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第33話

Aвтор: 藤永ゆいか
last update Последнее обновление: 2025-04-08 13:32:07

「えっと、藍……だよ」

「え?」

「私は……さっきテレビで藍を見て、かっこいいって言ってたの」

勇気を振り絞って言ったものの、藍を直視できず、私はふいっと彼から顔をそらしてしまう。

「うそ、まさかの俺!?えー、やばい。めっちゃ嬉しいんだけど」

たちまち笑顔になった藍が、くしゃくしゃと私の頭を撫でてくる。

「萌果ちゃんが、俺のことをかっこいいって言ってくれるの、初めてじゃない?」

「そうだっけ?ていうか藍、かっこいいなんて言葉、他の人にもたくさん言われてるでしょ?」

「そんなの、萌果から言われるのが一番嬉しいに決まってる」

「へー。そうなんだ?」

私がかっこいいって言ったくらいで、大袈裟なくらいに喜んでいる藍。

そんな藍のことが、なぜだかとても愛おしく思えてしまった。なんだろう。調子狂うなぁ。

「さっ、さあ。23時過ぎたし、明日も学校だからそろそろ寝ないと」

私は、ソファから勢いよく立ち上がった。

そのとき。

ザーッと、窓の外から音がすることに気づいた。そっと、カーテンを開けて見てみると。

「うそ。雨……」

いつの間にか空からは、滝のような雨が降り注いでいた。

──ゴロゴロゴロ!!

「ひっ!」

遠くのほうで雷が鳴って、肩がビクッと跳ねる。

「萌果ちゃん、もしかして雷が怖いの?」

「まっ、まさか〜!子どもじゃあるまいし、雷なんて全然怖くないよ」

ほんとは子どもの頃から今もずっと、雷は苦手だけど。

高校生にもなって雷が怖いだなんて、さすがに恥ずかしくて。つい、強がってしまった。

ましてや、昔からずっと弟のような存在に思っていた藍の前で、本当のことなんて言えるわけない。

「それじゃあ、おやすみ藍!藍も早く寝るんだよ?!」

早口で言うと、私は逃げるようにリビングを出て行った。

まあ、雨も雷もそのうち止むでしょう。

そう思いながら和室に戻ると、私は部屋の電気を消して、急いで布団に潜り込む。

──ザーッ!

だけど、外の雨音がうるさくてなかなか寝つけない。しかも……。

──ゴロゴロゴロッ!!

「ひゃあ」

雷は止むどころか立て続けに鳴っていて、その度に私の体は震え上がる。

布団の中で丸まり、両耳を手で塞いでいても雷の音が聞こえてくる。

うう。この歳になっても、雷はやっぱり怖い。

雷、早くおさまって……!

だけど、私の気持ちとは裏腹に雷の音はどんどん大きくなっていく。

窓の外で、ピカ
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    その日の夜。「ただいまー」20時を過ぎた頃。先にひとりで夕飯を済ませ、私がリビングでテレビを観ていると、藍が帰ってきた。「おかえり、藍。お仕事、お疲れさま」「ありがとう」「燈子さんはまだ帰ってないんだけど、先にご飯食べる?燈子さんが、カレーを作り置きしてくれていたから。もし食べるなら、温めるよ?」「あー……俺、まだ少しやることがあるから。夕飯はあとでいいよ」それだけ言うと、藍は二階の自分の部屋へと行ってしまった。あれ?いつもの藍なら『それじゃあ、お願いしようかなー?』とか、『ご飯よりも先に、萌果ちゃんを抱きしめさせて』とか言いそうなのに。珍しいこともあるもんだな。**翌朝。「おはよう、藍」私は食卓にやって来た藍に、声をかける。「おはよう、萌果ちゃん」こちらを見てニコッと微笑んでくれた藍にホッとするも、ある違和感が。「あれ、藍。そのネクタイ、自分で結んだの?」「ああ、うん」藍はいつも、制服のネクタイを首にぶら下げたまま、2階から1階に降りてくることがほとんどだから。藍が自分でネクタイを結ぶなんて、かなり稀だ。というよりも、ここで居候させてもらうようになってからは、私が毎朝藍のネクタイを結んであげていたから。こんなことは、初めてかも。藍ってば、一体どういう風の吹き回し?今は4月の終わりだけど、もしかして雪でも降るの?「萌果ちゃん、ネクタイ曲がってないかな?」「大丈夫。ちゃんとできてるよ」「そっか。良かった」藍は微笑むと食卓につき、朝食のフレンチトーストを食べ始める。藍が自分で自分のことをやってくれるのは、“お姉ちゃん”としては嬉しいはずなのに。なぜか少し、胸の辺りがモヤモヤした。**数日後。学校のお昼休み。今日は友達の柚子ちゃんが、風邪で欠席だ。「はぁ。今日は柚子ちゃんが休みだから、お昼ご飯は一人かあ」私が、自分の席でため息をついたとき。「かーじーまーさんっ!」陣内くんが、ニコニコと元気よく声をかけてきた。「梶間さん、今日はもしかしてぼっち飯?もし一人が寂しいなら、俺と一緒にお昼食べる?」空いている隣の柚子ちゃんの席に座り、こちらに顔を寄せてくる陣内くん。そんな彼から私は、慌てて体を後ろに反らせた。「いや、いい。陣内くんと食べるなら、ひとりで静かに食べたい」「えーっ。梶間さんったら、つれないなあ

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    もしかして、前に藍がお弁当を私のと間違って持って行ったときみたいに、先に連絡をくれてた?と思って自分のスマホを見てみるも、特にメッセージは来ていなかった。「うちのクラスに来たってことは、梶間さんに用だよね?おーい、梶間さーん!」「ひっ!?」三上さんに大声で名前を呼ばれて、私の肩がビクッと跳ねた。三上さんの声はよく通るからか、クラスメイトの何人かが、何事かと教室の扉付近をチラチラと見ている。お願いだから、三上さん。そんなに大きな声を出さないで。あそこにいる“佐藤くん”が、モデルの久住藍だって、もし誰かにバレたら……。「ねえ、萌果ちゃん。三上さんが呼んでるよ?」「あっ、うん」呼ばれたら、行かないわけにもいかないよね。「ごめん、柚子ちゃん。私、ちょっと行ってくるね」話している途中だった柚子ちゃんに断りを入れると、私は急いで藍の元へと向かった。「ありがとう、三上さん……佐藤くん、ちょっとこっちに来て」私は呼んでくれた三上さんにお礼を言うと、藍の腕を掴んで人気のない廊下の隅までグイグイ引っ張っていく。「萌果ちゃん!?」「もう。藍ったら、予告もなくいきなり私のクラスに来ないでよ」私はキョロキョロと辺りに人がいないことを確認し、藍の耳元に口を近づける。「藍は芸能人なんだから。もっと自覚を持って?」「ごめん。だけど、この前のお弁当のときとは違って、今日はちゃんと変装してきたよ?」「それは、そうだけど……」叱られた子どもみたいに、しゅんとした様子の藍を見ていると、これ以上は何も言えなくなってしまう。「それで藍、私に何か用?」「ああ、うん。これを、萌果ちゃんに渡そうと思って来たんだよ」藍が私に差し出したのは、家の鍵だった。「母さん、今日は親戚の家に出かけるから帰りが遅くなるらしくて。俺もこのあと雑誌の撮影があって、すぐには帰れないから。萌果ちゃんに合鍵を渡してって、母さんに頼まれてさ」そうだったんだ。今朝は藍よりも、私が先に家を出たから。「わざわざ、届けてくれてありがとう」私は、藍から合鍵を受け取る。「萌果ちゃん。その鍵、くれぐれも落としたり、なくさないでよね?」「なっ、なくさないよ!もう子どもじゃないんだから」「ふーん。どうだろうねえ」マスクをしていて、口元は見えないけど。藍が今、ニヤニヤしているであろうことは容易に分かる

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第39話

    そしてやって来た、夕飯の時間。「はあ。こんなことってあるのかよ……」食卓についた藍が、ガクッと肩を落とす。「藍ったら、なんて顔をしてるのよ。もっとシャキッとしなさい、シャキッと!」燈子さんが藍に、喝を入れる。「だって……」藍が、ひとり項垂れる。今日の夕飯はなんと、ポトフだった。カレーでもなく、肉じゃがでもなかった。「ふふ。この勝負は引き分けだね、藍」「くっそー。せっかく萌果から、キスしてもらえると思ってたのに」藍は、いただきますもそこそこに、スプーンを手にポトフを口へと運ぶ。「母さん、なんでカレーにしてくれなかったんだよ。じゃがいもに人参、玉ねぎといったら普通カレーだろ?」「あら。藍ったら、そんなにカレーが食べたかったの?だったら、明日カレーにしてあげるわ」「明日じゃダメなんだよ」ブツブツ言いながら、食べ進める藍。藍には悪いけど、この結果に私はホッと一安心。だって、いくら相手が幼なじみでも、自分からキスするのはやっぱり照れくさいから。「今日は、せっかく萌果ちゃんが作るのを手伝ってくれたっていうのに。文句があるなら、ポトフ無理に食べなくてもいいのよ?藍」「えっ、萌果が?食べます、喜んで食べます。今日はいつも以上にご飯が美味しいと思ったら、萌果ちゃんが……」藍の食べるスピードが、一気に加速した。「美味いよ、萌果ちゃん」「私は、ほんの少し手伝っただけだけどね」「それでも、萌果ちゃん天才!」「藍ったら、単純なんだから。藍は昔から本当に、萌果ちゃんのことが好きなのね」藍を見て少し呆れつつも、燈子さんが優しく微笑む。「うん、好きだよ」藍は、迷いもなくハッキリと言い切った。「俺は、小さい頃から今もずっと、萌果のことが好きだから」「っ……」私の頬が、ぶわっと熱くなっていく。藍ったら、燈子さんのいる前でそんなことを言われたら、反応に困っちゃうよ。「だから、今度は萌果ちゃんから俺にキスしたいって思ってもらえるように、俺も頑張るよ」なぜか、改めて宣言されてしまった私。藍は私にとって、大切な幼なじみで。異性としても、嫌いではないけれど。私が藍に自分からキスしたいと思える日なんて、やって来るのかな?**数日後。学校の休み時間。私は、いつものように柚子ちゃんと楽しくおしゃべりしていた。「あれ?あなた、もしかして佐藤くん?

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第38話

    私はとっさに藍の前に立ち、藍の姿を安井さんから隠した。「梶間さん?」「や、やだな〜、安井さんったら。あのイケメンモデルの久住藍が、学校帰りにこんなところにいる訳ないじゃない!」うう。我ながら、苦しい言い訳だけど。「この子は、佐藤くん。私の幼なじみなんだ。彼とは家が近所だから、たまたまそこで会って……それで、一緒に買い物に来たの」「……どうも。佐藤です」今まで黙っていた藍が、ペコッと頭を下げた。「まあ、梶間さんに言われてみれば、確かにそっか。あの藍くんが、学校帰りにスーパーに買い物なんて来ないよね」安井さんが、納得したように頷く。「そうそう。あの無愛想で、いかにも家事なんてやりません!って感じの久住藍くんが……痛あっ」「ど、どうしたの?梶間さん!?」「〜っ」私は隣にいる藍に、右手を思いきりつねられてしまった。「すいません。俺たち、まだ買い物の途中なので。ほら萌果ちゃん、行くよ」藍はいつもよりもワントーン低い声で言うと、私の手を取って早足で歩き出した。「ちょっと、藍……!」私は、三上さんたちの姿が完全に見えなくなってから藍に声をかける。「いきなり手をつねるなんて、ひどいよ!」「それは、ほんとごめん」人気のないところで立ち止まると、藍がさっきつねった私の右手を、そっとさすってくる。「でも、俺も悪かったけど……萌果ちゃんだって悪いんだからね?」「え?」「俺のことを、佐藤くんって呼んだり。あの子たちの前で、俺の悪口なんて言うから」「あ、あれは、藍だってバレないようにするために仕方なく……」「それでも、萌果ちゃんに無愛想だとか悪いように言われたら、やっぱり悲しいよ」「ご、ごめん」藍のことを悪く言うつもりは、全くなかったんだけど。私も必死だったとはいえ、『あの無愛想で、いかにも家事なんてやりません!って感じの久住藍くん』って言ったのは、さすがにまずかったな。「ごめんね?藍」「謝っても、許してあげない」今日の藍、なんだか機嫌が悪いな。「どうしたら、許してくれるの?」私が尋ねると、藍の目が一瞬光ったような気がした。「んー、そうだな……萌果ちゃんが、俺にキスしてくれたら許す」「えっ!?」キスって!藍ったら、今度は何を言い出すの!?「萌果ちゃんがウチに引っ越してきた日に、俺が頬にグーパンチされたときも、結局キスしてく

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第37話

    数日後の放課後。学校が終わって家に帰ろうと校門に向かって歩いていると、私のスマホが鳴った。確認すると、それは燈子さんからのメッセージだった。【悪いんだけど、学校帰りにスーパーに寄ってきてもらってもいい?これから家に急遽お客さんが来るから、夕飯の買い物に行けそうにないのよ】お客さん……そういうことなら。【分かりました。私でお役に立てるのなら、喜んで!】橙子さんに返信すると、私はそのまま家の最寄りのスーパーへと直行する。学校から歩いて15分ほどで、スーパーに到着。買い物カゴを手に、私がスーパーに入ろうとしたとき。「萌果ちゃん!」誰かに名前を呼ばれて振り向くと、メガネに黒のマスク姿の藍が立っていた。外にいるため、一応変装しているらしい。「えっ。どうして藍がここに……」「さっきの母さんのメッセージ、俺に送るつもりが間違えて萌果ちゃんに送ってしまったんだってさ」「そうだったんだ。それで、わざわざ来てくれたの?」「うん。本来なら俺が任されるはずだった、おつかいだし。あっ、そのカゴ俺が持つよ」藍が、私が持っていた買い物カゴを、横から奪うように取った。私と藍は、二人並んで店内を歩く。「ここのスーパー、小学生の頃にも萌果ちゃんと二人で、おつかいに来たことがあったよね」「そういえば、そうだね」懐かしいなぁ。当時のことが蘇り、私は目を細める。「それで、何を買えば良いの?」「えっと。燈子さんからのメッセージに書いてあったのは、じゃがいもと人参に玉ねぎ……」「それなら、今夜はカレーかな?」「いや、もしかしたら肉じゃがの可能性もあるよ?」藍と、話しながら歩いていると。「あれ?もしかして、梶間さん?」背後から、声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは……「やっぱり、梶間さんだ!」私と同じクラスの三上さんと、その友達の安井(やすい)さんだった。三上さんは、私が転校してきて間もない頃にクラスの親睦会でカラオケに一緒に行ってから、学校でもたまに話すようになったのだけど。まさか、こんなところでバッタリ会っちゃうなんて!「もしかして梶間さんも、おうちの人のおつかい?」「う、うん。そうなんだ。ということは、三上さんたちも?」「あたしは、カナエの買い物の付き合いだよ」『カナエ』とは、安井さんの下の名前。「ところで、梶間さんの隣にいる人

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第36話

    「ねえ、久住くーん。一緒に帰ろうよ〜」私が黙々と掃き掃除をしていると、女の子の甘ったるい声が耳に入ってきた。そちらに目をやると、校門へと向かって歩く藍が、女の子に言い寄られているのが見えた。藍、ほんとよくモテるな。さすが、人気モデル。あんなにモテる藍が、私のことを一途に好いてくれているなんて。何だか変な感じ。藍の幼なじみじゃなかったら、今頃私は彼に近づくことすらできなかったのかな。それどころか、久住家での同居も藍に恋愛対象として見てもらうことも、なかったのかもしれない。そう思うと、ほんの少し切ない気持ちになった。「ねぇねぇ。梶間さんは、どんな男がタイプ?」「……」「答えないってことは、もしかして俺みたいなヤツとか?」「……」無視するのは良くないって、分かっているけど。女の子に声をかけられている藍を見ていたら、陣内くんに返事をする気にはなれなくて。「ちょっと、梶間さん。俺の話、聞いてる?」「っ!?」陣内くんに突然、耳を引っ張られてびっくりする。「もう!陣内くんったら、耳引っ張らないでよ」ただでさえ私は、昔から耳が弱いのに……!「ごめんごめん。だけど、梶間さんが全然返事してくれないから……」「あっ、理仁くんだ。やっほー」陣内くんと話していると、彼に声をかけてきた人が。陣内くんと似た系統の、ギャルっぽい見た目の女の子。理仁くん……そっか。今更だけど、陣内くんの下の名前は理仁っていうんだった。「理仁くん、何やってるの?掃除?」「そう。俺、えらいでしょー?」「うん、えらーい。さっすが、理仁!」ギャルっぽい見た目の女の子が、他にも数人、陣内くんの周りに集まってきた。「へえ。陣内くんって、意外と女の子から人気あるんだ」「うん、そうだよ?」しまった。心の中で呟いたつもりが、声に出ちゃってた。「ほら。俺って、日本とアメリカのハーフで、この通りイケメンだし?」「あはは」私は、思わず苦笑い。自分でイケメンって言うなんて……もしや陣内くんって、ナルシスト?「まあ、俺が今一番モテたいって思ってる子には、全然モテなくて困ってるんだけどね〜」「へー。それは大変だね」「ふはっ。ほーんと梶間さんって、相変わらずだなぁ。まあ、そういうところが良いんだけど」んん?陣内くんに首を傾げつつ、私はホウキを持つ手をせっせと動かすのだった。

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