がある。それは、庭でキャンプごはんを作ったり焚き火を楽しむ。いわば「庭キャンプ」のことだ。私が住んでいる家の横にある庭を小さなキャンプ場としてイメージする。余暇があればタープを立てたりと準備を行い、その休憩としてコーヒータイムで一服……なんてことも。庭でするのも楽しいけれど、本当は本格的にキャンプ場で宿泊することも憧れを持っている。(さて、そろそろ庭キャンの準備をしようっと)——そして、今日も一人、庭で焚き火やごはんを楽しんでいくのである。...
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