All Chapters of 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています: Chapter 11 - Chapter 20

46 Chapters

第11話

確信したこの口ぶり。私と藍が幼なじみだって知ってるってことは……。「もしかして、柚子(ゆず)ちゃん!?」「そうだよ。わたし、円山(まるやま)柚子!萌果ちゃん、わたしのこと覚えててくれたんだ」「もちろんだよ~!」隣の席になった女の子・柚子ちゃんは、私が小学生の頃に仲が良かった友達。5年ぶりの再会に、私と柚子ちゃんは互いに手を取り合って喜ぶ。「柚子ちゃんも、この高校だったんだね」「うん。萌果ちゃんとまた同じ学校に通えるなんて、嬉しい!」私が福岡に引っ越すとき、柚子ちゃんは寂しいと泣いてくれて。手紙まで書いてくれた。当時は、お互いスマホを持っていなかったから。引っ越してから、連絡を取り合うことはなかったけれど。柚子ちゃんのことを忘れたことはなかった。「ねえ。こっちに戻ってきたってことは萌果ちゃん、久住くんとは会ったの?」柚子ちゃんに尋ねられた私は、言葉につまる。小学1年生のときに同じクラスになって仲良くなった柚子ちゃんは、私と藍が幼なじみで、私がいつも藍の世話を焼いていたのをそばで見ていたから。本当のことを言うべきかどうか迷った。だけど……。「いや。こっちに戻ってきてから、藍とは会ってないんだよね。福岡に行ってからは、連絡もとってなかったし」迷った末、私は藍とのことは柚子ちゃんにも隠すことにした。「そっかぁ。まあ、幼なじみって言っても高校生にもなれば、小さい頃みたいに仲良しってこともないよね。今や久住くんは、人気モデルだし」「そう、そうなの!いやあ、藍ったら会わない間にモデルになっててびっくりだよ」嘘をついてごめんと、柚子ちゃんに心の中で謝る。でも、今朝私は藍と同居のことは秘密にするって約束したから……!それから話題は藍から他へと移り、柚子ちゃんと会えていなかった5年間の積もる話に花を咲かせた。**始業式の今日は午前中に学校が終わったので、柚子ちゃんが校内を案内してくれることに。「ここの学校には、普通科の他に芸能科があるんだけど……」柚子ちゃんの説明を聞きながら廊下を歩いていると、2年A組の教室の前には何やら人だかりが。あれ?どうしてあそこの教室の前だけ、あんなに人であふれているの?しかも、いるのは女の子ばっかり。「ああ……あそこのA組が、今話してた芸能科のクラスだよ」「そうなんだ!」「だから、芸能科に自分の好きな俳
last updateLast Updated : 2025-03-17
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第12話

「きゃ〜。藍くんに睨まれちゃった」「冷たい久住くんも素敵!」女の子たちは、キャーキャー言っている。あ、あれ……?「ファンの子曰く、ああいう久住くんもかっこいいんだってさ」隣に立つ柚子ちゃんが、私にこっそり耳打ちしてくる。へぇーっ、そうなんだ。ファンの子からしたら、どんな藍も良いってことね。芸能人って人気商売だろうからちょっと心配になったけど、藍の人気に影響がないのならいいか。歩いていく藍のほうをしばらく見ていると、ふいに藍がこちらを向いた。──パチッ。あれ。今、目が合った?私に気づいたのか、先ほどまで無表情だった藍の顔つきが柔らかくなり、彼の唇が弧を描く。「……っ!」私に向かってふっと微笑まれたような気がして、心臓が跳ねた。「キャー、藍くんが笑ったわー!」「かっこいいー!」女の子が、さっき以上に騒ぎ立てる。ほんと、大人気だな。私もこっそりと藍に向かって微笑み、柚子ちゃんと歩き出そうとしたとき。──カシャッ、カシャッ!どこからか、カメラのシャッター音がした。反射的に、音のしたほうを振り返る。「やったあ。学校での藍くんのレアな笑顔、撮れたーっ!」金髪の派手な女の子が、藍へと向けてスマホを掲げていた。「いいなあ。その写真、私にもちょうだい?」「いいよ〜。ていうかこれ、SNSにアップしちゃおっかな」え?SNSに載せるって……。胸の辺りがモヤモヤする。いくら芸能人だからって、他人に勝手に写真を撮られたら嫌だろうし。そもそも盗撮なんて、やってはいけないこと。そのうえ、SNSにまで載せられたら……藍もいい気はしないよね?そう思うと居ても立ってもいられず、私は金髪の子に声をかける。「あの、今撮った写真消してくれませんか?」金髪の子が、眉をひそめる。「いくら相手が芸能人だからって、盗撮するのは良くないです」「は?いきなり何なの、アンタ」金髪の子の射るような目つきに、怯みそうになる。えっと、藍の幼なじみ……とは、さすがにここでは言わないほうが良いよね。「あのね、あたしは藍くんがデビューして以来のファンで。自分でこの写真を見て楽しむために、撮ってただけじゃない」嘘つけ。今、SNSに載せるとか言ってたじゃないの!「そうだとしても!もし自分が知らないところで勝手に写真を撮られて、SNSに載せられたら嫌じゃないですか?
last updateLast Updated : 2025-03-18
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第13話

己の身に受けるであろう痛みを覚悟し、私が咄嗟に目を閉じたそのとき。「……何やってるの?」辺りに、低い声が響いた。そっと目を開けると、私のすぐそばにはいつの間にか藍が立っていて、金髪さんの腕を掴んでいた。「ら、藍くん!?」意外な人物の登場に、先輩は目を大きく見開いている。「俺、盗撮する人は好きじゃない。昔の嫌な思い出のせいで、ただでさえ女子が苦手なのに。そんなことをされたら、もっと苦手になる。それに……」藍にギロリと睨まれ、先輩の肩がビクッと大きく跳ねる。「この子のこと、殴ろうとしたでしょ?それって人としてどうなの?相手が気に入らないからって、すぐに手をあげるなんて。俺、そういう人は嫌い」「……っ!ご、ごめ……写真消します」応援していた藍に『嫌い』と言われたのがショックなのか、先輩の目には薄らと涙が。「スマホのゴミ箱にあるのも」「はい……消しました」スマホの画面を、藍に見せる金髪先輩。「どうも。さっきはつい、キツい言い方をしてしまったけど……俺のこと、応援してくれてありがとう。これからは盗撮とかじゃなく、違う形で応援して欲しい」金髪先輩にそれだけ言うと、藍はスタスタと廊下を歩いていく。藍、私のことを助けてくれたんだ。小学4年生くらいから藍はモテていたけど、その頃は女の子をただ冷たくあしらうだけだった。でも、今はああいう盗撮をしていた先輩にも『応援ありがとう』って言えるなんて、すごい。藍も変わったんだな。「ら……久住くん、ありがとう!」私が藍の後ろ姿にお礼を言うと、藍はこちらを振り返ることなく片手を上げた。**その日の夕食の時間。久住家のダイニングで私は、藍と橙子さんと食卓を囲んでいる。「萌果ちゃん、今日はありがとう。俺のことを盗撮していた女子に、注意してくれて」「藍、盗撮とかああいうのは特に嫌いだろうなって思って。藍が嫌なことをされてるの、黙って見ていられなかったから」「やっぱり萌果ちゃんは、俺のことよく分かってるよね。物怖じせず、ズバッと注意する萌果ちゃん、かっこよかったよ」「そう?」「うん。萌果ちゃんは、昔からいつも俺のことを守ってくれて。そういう変わらないところ、好きだなぁ」サラッと言われ、私は飲んでいたお茶を吹きそうになった。す、好きって……藍ってば、橙子さんもそばにいるのに!向かいに座る藍を直視で
last updateLast Updated : 2025-03-19
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第14話

あーんって……。藍に口元にイチゴを持ってこられ、私は躊躇してしまう。「……っ、いい。自分で食べられるから。藍の気持ちだけもらっとく」隣に座る橙子さんの目が気になって口を開けることが出来なかった私は、藍の手からイチゴを受け取り口へと放り込む。「うん、美味しい」藍からもらったイチゴは、とびきり甘酸っぱく感じた。「そういえば、萌果ちゃん。髪の毛は、昔みたいに結んだりはしないの?」「えっ?」「ほら。萌果ちゃん、小さい頃はいつもツインテールにしてたじゃない」ツインテール……そういえば、中学生になってからは、ずっとしてないなぁ。藍の言うとおり、私は子どもの頃はよく髪をふたつに結んでいた。「あのときの髪を結んでた萌果ちゃん、すごく可愛かったから。久しぶりに、また見たいなって思って」「え!?」す、すごく可愛かったって!そんなストレートに言われたら、照れるよ。「そうねえ。藍の言うとおり、とても可愛かったわ。息子も良いけど、女の子も良いなって、あの頃の萌果ちゃんを見てて私も思ってたのよね」うう、燈子さんまで……。久住親子に褒められ、私の顔は一気に熱くなる。ほんと二人とも、お世辞が上手なんだから。「ねえ、萌果ちゃん。良かったら、リクエストしてもいい?」「リクエスト?」「うん。俺、髪結んでる萌果ちゃんを見たいなあ」私は、胸まで下ろした自分の髪にそっと触れる。「あっ。もちろん、今のストレートヘアの萌果ちゃんも素敵だけどね」藍の真っ直ぐな言葉に、私はうつむく。「だけど……もしも、萌果ちゃんが嫌とかなら、髪は無理に結んでくれなくて大丈夫だから」「うん。分かった」**翌朝。学校の制服に着替えた私は今、洗面所にいる。ボーッと鏡を見ながら、ヘアブラシで髪の毛を整えていると、昨夜の藍との会話がふと頭の中を過ぎった。『髪を結んだ萌果ちゃん、すごく可愛かったから。また見たいなって思って』もしも私が髪をふたつに結んだら、藍は喜んでくれるのかな?藍は担任の先生に用があるからと、今朝は早くに家を出て今はもういない。よし。昨日、藍にリクエストされたし。せっかくだから、今日は髪を結んで行こうかな。そう思った私はヘアゴムを手に取り、耳のところで髪をふたつに結んだ。**「おはよう、萌果ちゃん!」登校すると、柚子ちゃんが真っ先に声をかけてくれた。「おはよう
last updateLast Updated : 2025-03-20
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第15話

体育の授業は2クラス合同で行われるらしいのだけど、なんと私のクラスは藍のいる芸能クラスと一緒だった。「久住くーん」「藍くん、今日もかっこいいね」藍は今日も、沢山のファンの女の子たちに囲まれている。ムスッとしていて、相変わらず彼の愛想は良くないけれど。授業は男女別で行われるものの、同じ体育館に藍がいる。それだけで、なんだかとても嬉しかった。チャイムが鳴り、体育の授業が始まる。今日は、バスケットボールをするらしい。みんなで準備体操をしたあと、男子と女子がそれぞれ別のコートに分かれて練習開始。まずはドリブルやシュートの練習に取り組み、残りの時間で試合をすることになった。芸能科のA組と、私たち普通科のB組が対戦する。男子側のコートでは現在、藍のいるチームが試合をしている。そして今休憩中の私は柚子ちゃんと一緒に、体育館の端っこに体育座りをして、藍たちの試合を見ていた。ていうか、芸能科のクラスの人たちは俳優やアイドル、歌舞伎役者など、キラキラした人ばかりで、眩しさに思わず目を閉じてしまいそうになるよ。「キャーッ。藍くん、頑張ってー!」藍のファンの子だろうか。私と同様に、休憩中の女の子たちはみんな、芸能クラスの男子たちの試合に見入っている。かくいう私の視線も、無意識に藍へと一直線。「久住!」コートではチームメイトからボールを受け取った藍が、相手チームのディフェンスをかわしながら、ドリブルでゴールへと向かって駆けていく。──シュッ。藍が放ったボールは、美しい弧を描いてゴールへと吸い込まれていった。「きゃあああ」体育館は、大歓声に包まれる。藍、すごくかっこいい。藍って、バスケも上手なんだな。そのまま藍を見ていると、藍が偶然私のほうを向いた。「えっ」不意に藍と目が合い、ドキリとする。藍、もしかして私に気づいた?私のことを、しばらくじっと見つめる藍。私もそのまま彼から目を離せずにいると、少しして藍の口がパクパクと動いた。『か・わ・い・い』……っ、ええ!?ふわっと優しく微笑んだ藍が、両手を握り拳にして自分の耳元へと持っていく。えっ、あのポーズ……もしかして藍、私のツインテールに気づいてくれたの?それで『かわいい』って、褒めてくれたの?私は、ツインテールをぎゅっと握りしめる。どうしよう、嬉しい……。「キャーッ!今、藍くんが笑っ
last updateLast Updated : 2025-03-21
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第16話

夜。私は今、藍と燈子さんと一緒に夕食をとっている。ちなみに今日の献立は、サーモンとほうれん草のクリームシチューに、サフランライスとサラダだ。「それにしても、さっそく萌果ちゃんが、髪をふたつに結んでくれるとは思わなかったなあ」向かいに座る藍が、クリームシチューを口にしながらニコニコと話す。「それ、俺のためにしてくれたって思ってもいいんだよね?」今もまだツインテールのままの私を、藍がじっと見つめてくる。「べ、別に、藍のためじゃなくて。気分転換に、してみただけだから」素直になれず、うつむく私。「そっか。それでも俺は、嬉しかったよ。萌果ちゃん、昔と変わらずほんと可愛い」「……っ」藍の真っ直ぐな言葉に、身体が変に熱くなってくる。「また、髪ふたつに結んでくれる?」「き、気が向いたらね……ごちそうさまでしたっ!」ちょうど夕食を食べ終えた私は立ち上がり、自分の食器をシンクへと運ぶ。「あっ、燈子さん。今日の食器洗いは、私にやらせて下さい」同じく夕食を食べ終え、シンクの前に立った燈子さんに私は声をかける。「えっ。そんな気を遣ってくれなくて良いのよ?萌果ちゃんは、ゆっくりしてて」「いえ。いつもお世話になってるので。たまには、私にも手伝わせて欲しいんです」「まあ、なんていい子なの。藍にも、少しは萌果ちゃんを見習って欲しいものだわ」燈子さんが、食卓の椅子に腰かけたままスマホをいじっている藍を軽く睨みつける。「それじゃあ、せっかくだし……お願いしようかしら」「はい。燈子さんは先にお風呂にでも入って、ゆっくりしててください」私は燈子さんに、ニコッと微笑む。よーし。やるぞー!燈子さんが部屋から出ていくのを見届けると、私は腕まくりをして、スポンジを手に食器を洗い始める。今日は転校してから初めての体育があって、身体をいつもよりもたくさん動かしたからか、少し疲れたなあ。疲労感を覚えながら、しばらく洗い物をしていると。「ふわぁ」無意識に、大きなあくびがこぼれた。──ガシャン。「あっ」ぼんやりしていたせいか、うっかりグラスを落としてしまう。その衝撃で、シンクには粉々になったグラスが散らばった。「うわ、大変……どうしよう」とりあえず片づけなくちゃと、手を伸ばしたとき。「痛っ」グラスの破片で指を切ってしまい、血がにじむ。「萌果ちゃん!?」
last updateLast Updated : 2025-03-22
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第17話

「それより、大丈夫!?手、見せて」藍が、私の手をそっと掴んだ。「血が出てるね。少し、しみるかもしれないけど……」 藍は私の手を掴んだまま、流水で傷口を洗ってくれる。「……っ」 「やっぱりしみる?」「ちょっとだけ……でも、大丈夫」「グラスで切っちゃったの?」「うん。洗い物の途中で、うっかり落としちゃって」傷口を洗い終えると、藍は患部に触れないよう、ハンカチで水を拭き取ってくれた。「今、絆創膏持ってくるから待ってて」「でも、割れたグラスが……」「それは俺が片づけるから。萌果ちゃんは、触っちゃダメだよ」言われたとおり大人しく待っていると、藍が絆創膏を手に戻ってきた。「はい、指出して」「えっ……絆創膏くらい自分で巻けるよ?」「いいから」 なんでもない、ちょっとした切り傷なのに……藍は、すごく心配してくれて。優しく丁寧に、私の指に絆創膏を巻いてくれる。藍の真剣な表情に、胸がキュンとなった。小さい頃は、転んで怪我をした藍に絆創膏‪を貼ってあげていたのは私だったのに。いつの間にかそれが、逆転する日が来るなんて。「藍、ありがとう」「いいって」藍が割れたグラスを拾い、袋に入れていく。そういえばまだ、洗い物の途中だったな。グラスを片づけてくれる藍の傍ら、私が洗い物の続きをしようとすると。「あとは俺がやるから。萌果は休んでて」すかさず藍に、制されてしまった。「水に濡れたりしたら、傷がしみるでしょ?」「っ……」役に立つどころか、むしろ迷惑をかけてしまった。「ごめんね?」「ううん。萌果が謝る必要なんてないよ。洗い物は、できる人がやれば良いんだから」気にするな、と言うように、藍の手が私の頭にぽんとのせられた。「とりあえず、萌果ちゃんが大事にならなくて、ほんとに良かった」「そんな……藍ったら、私が少し怪我をしたくらいで大袈裟だよ」「そんなことない。自分の好きな子がちょっとでも怪我したら、居ても立ってもいられないよ」「藍……ありがとう」藍が私のことを、大切に思ってくれてるんだってことが伝わってきて。私の口からは、自然と感謝の言葉がこぼれた。**1週間後の朝。「あれ?」私が身支度を終えてダイニングへ行くと、いつもいるはずの藍の姿がそこにはなかった。「あの、橙子さん。藍は?」「あの子なら、今日は日直だからって、さっき
last updateLast Updated : 2025-03-23
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第18話

「えっ?」「あの子、細身のわりによく食べるじゃない? もちろん、萌果ちゃんのお弁当を食べても良いんだけど……」橙子さんは少食の私と食べ盛りの藍で、それぞれお弁当のご飯とおかずの量を変えてくれている。ウチの高校は私立だから、学食ももちろんあるけど……。藍が学食に行くとファンの子たちに囲まれて、ジロジロ見られながら食事することになるから。それが嫌で、学食は行かないって言ってたっけ。「萌果ちゃん、お願いしてもいい?」藍とは学科は違っても、同じ学校だし。何より私は、ここに居候させてもらっている身なんだから。橙子さんのお願いを、断るなんてできない。それに、橙子さんがせっかく早起きしてお弁当を作ってくれたんだもん。「分かりました。藍のお弁当は、私が持っていきます」「ありがとう。それじゃあよろしくね」私は笑顔の橙子さんから、藍のお弁当を受け取る。今をときめく人気モデルで、ただ歩くだけで注目の的になる藍にお弁当を渡すなんて、かなり難しいだろうけど。タイミングを見て、どうにか互いのお弁当を交換しなくちゃ。「あっ、そうそう。萌果ちゃん、今日は学校が終わったら、なるべく早く家に帰ってきてね」「分かりました」橙子さん、早く帰ってきてってどうしたんだろう?疑問に思いながら、私はトーストを口に運んだ。**「……はぁ。どうしたものか」今は、3限目の授業後の休み時間。私はタイミングが掴めず、まだ藍にお弁当を渡せていない。「どうしたの?萌果ちゃん。ため息なんかついて」私の席にやって来た柚子ちゃんが、心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。「何か悩み事?」「な、何でもないよ」私は柚子ちゃんに、ニッコリと微笑んでみせる。藍と一緒に住んでることは、絶対に秘密だから。いくら相手が柚子ちゃんでも、こればっかりは言えないよ……。「柚子ちゃん、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」授業が終わって休み時間になるたびに、私は藍のお弁当を手に、芸能科のクラスまで足を運ぶのだけど。「久住くーん」ああ、まただ。芸能科の教室の前は、いつ来ても沢山の女の子でごった返している。「藍くん、こっち向いてぇ」「……」教室の扉近くのファンの子に声をかけられるも、日直で黒板を消している藍はガン無視。学校で、藍と同居していることは秘密だし。こんなにも多くのファンの子たちがいる前で
last updateLast Updated : 2025-03-24
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第19話

キーンコーン……。お弁当を渡せないまま、ついに4限目が終わってしまった。ああ……同じ学校にいるのに、相手が芸能人っていうだけでこんなに苦労するなんて。「萌果ちゃん、お昼食べよ〜」いつものように隣の席の柚子ちゃんが、私の机に自分の机をくっつけてくる。やっぱり、もう一度藍のクラスまで行ってみようかな。「柚子ちゃん、私……」私が、席から立ち上がったとき。「キャーーッ!!」教室の扉のほうから突然、女の子の黄色い歓声が聞こえた。反射的に声がしたほうに目をやると、いつの間にか教室の扉の前には人だかりができていて。その人だかりのなかから、顔を覗かせたのは……。「うそ。あれって、久住くん?!」なんと、私のお弁当を掲げた藍だった。「どうして久住くんが、わたしたちのクラスに?」驚く柚子ちゃんの隣で、私もポカンと開いた口が塞がらない。もしかして藍、私が送ったメッセージを見て……!?急いで自分のスマホを確認すると。【ごめんね。昼休みに、萌果ちゃんのクラスまで行くよ!】いつの間にか、藍からメッセージが届いていた。藍ったら、来てくれるのは良いけど、自分が芸能人だってことを少しは自覚してよ!芸能科の藍が普通科の教室に来るのが珍しいのか、教室の前には人が集まって、ちょっとした騒ぎになっている。「ごめん、柚子ちゃん。お昼、先に食べてて!」私は柚子ちゃんに声をかけると、藍のお弁当を持って教室を飛び出した。私は教室の近くにいる藍の前を素通りし、走り続ける。さすがにあの場で、藍に人目も気にせず渡すなんてできないから。しばらく走り続けて到着したのは、人気の全くない非常階段。そこは薄暗くて、しんと静まり返っている。「ちょっと萌果ちゃん!いきなり走り出すなんて……!」しばらくして、藍が私のあとを追いかけてきた。「しーっ!」私は辺りに誰もいないのを確認して、藍に近づく。「はい、これ。藍のお弁当」「間違えちゃってごめん。今日は日直で、いつもよりも早起きだったから。まだ頭が起きてなかったみたい」私たちは、それぞれのお弁当を交換する。「それにしても藍、わざわざ教室の前まで来てくれなくて良かったのに。騒ぎになってたよ?」「ごめんね。俺、今日は早く家を出て、まだ一度も萌果ちゃんと顔を合わせてなかったから。少しでも、萌果ちゃんの顔が見たくて」私の胸が、
last updateLast Updated : 2025-03-25
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第20話

「梶間さん、転校してきて1週間になるけど、学校には慣れた?」「うん。少しずつだけど」まだ一度も話せていないクラスメイトもいるけど、柚子ちゃんが一緒にいてくれるおかげでほんと助かってる。「あのさ、俺らこれから何人かでカラオケに行くんだけど。良かったら、梶間さんも一緒に行かない?」「カラオケ……」そういえば、今朝家を出るとき橙子さんに、『なるべく早く帰ってきて』って言われたな。「えっと、私はちょっと……」「あたし、梶間さんと話してみたいって思ってたんだよね」断ろうとした私に、今度は三上(みかみ)さんが声をかけてきた。三上さんは美人で優しくて、いつもクラスの中心にいる女の子。まさかそんな子に、話してみたいと思われていたなんて……!「まだ話してないヤツもいるんだろ?円山さんも誘って、梶間さんのために1週間遅れの親睦会やろうよ」「っ」『梶間さんのため』なんて言われたら、断るのは悪いかな?クラスメイトにこうして声をかけてもらえると、正直やっぱり嬉しい。それに、この機会に私も三上さんたちと話してみたいし……少しくらいなら、参加しても良いかな?「それじゃあ、ちょっとだけ……」「よし。じゃあ、さっそく行こうぜ」こうして私は急遽、畑野くんたちとカラオケに行くことになった。︎︎︎︎︎︎**柚子ちゃんを含めたクラスの男女何人かで、駅前のカラオケにやって来た。「それじゃあ、俺から歌いまーす!」教室で私に最初に声をかけてくれた畑野くんが、一番に曲を入れて歌い始める。彼が歌うのは、カラオケの定番のアップテンポな曲。カラオケって久しぶりに来たけど、人が歌うのをただ聴いているだけでも楽しいよね。「よっしゃ!やったぞー!」歌が上手い畑野くんは見事、96点を叩き出したらしく、ガッツポーズしている。わあ。畑野くん、すごい……!「次は、わたしの番ね!」隣に座る柚子ちゃんが、マイクを手にする。柚子ちゃんが歌うのは、彼女が小学生の頃から好きな女性アーティストの曲。柚子ちゃん、今もまだあのアーティスト好きだったんだ。私が柚子ちゃんの歌声を聴きながら、オレンジジュースを啜っていると。「梶間さん、楽しんでる?」空いていた私の隣に、ひとりの男子が座った。無造作にセットされた、金色の髪。ヘーゼル色の目をした、二重のハーフ顔。ネクタイはゆるく結ばれており、ブレ
last updateLast Updated : 2025-03-26
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