71何とか、自分の発信していることが信じるに足りることとして彼女に信じてもらえたみたいでほっとした。と、目の前の彼女がすっきりしない表情に変わったのが見てとれた。「どうかしましたか? 何かまだ気になることがあるようでしたら質問してください」「能力がおありならすでにご存じかもしれませんが、私には夫がいます。ただこうして現在1人で暮らしているのには訳があって……家を出た時はとにかく夫と同じ空気を吸うのも嫌で離れたい、別居したいという気持ちでした。いずれは離婚もやぶさかではない、というような心持ちでいたと思います」「実はあなたをこの地で見つけることができたものの、その1点でまたもや、古《いにしえ》の想いが叶わないのかと少々失望していました……って過去形になっていますが、まぁ現在の心境ですね」「私たちは過去世で近しい関係ではあるものの、現在まだ出会ったばかりの状況で、その~、この先のことは未知数としか考えられませんよね?」私がそう言ったのに対して、根本さんは曖昧な態度で頷いてはくれなかった。そりゃあそうよね、10代の頃から私のことを知り、自分の進路まで先々の予知を鑑みて決めてたくらいだもの。私はもっと彼に対して真摯に向き合わなきゃいけないと思った。恥ずかしいけど。「すみません、前言撤回します。これから根本さんをよく知りお付き合いできるようにするために大嫌いな夫と離婚することにします。離婚成立するまで待っていてくれますか?」「もちろん、急がなくていいですよ、と言ってあげたいですが無理ですから。早くお願いしますね」根本さんは端正な顔に微笑を貼り付けてそう言った。「はい」と顔を赤らめて返事をした私って変ですか? 何か、いろいろと思いもかけない方へ人生が転がり出している感が半端ない。ふと、くだらないことを考えてしまう。もしも、知紘が浮気などしていなければ、根本さんと私との出会いはなかったのか? なかったよね、たぶん。だって、何もなければ私はここにいないもの。だとするなら、知紘の浮気って何ていうか、誰かに導かれていたの? でも、どんな力がそんなことできるっていうの。どう考えても知紘が自らだらしなく女と遊びたかっただけじゃない。誰がっていうことはないよね。でもこのことを、根本さんに訊くことは流石に憚られた
Last Updated : 2025-04-19 Read more