「岳は今、二十九歳だから……八年前は二十一歳の大学三年かな。朝日奈さんが岳に一目惚れしたのはその頃か。たしかに昔からイケメンで、大学でもよくモテてたもんなぁ、岳は」 「一目惚れって。でも……あの頃は二十一歳だったんだ」 私が見た若かりし頃の彼の姿は、いとも簡単に鮮明な映像として私の頭の中で再生される。 今の今まで、歳も名前も、どこの誰かわからなかったのに。 私が当時視線を釘付けにされたのは、二十一歳の二階堂 岳という名のモデルだった。「岳にもう一度会えて……うれしい?」 「うれしいというか、懐かしいです」 あの頃より一段と大人の色気を増した今の彼の姿を見ることができたのは、正直うれしい。 だけど、それ以上に懐かしさがこみ上げた。「言わなくて良かったの?」 「なにをですか…?」 「八年前に見かけてることとか……好きです、みたいなこととか」 「あはは。なにか言えば良かったですかね。偶然の再会に驚きすぎて、緊張しちゃって、そんなこと忘れていました」 私が笑いながら冗談でそう答えても、宮田さんは不機嫌そうな表情を戻そうとしなかった。 それどころか、さらに険しさが増した気がする。「今のは冗談ですよ。前にも言ったでしょう? 現在の彼の姿をもう一度見れたらそれで満足だって。今はすごく懐かしい気持ちでいっぱいで、それだけでいいんです」 その言葉に嘘はない。 今の私は二階堂さんに対して“懐かしい”という気持ちが大半を占めている。 好きだの、告白したいだの、間違ってもそんな気持ちは今は全然ない。 当時十八歳の私が、二十一歳の彼ときちんと出会って恋をしたならば、それはわからなかったけど。 あれから八年経ったのだから、――― 今は今だ。「朝日奈さんが八年間会いたいと思ってた男が、僕の知り合いだったなんて。世の中狭いっていうか、何ていうか……」 「ですね」 「しかも、相手は岳かぁ……強敵すぎて勝てる気がしない」 「……は?」 「でも、悪いけど諦めないよ。朝日奈さんのことは、そんなに簡単に譲れない」 普段とは違う真剣な表情で見つめられると、ドキドキが止まらない。 なのにその上、宮田さんは私の左手を取り、手の甲にそっと唇を落とした。 その行為が男の色気を含んでいて、心臓が一瞬止まるかと思うほどドキっと跳ね上がり、顔が紅
Last Updated : 2025-04-19 Read more