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つきうた
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Novels by つきうた

男聖女は痛みを受け付けたくない

男聖女は痛みを受け付けたくない

30代の疲れ気味なサラリーマン・山下遥は、乙女ゲームの世界に聖女として召喚される。だが、男の聖女に興味を持つ者はおらず、彼を選んだのは戦闘狂の騎士・コナリーだけだった。契約によって彼の痛みを肩代わりする遥は、コナリーの容赦ない戦いに巻き込まれ、激痛に転がりながら必死に支える。 やがて訪れる魔王討伐。遥のゲーム知識によって勝利を収めるが、その功績は王子に奪われて…
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Chapter: 第三十二話 王族の温室
◆◆◆◆◆朝の光が窓から差し込み、遥の部屋を静かに照らしていた。ぼんやりと目を覚ました遥は、ぼんやりと天井を見上げながら、昨夜の出来事を思い出す。左手を持ち上げると、薬指に嵌まったままの赤い指輪が目に入った。「……やっぱり、外れないか。」小さく息を吐き、指輪をじっと見つめる。試しに引っ張ってみるが、びくともしない。(どうするかな……このまま放っておいていいわけないし、ルイスと対策を考えないと……)そんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音が響いた。「遥、起きているか?」ルイスの声だった。「起きてる。今開けるよ。」遥は素早く寝台から降り、扉を開ける。しかし、その瞬間――「……手袋を忘れているな。」ルイスが低く指摘する。遥は一瞬きょとんとした後、慌てて左手を隠した。「えっ、あ、しまった……!」昨夜、ルイスから“指輪を隠すために手袋を常に着用するように”と厳しく言われていたことを思い出す。「ちょ、待って、取りに――」言い終わる前に、ルイスの手が伸び、遥の腕を軽く引いた。「いい、こっちに来い。」驚く間もなく引き寄せられ、思わずルイスの胸元にぶつかる。「お、おい!」「お前がまた忘れると思
Last Updated: 2025-03-12
Chapter: 第三十一話 変わらぬ距離
◆◆◆◆◆部屋に、静かな沈黙が落ちた。紅茶の香りだけが微かに漂う空間で、遥は冷めたカップを見つめたまま思考を巡らせる。コナリーの言葉を否定したのは自分だった。それなのに、彼が自分から離れていくのではないかと、不安に駆られている。(……何を考えてるんだ、俺。)遥は内心で自分を叱咤した。自分が答えを出したのに、コナリーの気持ちが遠のくことに怯えるなんて、都合が良すぎる。けれど、さっきのコナリーの表情を思い出すと、胸の奥が冷たくなった。(……なんで、そんな顔するんだよ。)普段と変わらぬ穏やかな表情。それなのに、その奥には何かを押し殺したような、冷えた影が見えた気がした。遥が「俺より大事な人ができたら」と言ったとき、コナリーの瞳がわずかに揺れた。けれど、彼はそれ以上何も言わず、ただ静かに頷いた。それが、妙に引っかかった。(なんか……このまま距離が開いていく気がする。)無性に焦りを覚えた遥は、何か話題を変えようと口を開いた。「なあ、ハリーと夏美に何かプレゼントを贈ろうと思うんだけど。」不意に投げかけた言葉に、コナリーがわずかに眉を上げた。「プレゼント、ですか?」「ああ。婚約のお祝いにさ。」遥は、努めて軽い調子を装いながら言った。
Last Updated: 2025-03-11
Chapter: 第三十話 揺れる気持ち
◆◆◆◆◆「私は本気です。」コナリーの言葉が静かに響いた。遥は思い切り紅茶を噴き出し、咳き込みながらコナリーを見つめる。「お、お前……何言ってんの?」慌てて袖で口元を拭いながら、遥は混乱したまま言葉を探した。「だって、お前、俺が女でも男でも関係ないって……そりゃ、そういう考えの人もいるだろうけどさ。冗談だろ?」「冗談ではありません。」コナリーはまっすぐ遥を見つめ、静かに答えた。「私は、遥がどのような姿であろうとも、貴方を大切に思っています。」「……っ」遥は言葉に詰まる。普段と変わらぬ静かな口調。けれど、その言葉に宿る真剣さが、遥の胸を妙にざわつかせる。冗談なんかではない。コナリーは本気でそう言っている。曖昧に笑って誤魔化そうとしたが、コナリーの表情を見て、それができる雰囲気ではないことを悟る。「……いや、でも、俺は男だし?」「それが何か問題ですか?」「えっ……」コナリーはわずかに首を傾げる。「貴方が女性ならば婚約する可能性があった、と貴方は言いましたね。」「あ、あれは冗談で……」「貴方が女性だったら婚約を考えたのですか?」「
Last Updated: 2025-03-10
Chapter: 第二十九話 届かない距離
◆◆◆◆◆コナリーは、遥の向かいに座りながら静かに紅茶を見つめていた。目の前には、いつも通りの遥がいる。だが、どこか遠くなったような気がしてならない。――指輪のことを話してくれないのか、遥。契約を交わしていたときは、互いの痛みを感じ、まるで体が重なるような感覚さえあったのに。それが今は、まるで目の前に見えているのに手が届かないような、そんなもどかしさがあった。遥が自分から離れていく。その現実を突きつけられるたび、コナリーの胸は締めつけられるようだった。(私は……遥の何なのだろうか。)聖女と契約した騎士――かつてはそうだった。だが今は、ただ王国の騎士として彼を守るだけの存在になってしまったのだろうか。その答えを探すように、彼は別の話題を振ることにした。「……今日、王城内でハリーと会いました。」「ハリー?」遥はカップを口に運びながら、小首を傾げる。「魔法使いの?」「ええ。」コナリーは頷く。「彼は契約聖女の夏美と婚約したそうです。」「えっ……!」遥は目を丸くした。「ハリーと夏美が!? 婚約?」「はい。魔王討伐を終えた後も二人は交流を深め、先日、ハリーが求婚し、受け入れられたとのことでした。」
Last Updated: 2025-03-07
Chapter: 第二十八話 隠せない嘘
◆◆◆◆◆ルイスの背中が廊下の向こうへと消えていくのを見届けた遥は、そっと息をついた。――コナリーには指輪のことを話せない。ルイスにそう忠告されたばかりで、胸の奥に得体の知れない重たさが沈み込んでいた。それでも、目の前にいるコナリーの姿を見た瞬間、その迷いは一時的にかき消された。「コナリー。」「お帰りなさい、遥。」コナリーの声は温かくて、遥は思わず笑みを浮かべた。「いつから待っていたの?」「そう待ってはいません。」コナリーは穏やかに微笑んだ。その表情は変わらず優しく、遥の心をほっとさせる。――けれど。コナリーの視線がふと遥の手元へと向かう。「それよりも……その手袋は?」「……!」予想していた質問だが、遥は思わず左手を握りしめ身構える。「火傷をしたんだ。」できるだけ平静を装いながら答えたが、一瞬の間ができたことを、コナリーは見逃さなかった。「火傷……?」コナリーの表情が曇る。「傷を見せてください。治療はされましたか?薬は?」矢継ぎ早に問いかけるコナリーに、遥は苦笑しながら手を振った。「大したことないって。すぐ治るさ。」「ですが――」
Last Updated: 2025-03-05
Chapter: 第二十七話 秘められた指輪
◆◆◆◆◆ルイスの部屋を出る前、遥は改めて自分の左手を見下ろした。その指には、未だ外れない赤い宝石の指輪が光っている。「……これ、やっぱり目立つな」遥が小さくぼやくと、ルイスが手袋を差し出した。「そのための手袋だ。今からは常に着けておくようにしろ。」遥は手袋を受け取りながら、少し困惑する。「手袋も悪目立つする気がする。」ルイスは微かに笑みを浮かべながら言った。「王家の紋章が刻まれた手袋だ。不審に思っても、無理に外そうとする者はいない」「まあ、そうだろうけど…」遥は渋々ながらも、言われた通りに手袋をはめる。指輪が見えなくなったことに、少しだけ安心する気持ちもあった。だが、元々はルイスの手袋のため、遥の手のサイズには合わずブカブカしている。「ブカブカしてる」「遥のサイズにあった手袋を用意する。それまでは我慢してくれ。」「分かった……手袋を嵌めている理由を尋ねられたら?」「手の火傷を隠すためだと言えばいい。」「……火傷ねぇ。」遥は苦笑しながら、手袋を指先までしっかりとはめた。それを確認したルイスは、満足そうに頷いた。「さて、遅くなったな。部屋まで送ろう。」「送らなくていいよ。王城の中だし、一人で歩ける。」
Last Updated: 2025-03-04
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