冬空に燃え尽きた恋
「加瀬さん、六回も体外受精してやっと授かった赤ちゃん、本当に諦めるんですか?旦那様もこの子を堕ろすことに同意してるんですか」
「大丈夫です。彼ならきっと同意してくれます」
一睡もせずに夜を明かした加瀬早絵(かせ さえ)の声はかすれていたが、その目にはこれまでにないほどの冷静さが宿っていた。
「手術は一週間後に予約してあります」
その一週間後は、早絵と加瀬瑞樹(かせ みずき)の結婚記念日だった。
それでもいい、始まった場所で終わりにしよう。
旅立ちの航空券を手配し終えた早絵は、そっと自分の下腹部に手を当てた。そこにはまだ形も定かでない小さな命が宿っている。
過去五年間、彼女はこの命の訪れを心から待ち望んでいた。
けれど、その願いが叶ったその日に、自分から手放すことになるなんて思ってもみなかった。