「円山さん、いいなあ。ねえ、梶間さん。俺にはくれないの?俺も甘いもの、めっちゃ好きなんだけど!」俺には?って。陣内くんとはクラスメイトだけど、特に仲が良いって訳でもないんだし。何だかちょっと厚かましいな。私が買ったものならまだしも、これは藍からもらったお土産だし。だけど……「……はい」悩んだ結果、私はあとで食べようとブレザーのポケットに入れていたちんすこうを、陣内くんに一つあげた。陣内くんのことだから。渡すまで、しつこく付きまとわれそうだったから、仕方なく。「やった。梶間さん、サンキュー」私からちんすこうを受け取ると、陣内くんは満足そうに微笑み、歩いていった。**数日後。「ただいま帰りましたー!」夕方。学校から帰宅すると、橙子さんがリビングで大きめのバッグに荷物を詰め込んでいた。どうしたんだろう。何だか、急いでるみたいだけど……。「あっ。萌果ちゃん、おかえりなさい」「ただいまです。あの、どうかされたんですか?」「それがね……」バッグから顔を上げた橙子さんが、困ったように眉根を下げた。「夫が、過労で倒れちゃったみたいで……」「ええ!?それは、大変ですね」橙子さんによると、関西に単身赴任中の藍のお父さんが、働きすぎによる過労で倒れてしまったらしい。「あの人は大丈夫だって言うけど、さすがに心配だから。一度、様子を見に行こうと思って」「はい」家族が倒れたって聞いたら、誰だって心配だよ。藍のお父さん、何ともないと良いな。「そういう訳で、今夜は家に帰れないから。萌果ちゃん、悪いけど……藍とふたりで仲良くやってくれる?」「はい……って、ええ!?」うそ。私が藍と、この家でふたりきり!?「ほんとにごめんね。明日の夜には、帰れると思うから……」「ただいまー」私と橙子さんが話していると、藍が帰ってきた。「どうしたんだよ、母さん。荷物なんか詰めて」「おかえり、藍。実はね……」橙子さんが、さっき私に言ったのと同じことを藍にも伝えた。「倒れたって、まじで!?父さんは大丈夫なの!?」「お母さん、様子を見てくるから。今夜は、萌果ちゃんとふたりだけになるけど……」「分かった。俺に任せといて。この家も萌果のことも、俺がしっかりと守るから」藍が、ポンと胸を叩いてみせる。「昔は泣き虫だったのに。藍も言うようになったわね〜。というわけ
Last Updated : 2025-04-07 Read more