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All Chapters of 『願わくば……』: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 ◇帰らない妻

31. ともかく、自分は今まで散々好き放題してきたのに漸く自由を自分の時間を持てるようになって自由を満喫するために旅立った葵に、早く帰って来いだとかどうしてるんだとか、ちまちましたことは言いたくないのが本心だ。 デーンと構えて帰って来た時にCOOLにカッコ良く出迎えたい。 そんな体裁ばかり気にしてじっと待っていたのだが2ヶ月を過ぎようかという頃になっても葵が帰って来る気配はなかった。痺れを切らした俺は彼女の暮らしている町へ行ってみることにした。 心情的にもうカッコ付けてる場合じゃなくなっていた。 自分の中でもしかしたら姉の言っていたように葵が帰って来ない片道切符で出掛けたのでは? と多少なりとも思うようになっていたから。 いちども葵の方から近況等についての簡潔なメールさえ来ないのだ。 それについても不可解だった。 何らかの意志でもって、俺に近況のメールさえ送って来ないのではないか。― 西島と葵の畑交流 ―  西島さんの畑仕事は玄人跣(くろうとはだし)に見える。  本を読んだり、畑を耕している先人たちとの交流を広げたりと自らも学び、そしてまたいろいろと教えを請うてきたようだ。   私の場合、室内やベランダでちょちょいとプチトマトあたりを育ててみる、みたいな感覚でやれればいいなぁ~と思っていたので、西島さんからほんの少し間借りできたのはLuckyだった。 それに私が畑に行くと2回に1回の割合で西島さんがいるので先生(←栽培の先生)もすぐ側にいて更にLucky感が半端ない。 美しい自然に囲まれた静寂の中、身体を動かすって何て素敵! 開放感が半端ない。 会話するにはもってこいなのだ。 レストランや喫茶店のように飲食店等で向かい合っているのとは断然違う心地良さがある。 気持ちの持ちようが違う。 他者と向き合う時にそれは異性であれば特に……。 まず、沈黙する時間に気まずさがない。  最初の頃は、私が分からないことを聞いて教えてもらうくらいの会話だったけれど、今は結構くだらないことも話す。 もっぱら無口な西島さんは聞き役なんだけどね。 世代が同じなので古(いにしえ)の芸能人だとか政治家アスリート、様々な分野で活躍していた人たちの話をしてもあ・う・んの呼吸で通じるのが心地よい。 昔のアニ
last updateLast Updated : 2025-04-12
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第32話 ◇西島と葵の畑交流

32. 西島さんは、こちらで仕事がある限りは8年後の60才まで働いて年金満額受け取れる65才までは残り5年あるけれど貯蓄もあるし、畑もあるのですっぱり引退して残りの人生は自然と共にこの美しい町で老いていきたいと語った。               何かあった時のためのお金ももうすでに準備してあるそうだ。 息子さんがひとりいるのでどうにもならなくなったときにはどこかの施設にブチ込んでもらえるように……とのこと。     まぁ、足腰鍛えて食事と健康に気をつけて夜寝ている間にでもそっと自然死出来れば理想的だがね、とも言った。 ほんとに誰にも迷惑かけずにそっとあちら側に旅立てたらなんて、生きてる人たち皆の願いだけど。 そんなにあっけなく逝ける人の方が稀だから……。 産まれてくるのも、死にゆくのも独りは同じだけど死んでいくときの覚悟は、半端ないでしょうね……なんてことを私は言った。 「ほんとに……大往生出来るといいのに」と西島さんが応えた。 こんなやあんな、ポツリぽつりと話す男女50代の会話にロマンスの香りはない。  だけど、夕暮れ時まで週に何度かいろいろな話をしながら一緒に作物を愛でる作業は楽しかった。 イチゴやプチトマト、キュウリに茄子とすぐに取り掛かれるよう苗を譲ってくれたので西島氏のお陰でホントに苦労知らずで野菜作りを謳歌することができた。 真夏に向けてどんどん日差しも厳しくなってきたので畑のお礼も込めて広くて大きなツバの付いた日除け帽子を西島さんにプレゼントした。   ちょっと恥ずかしいけど、自分用にも同じモノを買った。 同じ畑に同じ帽子を被る男女、となれば夫婦に見えるよね?などと、つまらないけどプチ楽し気なことを妄想しながらイチゴに水遣りするのも楽しきかな。食堂や通訳の仕事、畑での野菜作り、そしてコウとのLove Loveな生活に慣れてきた頃、珍しく夫から連絡があった。    
last updateLast Updated : 2025-04-12
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第33話  ◇帰りたくない

33.  家を出てすでに2ヶ月が過ぎていた。  「いつ頃帰ってくるの?」  『う~ん、まだ当分帰らないわ』「いやいや、いや。 旅行長過ぎだろ、はよ帰って来なさい」  『いやいや、いや。 楽し過ぎだもん、まだ帰りませんよぉ~』 「じゃぁ、何時頃帰って来れそうかだけでも教えといて!」  『ごめん、決められないわ』     私の優柔不断な返信のあと、夫からのメールはしばし途絶えた。 少しして、再度のメールがきた。  「もしかして、帰って来ないつもりじゃないよな?」  『こちらにずっと住みたいの』 「いちど、そっちに行くわ。居場所、教えて」      『え~っと、もう少し先じゃだめかな?』  「はやく教えろよ……はよ」 返信しないでいると、またまたの着信有り。  どうしよう! こっちに来られてもねぇ~ 困るぅ~。         「もしもし、何してんの? 住所教えて! 何拒否ってんの? 帰って来ないって、どういうこと?」   帰らないと言う私にガンガン攻めてくる夫。  今まで2度の挨拶程度の余裕の? メールしかして来なかった 夫のいきなりの『帰って来ないつもり?』なんていう、急を告げる メールに驚いた。 びっくりはしたものの……。 やっとですか。  やっと2ヶ月も過ぎて、私が帰らないかもと思い至った のですか。 遅すぎるような気がするのは私だけ?          ほんとは居住地のことも言わず、蒸発してしまう家出人のように 連絡取るのを止めてもいいかなぁ~とも思ってたけど まぁ、息子たちの将来のことも考えると逃げているわけにも いかないかなと思い、進んで連絡はしたくなかったけれど こうなったら、しようがないかと夫に住所を教えた。  土曜の午後に着くからと連絡があった。 私はその日通訳の仕事が1本入っていたのでキャンプ場で 待っててくれるようにお願いした。 用事(ほんとは仕事)があって19時頃迎えに行くからと。 「じゃぁ、早く行っても待つだけだから17-18時間頃 到着するように行くよ。」と夫から返信があった。 あーっ、頭が痛くなってきた。 夫が来るって、これって迎えに来るってこと?  迎えに行くとは言われてないけど……。 まだここでの生活は2ヶ月と少し、地に足をつけて
last updateLast Updated : 2025-04-13
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第34話 ◇車がほしい

34.  私と西島さんが畑でバッティングすることは最初の頃は 約束している日以外はあまりなかった。  育ててる野菜の種類も量も全然違っているし、お互いの勤務時間も 違ってるから当たり前といえば当たり前なんだけど。  でも仲良くなるにつれて、私の方が西島さんの畑に来る時間帯を 聞いて、30分でも20分でも畑で会えるように時間調整するようになった。  他にも畑をしている人はいるようだけど、案外その他の人たちにも ほとんど会わないのだ。 独りがいい時もあるけど、いつもひとりはちょっと寂しいので そうするようになった。  もっぱらしゃべり倒しているのは私だ。  西島さんは私のどんなつまらない話かけにも 相槌をくれたり、返事をくれるので話やすい。 時々、うざいBABAぁ~だなんて思われてたらどーしようって 思わなくもないけれど。   だってねぇ~。 家に帰れば独りなんだしぃ……って、コウがいるから ボッチじゃないし、コウとの時間もなかなかまったりできて 素敵な時間ではあるんだけれどもね。  しかしぃ、コウは話ができんからね。まっ、話せないからそこがいいっていうのもあって…… とかなんとか、、グタグタに自分勝手な妄想を呟いてみる。               先日畑の近くで仔猫を拾ったのでコウと仔猫のミーミを 畑に一緒に連れて来ることもあるし、2匹でお留守番させる こともある。 やっぱり一匹でのお留守番は可哀想に思うけど、2匹だと 残して出かける方も何か安心して出掛けられるのだ。   ミーミは畑に来ると西島さんにすごく甘える。     男の人が好きなのか、はたまた、西島さんだからなのか。  聞けるといいのだけれど。  畑は西島さんの家のすぐ側にある。  私の家からは徒歩で12~3分かかる。  借りている畑の使用料は一円も受け取っていただけてないので 時々、おかずをタッパーに入れて差し入れすることにしている。  私は大抵、自転車で畑まで行ってる。     車もほしいけど、もう少しここでの生活に馴染んでからと 思ってる。雨の日が大変だからねえ~。  キャンプ場での仕事場まで雨の日はカッパ着用で通ってる。 この年になってカッパ着て自転車に乗る日がこようとは。             
last updateLast Updated : 2025-04-13
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第35話 ◇トラウマ

35.  車がない生活は、重いモノやまとめ買いする時に不便なのと 話したら、西島さんが時間のある時に車を出してくれるように なった。 遠慮しないといけないのだろうけれど、やっぱり自転車だけでの 買い物には限界があって、甘えることにした。 何だかいろいろとお世話になりっぱなしで、申し訳なく思っている。 今のところ、私からのお礼は食事を作ることぐらいしか思いつかず できる限り、手料理の配達《届けること》を頑張っている。 いつの間にか気が付くと、西島さんと一緒に居る時間が 増えていた。  今は甘えさせてもらっているけれど、やっぱりね 恋人っていうわけでもないのだから、遠慮心《えんりょしん》が 半端無くあるのよね。  何度目かに車を出してもらった時に、早く車も買わないと…… と思ってしまった。  夫と暮らしていた時には、車があるのが当たり前の暮らしだった なぁ~と思い返すと共に、独り暮らしになった実感をひしひしと 感じるのだった。   独り暮らしで車を持つということは、思ってた以上に大変なことと 再認識したのだった。  西島さんとは野菜の育て方について話したり、息子同士が 同級生なので息子たちの昔の話や近況等、話すことがある。  奥さんが病死したあと、すぐに医院を畳んで昔から念願だった 田舎暮らしがしたくて、ここに来たということも。 私は西島さんと親しくするようになってからよく思う。 西島さんは結婚してから奥さん一筋でいたのか?  一度も余所見したことはないのだろうか?     私は夫との長年の暮らしから男性不信になってしまっていて そのトラウマたるや、すごいものがある。  誰を見ても、この人の良さそうな男(ひと)も外面は善人ぶってる だけで、きっと奥さんに隠れて浮気の1つや2つ、しているに 違いないって思ってしまう。    自分の息子たちにさえ、心中は複雑。  こんな事、彼らには絶対言えないけどね。  だから息子たちに対して、早く彼女を作ったら?とか、結婚したら とかって、勧めるなんてことは考えられないっていうか…… 不幸な女性を増やしそうで。 出来れば、息子たちには一生独身でいてほしいとさえ思ってしまう のだ。  夫が犯してきた行為は、これほどまでに私の精神を壊すほどの 破壊力があ
last updateLast Updated : 2025-04-13
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第36話 ◇明日を生き抜く

36.  確かに夫にアプローチされ真摯な態度でプロポーズされた時 君だけを一生かけて愛します、とは言ってもらってはなかった けれど、好きだよこれからずっと仲良くしていこうねって 言われて、これからずっと私と一生仲良しで添い遂げてくれる ものと思ったことは間違ってないよね。 『Would you marry me? 』『Sure!』だって、普通は結婚するってそういうものでしょ?    結婚して仲良くしていこうね、だけど他の女性とも仲良くする けど……って正直に本心を言ってくれてたら、絶対夫と結婚 しなかった。  夫の兼ねてからの浮気の仕方を見ていると絶対確信犯だからね。 たまたまとかいうような、なまやさしいものじゃない。  私は   付き合っていた頃から…… プロポーズされた時も…… 結婚式を挙げた時も…… 子供が出来た時からも……ずーっと、嘘つきな夫に騙されてたのだ。 私はまだ子供たちが小さかった頃から、夫の以前からの確信犯的浮気に 思いを馳せる度、この考えが頭の中でループし始めると、呼吸が苦しくなるほど 精神状態がおかしくなるのだった。 だけど、その時の自分にはどうすることもできなくて そのうち、頭も胸も苦しくなって……そんな夜を幾つ経験したろうか。      自宅を出て夫から離れ心機一転新天地で前向きに暮らしていても このような過去に受けたトラウマやそれに伴う様々な感情の ループから逃れられない。  どうすればこの負のループから抜け出せるのだろう。 いつも負のループに嵌る度、私はその場所に呆然と立ち尽くす 自分に気付く。 そして思うのだ。 何とか私は今日という日まで生き長らえてきたのだけれど よくもここまで生きてこれたなぁ~と。 そして又、来ていない明日のことを考え、生きていけるだろうか? と不安になる。 他の人たちはどんなことを想いどんな気持ちでまだ来ぬ明日のことに 思いを馳せるのだろうか。  それとも、まだ来てもいない明日のことなど、そこまで大真面目に 考えて生きてはいないのだろうか。  
last updateLast Updated : 2025-04-14
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第37話 ◇何しに来たの

37.  キャンプ場で主にピザを作っているのだけれど 人手のない時は接客等もたまにすることがある。 友人同士で来ている若者たち  家族連れで来ている人たち  幸せそうな若いカップル  幸せそうな熟年カップル  自然の中、無邪気で幸せそうな人々の姿を目で追う。  ここは行楽地だからこその姿なのかもしれない。  Realな世界に戻れば、別に厳しい日々が彼らを待ち受けて いることだってあるかもしれない。 日常はそんなに甘くない、厳しいものよ。  この長閑《のどか》で美しい景観に包まれて思索しながらの日々が 過ぎていき……あぁ、何と、とうとう夫の来ると言っていた予定の 土曜日がそこまで迫っていた。           ◇ ◇ ◇ ◇  私は通訳の午後からの仕事がキャンセルになったので 夫がキャンプ場に着く迄の間、畑へ行くことにした。  自分でも分からない行動だけれど17-18時頃に着くように 行くからと夫は言っていたのに、17時になってもキャンプ場に 足を向けることができないでいた。 できれば夫に会いたくないという気持ちの作用なのだろうか。  18時ギリギリに行けばいいじゃないか、約束を破ったことには ならないだろう……と、自分に言い訳をして、キュウリとオクラの収穫に 気持ちを向けていた。 そんな中、キャンプ場で待っているはずの夫の声を背中越しに聞いた。「葵……。やっと見つけた」 夫がもぎたてのキュウリを手にしている私の前に現れた。  いつかこんな日が来るかもしれないと予想はしていたけれど この時の心境はへぇ~、ちゃんと会いに来たんだあ~っていう 人事のような気持ちだった。 『お久しぶり! んで、何しに来たの?』  「何しに来たのじゃないよ。迎えに来たに決まってるだろっ!」
last updateLast Updated : 2025-04-14
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第38話 ◇帰りたくない

38.  「一緒に家に帰ろう。  2か月余りもここで暮らしたんだから、もう旅先の生活も 充分堪能したろ? 息子たちだって待ってる 」    『息子たちのことを持ち出すのは止めて。  あの子たちだってもう子供じゃないんだし、私のやりたいように していいって、逆に応援してくれてると思う。  納得のいくまで家には帰らないわ。                         ここの暮らしが充実してるの。帰るように気持ちが決まったら連絡するから。 今はそっとしておいて。あなただって私がいないといろいろ 羽目が外せて自由にできるんだし。 あんな宣言なんて忘れて好きにすればいいのよ? 嫉妬してあなたを責めたり縛り付ける妻が側にいないなんて あなたのように生きてきた人にはとってもGoodな環境のはず。  ところで…… こんな僻地までわざわざ尋ねて来て、帰って来いCallする あなたの行動が理解できないんだけど?』        夫はビミョーな面持ちで、じっと私の言い分を聞いていた。               私の真意を測りかねているようだ。  大丈夫ぅ。 今は理解出来なくても私が夫に対してどんな気持ちを 持っているか、その内分からせてあげるから。 ここはひとつ退散してくださいな、というのが 今の嘘偽りのない気持ちだ。      『取敢えず、今日は私の家に泊まって明日の朝帰ればいいから。 今日新鮮なキュウリとトマトが採れたから、夕飯はオムライスと サラダにするわ』  そう言いながら、さっきから私の側にいる仔猫のミーミを 見せた。 『この子、私の飼い猫のミーミっていうの。可愛いでしょ。 あっちにいるのがコウ』     「旅に出る前に猫がマイブームって言ってたけど、ホントだった んだな。君が猫好きだったなんて聞くまで全然知らなかったもんなぁ」 『うん、そうでしょうね。私もこっちに来るまでっていうか 来る少し前に気になり出したっていう流れで私もこちらに来てから実際飼うようになったわけだし、あなたが そう思うのも無理ないわ。 今となっては、どうしてもっと前から猫の良さに気付けなかった のかと、悔しいくらい』「猫2匹、家に持って帰って来るといいよ。 僕
last updateLast Updated : 2025-04-14
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第39話 ◇夫がやって来た

39. その夜、夫には別の部屋に布団を敷いた。 納得できないまま、それでももうしばらくこの町に滞在していたいという私の意志を尊重してくれて夫は翌日、帰って行った。 お金に困るといけないからと、かなりの額入れてある通帳とカードを渡してもくれた。   そんな夫を駅まで見送りながら、私はもう帰らないよ、と胸の内でつぶやいていた。                 夫には旅に出ると言い置いて家を出た私。 息子たちには帰って来るのか帰って来ないのか、どちらになるか分からないけれど落ち着き先が決まったら、ちゃんと連絡するからと、出発前に話していた。 息子たちからはお母さんの冒険が成功することを祈ると応援してもらっていた。 小さな頃から夫や私のことを側近くで見て育った彼らは、どんな時もどんなことになっても、自分たちは私のことを信じ応援するよと言葉に出してくれて、それが私の心の拠り所だった。 夫を見送ったその後で、ほぼ毎日行く畑へ出掛けてみた。 元々この畑は西島氏のもので、私は畳3帖分位を間借りしているだけ。 畑だけの子守をしていられるわけではない私にはちょうどいいくらいの広さだ。 そんなだから作る作物の種類も限られている。 作ってない野菜は師匠の西島氏から分けてもらったりしている。 私はキュウリ、トマト、茄子、イチゴくらい、作ってるって言ってもね。 キャベツや大根、生姜玉葱は、彼から許可を貰っていてほしい時に収穫しても良いことになってる。 畑耕すおじさんだけど、本業は小児科医。 こちらに来て一番驚いたのが西島先生との再会だった。      西島さんは長男と次男が子供の頃ずっとお世話になっていた小児科医だ。 おまけにうちの長男と彼の息子さんが同級生でもある。 3年前に奥さんを病気で亡くし、ここに来たようで。 ここでは診療所で週4日勤務していて、以前のようなハードな働き方は止めたのだとか。 メインではなく助っ人要員待遇らしい。 それでも子供相手のことなので時間外勤務はあるようだけれど。          医者と患者の保護者という立ち位置でしか交流のなかった人。 今は週に何度か大自然の中、同じ畑で互いの存在を感じながら野菜を栽培。 時に寡黙に黙々と、時に思いついたことを訥々と話しながらする畑仕事
last updateLast Updated : 2025-04-15
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第40話 ◇耳ダンボで

40. 私はこの町で思った以上の収穫をした。 ひとつめは、猫のコウと仔猫のミーミ。 ふたつめは、西島さんという隣人? 友人? だ。           みっつめはキャンプ場のオーナー夫妻と飼われているたくさんの犬&猫chanたち。 夫を見送った日の夜、こんな事柄をコウとミーミに話しながらいつしか夢の世界に入っていったのだった。           ◇ ◇ ◇ ◇ 実は夫がいきなり畑へやって来た時、離れた場所に西島さんがいたのだ。 敢えて?こちらに近付いて来なかったのか? きっと西島さんもどんな対応をすればいいのだろうと、微妙だったと思うけれど、ひとまず今回夫とはじめましてをしに来なくて、ほっとしている自分がいる。 離れていたから私たちのやり取りはあまり聞こえていなかったと思う。 そこも少しほっとしたのだった。 だけど……。 それから3日後、又畑で会った時、西島さんからからかうように言われた。「ご主人、あなたを迎えに来ていたんでしょ?一緒に帰らなくてよかったんですか? 息子さんたちも寂しがっているかもしれないですよっ。」「あらぁ~~!!! あーんなに離れた場所にいらしたのに、随分と地獄耳ですことぉ~! 耳、ダンボにしてたんですか?」「そりゃぁ~、葵さんのご主人らしき人が来たんですから耳は超特大ダンボでしたよ。 Hahaっ」「えっ、なんか……ちょっと、はずかしっ」「大方は、僕の推理ですよ。ほんとはね、耳ダンボで頑張りましたけど、僕のように普通の人間レベルじゃあ、あなた方の会話を聞き取ることはできませんでしたからね」   「なんだ、そうなの? あせっちゃった、はぁー。 西島さん、推理、遠からずってところでしょうか。 こんな素敵な場所で暮らせるchanceを手に入れたんですものなかなか、帰れませんよ。 それにこんなふうにひとり暮らしすることは、もう随分何年も昔から夢見て計画してのことなんです」 「じゃあ、しばらくご主人は寂しく過ごさないといけないわけだ。 こんなところまで来たっていうことは、かなりキテますよ、きっと。 先日、どーしようか迷ったのですが、やはりあなたの知り合いとして声掛けなくて正解だったようですね。 僕なんかがご挨拶したら、ご主人あなたのことが心配になって首に縄をつけて
last updateLast Updated : 2025-04-15
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