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Lahat ng Kabanata ng 解けない恋の魔法: Kabanata 11 - Kabanata 20

39 Kabanata

第二章 共有 第四話

 水族館へ行けば、優れたアイデアが浮かんでくると言っていた宮田さんだったけれど。  もしかして騙されたのかもしれないと感じたのは、その翌日だった。  お昼過ぎに現地集合という待ち合わせで水族館に赴くと、入り口のところに立っている宮田さんの姿が見えた。  いつもと違って、今日の宮田さんはカジュアルな私服だ。「朝日奈さん、早く早くー」 水族館の前で、うれしそうな笑みをたたえて手招きされると、小さい子どもに急かされているような気分になる。「お疲れ様です」 「十三時半からイルカのショーが始まるんだよ。だから急がなきゃ。って……朝日奈さんはなんでスーツ姿なの?!」 私だって待ち合わせの時間よりもずいぶん早く来ているというのに、いきなり急かされる意味がわからない。  なぜスーツなのかは、仕事だからに決まっている。「スーツじゃいけませんか? これも一応、視察なので仕事の一環ですし。というか、午前中は普通に会社で仕事をしていましたので、自然とスーツになります」 淡々とそう述べると、宮田さんが小さくプっと噴出して笑った。  笑うとは失礼だ。おかしなことはなにも言っていないと思うけれど。「とにかく行こう。イルカ、イルカ!」 「わっ!」 いきなり私の手を引いて、宮田さんが小走りに走り出したものだから驚いた。  繋がれた手に私の神経が一気に集中する。 子どもっぽいことを言わず、突飛な行動をしなければ、普通にカッコイイのにな……なんて思うと変に意識してしまいそうになる。「今度は私服で来てよ」 「あの、今度って?」 今度、私が事務所を訪れたとき?  それとも今度、今日と同じように外で会うとき?  いやいや、どちらもおかしい。  どちらも仕事なのだから、私服を着ていく意味がわからない。  というか……本当に読めない人だ。  だって今もイルカが跳ねるのを見て、キャッキャと喜んでいる。「朝日奈さん、サメってすっごくカッコいいんだね!」 「そうですね」 「あ! あそこにウミガメもいるよ! 朝日奈さんって、ちょっとウミガメに似てない?」 「あの、褒められていないと思うんですけど!」 イルカのショーを見終わった後も、ずっとこんな調子でテンションが高い。  あちこち引っ張りまわされ、精神的にも肉体的にも私に疲れが押し寄せる。「怒った? 冗談だ
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Magbasa pa

第二章 共有 第五話

「いっぱい写真撮ったよ。デザインの参考になるかな」 そう言って、スマホの画面を私に見せ付けてくるけれど。「ウミガメ……多いですね」 他の生き物の写真も撮っていたけれど、ウミガメの写真がやたらと多い。  そんなにウミガメを気に入ったの? 「え?! いつのまに撮ったんですか?……私が写ってる」 スマホをスライドさせると、次に出てきたのは水槽を見ている私の写真。ウミガメとの2ショットだ。「ほら……大きさの比較のために、朝日奈さんも入れといた」 お、大きさの比較?  私とウミガメの比較をして、この人はどうしたいのだろう。  あぁ、やっぱり全体的に意味不明だ。 進路を先に進むと、180度のトンネル水槽の空間へ。  そこはわりと広くて、全然圧迫感のない大きさだった。  濃いブルーの照明が、幻想的な世界を造り出している。  大きな水槽の中を悠々と泳ぐ魚たちがいる。  見上げると、大きなマンタが私の真上を泳いで行った。「こういう感じなんですけどね。深い深いブルーの色合いとか」「へぇ、なるほど」 ポツリと呟いた私の言葉は、主語なんてなかったのに。  宮田さんは水槽を見つめながらも合いの手を返してきた。「朝日奈さんの頭の中のイメージは、こんな感じだったんだ」 「はい」と返事をしようと思ったその時、背中に気配を感じた。 私はガラスの壁の向こうを泳ぐ魚たちを見ていたのだけれど。  背後から宮田さん、ガラスに手を付く形で私を挟んで覆いかぶさっている。「み、宮田さん」 瞬時に身体が硬直して、振り向くこともままならなかったから声で抗議した。 だって、私はガラスと宮田さんに挟まれているからすごい密着度だ。  だけど彼は「綺麗だねー」などとつぶやくだけで、その体勢はしばらく崩してくれなかった。  サラリとこんなことをやってのけるなんて、この男……本当は女たらしだったりして。◇◇◇ 例の水族館視察から十日が経った。  一昨日もアトリエ部屋に様子をうかがいに行ったけれど、宮田さんはいつもの調子で呑気に構えていた。  ……デザインは進んでいるのだろうか。それだけが気がかりだ。「緋雪、下にお客さんが来てるって」 会社で黙々と仕事をしているところに、受話器を持った麗子さんからそう声をかけられた。  誰かとアポイントなんてあったかなと、すぐ
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第二章 共有 第六話

「ちょっと私、下に行ってきます」 机の上に広げていた書類を失くさないように大慌てでバインダーに放り込んで準備をする。「朝日奈、宮田さんって誰だ?」 事務所を駆け出して行きそうな私の後ろから、袴田部長の声がした。「あの……最上梨子さんの、マネージャーをされてる方です」 振り返り、部長に愛想笑いしようとしたが顔が引きつった。今は部長の目を見ちゃダメだ。「最上梨子の?……じゃあ、俺も挨拶しとくか」 部長のその言葉で、引きつった顔から冷や汗が出そうになる。「いえいえ、大丈夫です! ほんの、端的な話だけかもしれませんから私が行ってきます!」 袴田部長は私の上司だ。  だから部下がお世話になってる人に挨拶しようとするのは、当たり前の話なのだけれど。  なぜか私はふたりを会わせてはいけない気がした。  だって、なにかボロが出そうで怖い。「おい!」と後ろから部長の声がしたけれど、私はそれを振り切って廊下を走った。 こんなにやましい気持ちになるのはやはり……例の秘密を抱えているから ――。  エレベーターを降りて一階のロビーへと到着すると、宮田さんが接客用のテーブルセットの椅子に腰を下ろして出されたコーヒーを悠長に飲んでいた。「宮田さん、どうしたんですか?!」 私の声に顔を上げて、にこりと微笑む。  今日の宮田さんはいつもと違って、パリッとしたスーツ姿だ。「ちょっとね、朝日奈さんに会いたくなって」 ……中身はいつもと変わらない。「冗談はやめてください」 「ははは。怒ってる。怖いなぁ」 ……怖いなんて、微塵も思ってないくせに。「頭の中が煮詰まりそうだったからさ、見学にこようと思って」 「え? ここにですか?」 「うん、チャペルとか披露宴会場とか衣裳部屋とか。そういえば見てなかったもんね」 「そうですね」 「見学するなら、朝日奈さんと一緒に回るべきでしょ?」 見ても参考になるかどうか、正直わからないけれど。  本人が見たいと言うのだから断る理由などない。  だいたい、なにが元でインスピレーションが湧くのかわからないのだから。この人は、特に。「見学できる?」 「はい。今日は平日ですので、少しだったら大丈夫かと」 「そ。じゃ、行こう!」 「というか、事前に電話くらいしてください。いきなり来られたらビックリするじゃないです
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第二章 共有 第七話

「森のイメージのやつさ、場所はここでもいいんじゃない?」 「え?」 「せっかくこんなに綺麗な庭があるんだから。朝日奈さんのイメージした“木々があふれる森の中”をここに造るんだよ」 そうか、それもありだよね。  庭に造ってしまう構想は私の頭にはなかった。    それが本当にできるかどうかはわからないけど。  ……本物の木を植えていくのは無理があるし。 それでも、宮田さんと一緒に見てまわってイメージが湧いたのは私のほうだ。「ガーデンプランナーさんに相談してみます」 そう言うと、宮田さんは笑って大きく太陽に向かって伸びをした。「朝日奈!」 そんな私たちの背後から声がして、振り返ると袴田部長がこちらに歩み寄ってきていた。「ぶ、部長!」 動揺して、思わず部長と宮田さんの顔を交互に見てしまう。「すみません、ご挨拶が遅れました。袴田と申します。いつも朝日奈がお世話になっております」 宮田さんの前にきちんと姿勢よく立って、部長がいつものようにさりげなく名刺を差し出す。「上司の方にもご足労をいただきまして申し訳ありません。わたくし、最上梨子のマネージャーをしております宮田と申します。いつも朝日奈さんには最上がお世話になってます」 宮田さんのスイッチが見事に切り替わった。 声質までいつもより低音になっている。  自然とこんな声と口調になれるのだから、どちらの宮田さんが本当の宮田さんなのか、わからなくなってくる。  そんなことを思いながら、二人が名刺交換するのをただぼうっと見つめていた。「今日は……最上さんは?」 一緒に来ていると思ったのか、部長が不思議そうに最上梨子の姿を何気なく探している。「今日は私が最上の代理で見学に来ました。最上は……わがままなところがありまして、外に出ることを嫌いますので」 わがままなのは、あなたです。「そうでしたか。最上さんが、ご自分の目で見てみたいとご要望されたのかと思ったんですが。私の勘違いですね」 だいたい部長が、こんなところをたまたまフラフラと歩いているわけがない。  受付の誰かに、私たちが館内を見て回ってることを聞いたのだろう。  ……最上梨子も来ているかも、と考えたのかもしれない。 上司として挨拶や話をしなくてはと思ったのか、はたまた単純に最上梨子の容姿を見てみたいと思ったのか、理由は定
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第三章 憧れか、一目惚れか 第一話

「朝日奈ー、ちょっと来い」 あれから見学を終えて帰っていく宮田さんをロビーでお見送りした。 事務所に戻ってくると、早速袴田部長からの呼び出しがかかる。  なにを言われるのだろう、いや……なにを問いただされるのだろう、と背中に緊張が走った。  宮田さんのことで部長が何か怪しいと思う部分があったんじゃないだろうか。 まさか、――― 秘密のことを見破られた?「あっちで」と、指し示されたのはミーティングルームだった。 「朝日奈、お前……大丈夫か?」「……え? なにがですか?」 怪訝な表情の部長を前に、私は冷や汗をかきながら動揺した。  今の自分は絶対に目が泳いでいる。  だって何について聞かれているのか、抽象的過ぎてわからないから余計に怖い。「さっきの、宮田さんだよ。最上梨子も変わり者だって噂だが、マネージャーのあの人も変わってそうだな」 ええ、同一人物ですので。「あの人さ……」 「はい」 「もしかして、お前に気があるんじゃないのか?」 「は?!」 部長の言葉が突飛すぎて、意味がわからない。  なにを言ってるんですか、という意味を込めて瞬時に驚きの声をあげた。「部長、わけのわからないことを言わないでくださいよ。なにを根拠にそんなことを……」 「俺に対して牽制するような視線を向けてきた。まるで敵視するみたいに」 「え?!」 私もあの場にいたけれど、どの段階で宮田さんがそんな視線になったのかまったくわからない。  私にはちゃんと温和なマネージャーキャラを演じていたように見えていた。「部長の勘違いじゃないですか? だいたいどうして部長を敵視するんですか」 「俺が結婚してるか尋ねてきただろ? あのときにそう感じた。俺とお前の関係を気にしたんだろうな」 たしかにあの質問は突飛だった。  話の流れでとかそういうことではなく、いきなり宮田さんが振った話題だったけれど。  だからって、それだけで判断するのはちょっと乱暴だ。「私が部長となんて、ありえませんよ!」 「お前……それはいくらなんでも俺に失礼だろう」 「すみません」 笑いながら謝ると、部長も噴出して笑った。「俺もお前が誰と付き合おうが、恋愛事情なんて知ったこっちゃないが。仕事は仕事だ。公私混同して滅茶苦茶にするなよ? それに、あの宮田さんにもしもしつこく迫られたら
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第三章 憧れか、一目惚れか 第二話

「……疲れた」 自然と独り言が口からついて出る。  この日の私は提携している照明会社への訪問、社内会議、報告書の作成など、とにかく目まぐるしく過ごしていた。 やっと長い一日の仕事を終えようとするときには、時計はすでに20時をまわっていた。  会社を出て、駅へと向かうその道すがら、楽しそうに大きな声で会話する酔っ払ったサラリーマンの中年男性数名とすれ違う。  ……いいなぁ、楽しそうで。 だいたい、こんなに忙しくしていてはストレスが溜まるばかりで、恋をしている暇もない。  とはいえ、出会い自体もないのだけれど。 たまには私も友達を誘って飲みに行き、せめて日ごろの鬱憤だけでも晴らさなきゃやってられないな、などと考えていると、バッグの中でけたたましくスマホが鳴った。  着信画面の表示を見て、そのまま『拒否』のボタンを押したい衝動にかられるが……。  仕事の電話なのでそうもいかない。「もしもし、朝日奈です」 疲れた身体に鞭を打ち、営業用のすました声で対応する。『あ、朝日奈さん? 今からこっち来て』「来れる?」ではなくて、「来て」というあたりが、相変わらず有無を言わせないわがままっ子ぶりだなと思う。  わがままというより、王様みたいだ。  最近のストレスの元は、やはりこの人じゃないだろうか。「い、今からですか?」 『そう。もしかしてもうお風呂入ってスッピンになっちゃったから、外に出たくないとか?』 「いえ。今仕事が終わって帰ってる途中ですので」 『そっか。じゃあ、ちょうど良かったね』 なにがちょうどいいのか教えてもらいたい。  こっちは長い長い一日が終わって、一刻も早く家路につきたいというのに。 それに、こんな時間に呼びつけて悪びれている様子は一切ないようだった。  『こんな時間まで仕事なんて大変だね』くらいのことは言えないのだろうか。  少しは労わったり、気を遣ってもらいたい。 ……あぁ、駄目。  きっと、この人にそんな気の利いたことを望んではいけないのだ。「えっと……明日ではダメなんでしょうか」 おそるおそる、極力失礼のない言い方でそう申し出てみた。  いいよと言うとは思えないけれど、一か八かで。『ダメダメ』 軽い口調で即答され、私はスマホを手にしたままうな垂れる。『だってね、めちゃくちゃ良いアイデアが浮か
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第三章 憧れか、一目惚れか 第三話

 でも、彼の言う“めちゃくちゃ良いアイデア”というのは、どんなものなのか気になる。 これまで、まったくイメージがわかないと言っていたのに。  彼のデザイナーとしての閃きは天才的だから、なにか少しでも取っ掛かりが見つかると、常人では思いつかないアイデアが降臨してくるのかもしれない。  そうだとしたら、時間がどうの、疲れがどうの、などと私の都合を言っていられない気がした。「わかりました。今からすぐ伺います」 私がそう言うと、『待ってるねー』という明るいトーンの声が聞こえて、そのままプツリと電話は切れた。 駅に着いて改札を抜け、構内のトイレに駆け込んだ。  鏡で自分の顔を確認すると、案の定ひどい状態だった。  このあとはもう帰宅するだけだと思っていたから、無防備に化粧が崩れてドロドロだ。  浮き上がった脂を取って、上からパフで粉を施す。リップも綺麗に塗りなおした。  すでに疲れきった一日の終わりに、一番疲れる人のところへ今から向かうのだ。  エネルギーは残っているだろうか。  心配になりつつ、ほかには誰もいないトイレで密かに気合を入れた。 最上梨子デザイン事務所へ着くと、宮田さんがいつものごとく笑顔で出迎えてくれて、すぐに例のアトリエ部屋へと通された。「朝日奈さん、早かったね。そんなに早く僕に会いたかったのー?」 いきなりの先制パンチにクラクラする。いつもの冗談に突っ込む気力もない。  今日はエネルギー不足だとか、そんなことはこの人には関係ないもの。「お電話いただいたときには、もうすでに駅近くにいましたので」 淡々とそう述べると、彼は「ふぅ~ん」と生返事をしながらコーヒーメーカーへと近づいていく。  そして、ふたつのカップにコーヒーを注いで戻ってきて、例の真っ黒な高級ソファーにゆったりと腰を下ろした。「あの、早速なんですが。先ほど仰っていた、浮かんだアイデアというのは……?」 「ああ、あれね。浮かんだのはまだ漠然としたイメージだけなんだけど。朝日奈さんがどう思うか聞いておきたくてね」 「……はい」 どんなアイデアなのか、すごく気になってワクワクする。  宮田さんが奥にあるデスクへなにか取りに行って、戻ってきたと思ったらガラステーブルの上に写真を並べた。  視線を向けると、それはこの前水族館で撮った写真だった。「これ! 
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第三章 憧れか、一目惚れか 第四話

 しゃぼん玉か。会場の演出としては、アリだと思う。「入り口の両サイドに小さな装置を置いて、静かにフワフワっとしゃぼん玉が漂う中で来賓をお出迎えするのもいいですね!」 それならば、邪魔にはならないかわいらしい演出だと思う。  私の頭の中で、すんなりとイメージが湧いてきた瞬間だった。「えぇ? 入り口付近だけ? どうせならもっと派手にいこうよ」 「派手、に?」 「うん。披露宴中に上からもドバーっと、すごい量のしゃぼん玉を落とそうよ! 来賓客が驚いて、うわぁ~って声を出しながらみんな見あげるんだ」「え……」 「サプラーイズ! って感じになるでしょ。想像すると、ワクワクするね!」 あの……私はワクワクが吹っ飛んで、頭痛がしてきましたが。「そんなことできませんよ!」 「どうして?」 「来賓の方にしゃぼん玉が大量にかかって大変なことになります! それに、テーブルの上のお料理もお飲み物もすべて台無しですよ!」 「あー、そっか、なるほど」 いい案だと思ったのに、と宮田さんは肩を落としながら口を尖らせる。 来賓客の中でも特に女性は高級な着物やドレスを身に纏っている人が多数いる。  そんな人たちのお召し物に、シミがついてしまう可能性のある大量しゃぼん玉の演出なんてできるわけがない。  髪だってそうだ。  朝から美容院できちんと綺麗にセットしてもらった髪が、しゃぼん玉の泡でぐちゃぐちゃになるかもしれない。  若い人たちは比較的サプライズを喜んでくれても、中高年の人たちからはクレームになりかねないだろう。 はぁ……この人の閃きは非凡すぎるから。  凡人である私にはついていけないだけなのかな。  というより、まずは常識的なところに気を配ってもらいたいものだ。「あ、そしたらさ!」 目の前の宮田さんが、またなにか思いついたというような顔をする。  目がキラキラしている。  なにを言い出すのかと思うと、聞く私のほうが一瞬ひるんだ。「花火はどう?」 「は、花火?!」「うん。お色直しのあと、高砂に新郎新婦が座った途端に、両サイドから、シャー!って下から吹き上げる派手な花火。そういうのもサプラーイズ!って感じで、みんなびっくりするだろうね!」 そ、そんなにサプライズがお好きですか。  ドッキリを仕掛けるのが目的じゃないんですけど!「もちろん
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第三章 憧れか、一目惚れか 第五話

「朝日奈さんさぁ、晩御飯まだだよね? たしか、仕事の帰りだって言ってたもんね」 「……はい」 「じゃあ、今からなにか買ってくるよ」 「え?!」 ……なんですか、その唐突な言動は。  今、仕事の話をしていましたよね?  この人の頭の中のスイッチングが、本当にわからない。「けっこうです。お話が済めば失礼しますので」 「この近くにさ、遅くまでやってるテイクアウトのお店があるんだ」 すぐ買ってくるから、と笑みを向ける宮田さんに、人の話を聞いていますか?と突っ込みたくなる。「朝日奈さんはきっとお腹がすいてるんだよ。人って、お腹がすくと無意識に不機嫌になるからね」 一方的にそう言葉が放たれ、パタンと部屋のドアが閉まる。  急にシンと静まりかえる部屋。  突然ひとりでこの部屋に残されてしまった。  だいたい、去り際に言ったさっきのセリフはなんなのよ。  このイライラの原因は、空腹からきているとでも?  仕事終わりに呼びつけられ、おかしな発案ばかり聞かされればイライラしてくるに決まってる。  それを私が空腹だからだと思いこむあたり、ポジティブというかズレてるというか。 誰もいないのをいいことに、私はソファーの背もたれにダランと頭を乗せて、ぼんやりと天井を見上げた。  そのまま数分が経ち、宮田さんは仕事の相手なのだから、イライラさせられたとしても顔や態度に出しちゃダメだと少しばかり反省モードになる。  本当はあの人が、デザイナー・最上梨子なのだから。 やはり今日はエネルギーが足りていないのがいけない。  エネルギー不足だと、あの気まぐれイタズラわがままっ子には太刀打ちできない気がする。  なにを買いに行ってくれたのかわからないけれど、宮田さんが戻ってきたら、適当に理由をつけて今日はもう帰ろう。  こういうときは、仕事の話も仕切りなおすのが一番だ。 宮田さんが戻るのを待っていたはずなのに……  私の身体はまるで充電が切れたかのようにソファーに沈んで、挙句まどろんでしまっていた。  ふと気づいた次の瞬間には、身体の上にブランケットが掛けられていて。  それに驚いて、咄嗟に飛び起きるように上半身を起こす。「す、すみません! 私、寝ちゃってました」 部屋の奥にある仕事用のデスクに座る宮田さんを視界に捉え、あわてて頭を下げる。  
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第三章 憧れか、一目惚れか 第六話

「あ、起きた?」 少しまどろむ、なんてかわいいものじゃない。  どうやら私はソファーで一時間以上ぐっすりと眠ってしまっていたようだ。「疲れてたんだね」 宮田さんがデスクから離れ、こちらへと歩み寄ってくる。  その顔はおだやかで、不機嫌な様子はない。「買ってきたものが冷めちゃったな」 「本当に申し訳ありません」 宮田さんにしてみれば、食事を買いに行って戻ってきたら私は寝ているのだからあきれただろう。  あぁ、もう……穴があったら入りたい、とはこのことだ。  恥ずかしさと申し訳なさで、真っ直ぐ宮田さんのほうを見ることすらできずにうつむく。「それにしても寝ちゃうとは。いい度胸してるよね」 「っ………」 機嫌を損ねなかったのは不幸中の幸い……などと勝手に思っていたけれど。  口調とはうらはらに、実は密かに怒っているのかもしれないと疑念を抱く。 宮田さんが怒ったところなんて、今まで見たことがないけれど。  こういうタイプは怒ったら怖い……とか?「それとも、僕を誘ってるってことだったのかな?」 隣に座った宮田さんを盗み見るといつもの笑顔を浮かべていたので、なぜかそれが私をホッとさせた。  ……怒ってはいないようだ。「ち、違います!」 「はは」 誘っているとか、100%冗談だとしても恐ろしいことを言わないでもらいたい。  冷静に考えてみたら、いつもこの部屋で私たちはふたりきりなのだから。「人生で最高に大切な思い出を、一緒に造ってあげたいのはわかるけどさ。ハードに仕事をしすぎたら身体を壊すよ?」 「……え?」 「雑誌で言ってたでしょ? この仕事を始めたきっかけ」 もうそろそろ失礼します、と頭を下げて帰ろうかと思っていた矢先だった。  宮田さんが不意にそんなことを言ったのは。 それって、例の……  私が袴田部長に騙されて載ってしまった雑誌の話だ。『新郎新婦のおふたりにとって、人生で最高に幸せで大切な思い出を私も一緒に造ることができたらと思ったからです』 あの質問と答えの部分だけ活字がほかより大きかったけれど、そこまでよく覚えてるなと感心してしまう。「あれは……実際にそう思ってる部分はありますけど、ほかにももっとあるんです」 「?……なにが?」 「この仕事を始めようと思った、不純な動機です」 私が苦笑いでそう言う
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