恋の毒が私を溶かす
涼川匠と結婚して七年目。彼は私の子供を初恋の人に託すと言い出した。
私に治験の協力を求め、彼女の病気を治すという。
「ただの薬だよ、若菜。多少、精神面で副作用が出るかもしれないけど、大したことじゃない」
そう言われるまま、私は彼の目の前で同意書にサインをした。人体実験台になることを、自ら受け入れたのだ。
だが、彼の言う「精神面での副作用」は、記憶の消失を意味していた。
やがて私は、自分に子供がいたことすら忘れ始めた。
彼が私の人生を踏みにじったことも。
必死に愛し続けた日々の記憶も。
そして、ついには彼が私の夫だということまでも。
「すみません、どなた様でしょうか?
奥様でしたら、あちらにいらっしゃいますが」
私がそう言って隣を指差すと、彼は涙をこぼした。
不思議な方だこと。
私が微笑みかけただけなのに、どうして泣いているの?