水族館へ行けば、優れたアイデアが浮かんでくると言っていた宮田さんだったけれど。 もしかして騙されたのかもしれないと感じたのは、その翌日だった。 お昼過ぎに現地集合という待ち合わせで水族館に赴くと、入り口のところに立っている宮田さんの姿が見えた。 いつもと違って、今日の宮田さんはカジュアルな私服だ。「朝日奈さん、早く早くー」 水族館の前で、うれしそうな笑みをたたえて手招きされると、小さい子どもに急かされているような気分になる。「お疲れ様です」 「十三時半からイルカのショーが始まるんだよ。だから急がなきゃ。って……朝日奈さんはなんでスーツ姿なの?!」 私だって待ち合わせの時間よりもずいぶん早く来ているというのに、いきなり急かされる意味がわからない。 なぜスーツなのかは、仕事だからに決まっている。「スーツじゃいけませんか? これも一応、視察なので仕事の一環ですし。というか、午前中は普通に会社で仕事をしていましたので、自然とスーツになります」 淡々とそう述べると、宮田さんが小さくプっと噴出して笑った。 笑うとは失礼だ。おかしなことはなにも言っていないと思うけれど。「とにかく行こう。イルカ、イルカ!」 「わっ!」 いきなり私の手を引いて、宮田さんが小走りに走り出したものだから驚いた。 繋がれた手に私の神経が一気に集中する。 子どもっぽいことを言わず、突飛な行動をしなければ、普通にカッコイイのにな……なんて思うと変に意識してしまいそうになる。「今度は私服で来てよ」 「あの、今度って?」 今度、私が事務所を訪れたとき? それとも今度、今日と同じように外で会うとき? いやいや、どちらもおかしい。 どちらも仕事なのだから、私服を着ていく意味がわからない。 というか……本当に読めない人だ。 だって今もイルカが跳ねるのを見て、キャッキャと喜んでいる。「朝日奈さん、サメってすっごくカッコいいんだね!」 「そうですね」 「あ! あそこにウミガメもいるよ! 朝日奈さんって、ちょっとウミガメに似てない?」 「あの、褒められていないと思うんですけど!」 イルカのショーを見終わった後も、ずっとこんな調子でテンションが高い。 あちこち引っ張りまわされ、精神的にも肉体的にも私に疲れが押し寄せる。「怒った? 冗談だ
Huling Na-update : 2025-04-03 Magbasa pa