All Chapters of 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―: Chapter 71 - Chapter 76

76 Chapters

◇予定調和 第71話

71何とか、自分の発信していることが信じるに足りることとして彼女に信じてもらえたみたいでほっとした。と、目の前の彼女がすっきりしない表情に変わったのが見てとれた。「どうかしましたか? 何かまだ気になることがあるようでしたら質問してください」「能力がおありならすでにご存じかもしれませんが、私には夫がいます。ただこうして現在1人で暮らしているのには訳があって……家を出た時はとにかく夫と同じ空気を吸うのも嫌で離れたい、別居したいという気持ちでした。いずれは離婚もやぶさかではない、というような心持ちでいたと思います」「実はあなたをこの地で見つけることができたものの、その1点でまたもや、古《いにしえ》の想いが叶わないのかと少々失望していました……って過去形になっていますが、まぁ現在の心境ですね」「私たちは過去世で近しい関係ではあるものの、現在まだ出会ったばかりの状況で、その~、この先のことは未知数としか考えられませんよね?」私がそう言ったのに対して、根本さんは曖昧な態度で頷いてはくれなかった。そりゃあそうよね、10代の頃から私のことを知り、自分の進路まで先々の予知を鑑みて決めてたくらいだもの。私はもっと彼に対して真摯に向き合わなきゃいけないと思った。恥ずかしいけど。「すみません、前言撤回します。これから根本さんをよく知りお付き合いできるようにするために大嫌いな夫と離婚することにします。離婚成立するまで待っていてくれますか?」「もちろん、急がなくていいですよ、と言ってあげたいですが無理ですから。早くお願いしますね」根本さんは端正な顔に微笑を貼り付けてそう言った。「はい」と顔を赤らめて返事をした私って変ですか? 何か、いろいろと思いもかけない方へ人生が転がり出している感が半端ない。ふと、くだらないことを考えてしまう。もしも、知紘が浮気などしていなければ、根本さんと私との出会いはなかったのか? なかったよね、たぶん。だって、何もなければ私はここにいないもの。だとするなら、知紘の浮気って何ていうか、誰かに導かれていたの? でも、どんな力がそんなことできるっていうの。どう考えても知紘が自らだらしなく女と遊びたかっただけじゃない。誰がっていうことはないよね。でもこのことを、根本さんに訊くことは流石に憚られた
last updateLast Updated : 2025-04-19
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◇アプローチも断り 第72話

72  このあと、根本さんが簡単に先ほどの話の続きで神事が降りたとはいえ、行き先がこの地であると分かるまでには少し大変だったのだと話してくれた。          ◇ ◇ ◇ ◇夢見せでまず見せられたのが『関西』の二文字。三日続けて見せられのだが、関西と言われても2府4県。大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山。範囲が広すぎた。その時の根本は唯一思いついたことをしてみたという。紙に2府4県をメモ書きにして貼り付けておくことにしたのだ。すると、翌日には『京都』と書かれた文字の上に汚れが付けられていた。たまさかの偶然かもしれないと、また新しい紙に書き古いのと差し替え、貼り付けた。すると翌日も前日と同じように『京都』と書かれた文字の上に汚れが付けられていて、それを見て行くべき道が分かったという具合であった。          *****根本は得意科目が理系寄りだったこともあり、高校では理系のクラスに入りそのまま理系の大学に進み、仕事も土木に進み、女っ気のない環境で過ごしてきた。それでも容姿端麗で勤勉、リーダーシップのとれるほど仕事もできたため、毎年新入社員がちらほらファンと化して1階から根本のいる7階へと覗きに来るほどだった。またバレンタインにはメルアド付きのチョコを共用フロアーやエレベーター内で貰ったりと、女性の少ない環境にいるわりには結構アプローチされることが多く、自ら望めば適齢期までに交際をし、結婚まで成し遂げられる機会には充分恵まれていた。しかーし、10代の頃から過去世を知り、ずっと心に誓った古の恋人を待つと決心している筋金入りの強者のこと。どの女性からのアプローチもやんわりと断り《蹴散らし》ながら、過去世で引き裂かれ悠久の時を超え、その相手である美鈴の出現を待ち続けていたのである。
last updateLast Updated : 2025-04-19
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◇離婚します 第73話

73美鈴はすぐに行動を起こすことにした。 緑の紙《離婚届》を知紘に郵送。『記入が済めば取りに行きます』とメモを添えて。思えば知紘が泥酔して帰り、美鈴に対しておばさん発言をしたあの日から、 7か月余りの月日が流れていた。美鈴にとっては、もう2年も3年も前の出来事のように思え、 知紘はすっかり過去の人になっている。この先この地で、独りで生きていくつもりで籍のことは 余り考えていなかったのがほんと。だけど、この1~2週間で事情は大きく変わってしまった。何としても籍を抜かねばならなくなったのだ。知紘にしたってこの先死ぬまで誰とも再婚もせずあの家で 独り朽ち果てる気概があるとも思えない。メモ書きには、離婚届に判を押さねばそのような孤独死が待っていると 匂わせる走り書きを添えてある。『婚姻関係が続くとも自分は一生知紘の元へは帰らないと……』万が一、知紘に判を押してもらえなかった場合は、知紘の浮気を盾に 裁判するしかないと、そこまで美鈴は腹を括った。 唯一の失敗は、籍を抜くことを最重要視してなかったこと。 別居できればいいとしか考えておらず……そんなだから証拠を突き付けて 知紘と真知子から慰謝料を取るなどということも面倒で、ほぼ証拠がないの が非常に痛い。こうなってみれば、あとの祭りというヤツだ。 若い女が好きな知紘のこと、判を捺《つ》くのを渋り続けた場合、一生 料理も出てこないあの家で暮らさなければならないことになると悟れば、 すんなりと離婚届に判を押すのではないだろうか。 離婚届を夫に送った日から、『夫は判を押す』『判を押さない』などと交互に気持ちが振れ、まるで花びら占いでもするような心持ちで 美鈴は日々を過ごした。 いきなりでは驚くと思い、メールでも『離婚届に判子を押し署名も 済ませたら取りに行くので連絡してほしい』と書いた。
last updateLast Updated : 2025-04-20
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◇お洒落な元妻 第74話

74知紘からのメールの返信は翌日返ってきた。そこには『なるべく早く出せるように善処します。来てもらうのは土・日になるので、再来週の土曜か日曜に取りに来てください』とそのように書かれていた。厳密に言うと美鈴が家を出て70日足らず。まだ3か月も経っていない。短期間であっても夫も何か思うところはあったのかもしれない。どうか、このまま夫の気持ちがぶれないようにと願いながら美鈴はその日を迎えた。            ◇ ◇ ◇ ◇この日の美鈴の出で立ちはというと、オーソドックスな黒のロングコートと足元は同じく黒色のハーフブーツ。手にはショートの持ち手の付いた同系色のバッグ。その真ん中には白うさぎのワンポイントが施されていた。インナーはスカート部分がフレアースカートになっていて膝下まである長袖ワンピースでベージュ色。そしてヘアーはというと、ふるゆわパーマをかけておりいい感じにお洒落なセミロング。知紘との生活では久しくこのような独身者のように見える華やいだ姿は見せていなかったかもしれない。実際、久しぶりに自宅に戻った美鈴とリビングのテーブルセットで対面した時、綺麗に着飾り華やいで生き生きとしているしている妻を見て知紘は驚きを隠せなかった。だからか、自然と言葉が口について出た。「誰かいい奴できたとか?」「とんでもない。私はそんなにたった2か月やそこらで誰かに口説かれるほどモテないわよ」「どこに住んでるんだ? 働いていないのに生活、大丈夫なのか? 今日少しだけどお金おろして来てるから、持っていけば」「ありがと。正直助かります」私はお礼を言ってお金を受け取り、知紘が用意してくれた離婚届も一通り目を通すと両方をバッグにしまった。早くに記入してくれて助かったわ。じゃあ、もうこれで会うこともないと思うけど、元気で」「あぁ、美鈴も」台所には小さな片手鍋にうどんの鉢、箸にお玉などがシンクの中に置いてあるのが見えた。カップ麺ばかり食べず、少しは自炊をしている様子が伺えた。嘗ては愛する夫のために腕を振るったこの台所に、夫自身が使った器具と食器が置かれている光景が不思議に思えた。それとともに自分が大きな感情の振れ幅もなくここにいられるのは、根本さんというこの先自分の大きな後ろ盾となるであろう人の力かもしれないと思
last updateLast Updated : 2025-04-20
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◇あったのか否か 第75話

75 ―手かざしビジョン2 その昔身体を重ねたことがあったのか否か―知紘のところへ離婚届を貰いに行った日は、勤め人の知紘の都合でクリスマスイヴになってしまった。翌クリスマスには、根本さんを自宅に招待して手作りの苺ケーキとコーヒーでクリスマスを祝うことにしていた。根本さんが訪ねてきたのは夕方近くになってからだった。彼はケンタッキーフライドチキンを抱えて現れた。「これ、後で一緒に食べましょう」「わぁ~、ケンタッキーフライドチキン、うれしいっ。でもイブもですが今日なんてすごく混んでたんじゃありません? 何だか申し訳ないです」「実は前々から予約してあったので取りに行って受け取り清算するまで10分ほどでした」「ありがとうございます。あとから、レタスやトマトのサラダを付けてお出ししますね。ケーキで結構お腹膨れてしまうと思いますから」私たちは椅子に座り、2人きりのパーティーを始めた。テーブルにはケーキとコーヒー、そして定番のみかんなどを並べて……。「「メリークリスマス!」」ケーキを食べ終えたあと、私たちは古の2人の気持ちに少しでも繋がることができればと、少しの間、手と手を合わせビジョンを視た。美鈴はこの頃からある疑問を持っていた。大層好き合っていた自分たちは、その昔身体を重ねたことがあったのか否か。一度めのビジョンでは別れの抱擁だったのか、2人が抱き合い悲しみに暮れているシーンで静止画のように見えた。そして2人の深い悲しみが心の中に流れ込んできた。そして、今回は少し遡った時間軸のシーンのようで、肩を並べて仲睦まじく語らいながら散策しているシーンだった。見ているとふたりの互いに想う気持ちの強さが心の中に入ってきた。
last updateLast Updated : 2025-04-21
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◇離婚成立 第76話

76私は翌日早々に離婚届を出しに行った。昨夜、よほど根本さんにもう夫から離婚届を受け取っていて、あとは出す だけであると話そうかと思ったのだが、やはりちゃんと届けを出したあとで 正式に離婚し、何のしがらみもなくなってから伝えた方がいいように気が して、話せていない。できるだけ早く伝えたいという思いから、離婚届を出した後すぐにメールで 伝えようかとも思ったけれど、これってメールで伝えるようなことじゃない ような気がするのよね。それで年内に話すことができればいいのにとうじうじ考えていたら、数日後 に根本さんから『除夜の鐘を聞きに行きましょう』とのお誘いがあり、何と か今年中に報告できそうな予感。大晦日になり、私たちは約束通り近隣のお寺《本能寺》に向かった。歩きながら道々、私は真っ先に 「実は先週夫の所へ行って離婚届を受け取り、月曜日に市役所へ行き、 出してきました」と、離婚が成立したことを話した。 「ちゃんと受理されましたか?」「はい、思ったよりあっけなかったです。 家を出た時は、いつかはっきりと離婚が決まって届けを出す日がきたら、 未練なんてこれっぽっちもなくても、多少感傷的にはなるのかもしれない って思ってました。けど、そういう感傷的になんてちっともならなくて、さっぱりとした気持ちむで役所から帰って来れました。たぶん根本さんのお陰だと思います」「なら、良かった。 じゃあ今からあなたのこと、下の名前で呼ばせてください」「はい」「美鈴さんも僕のことは圭司《けいし》と呼ばないと駄目ですよ」「はいっ、が……頑張ってみます」「うれしいです。あなたにしがらみがなくなって。 これでお天道様に恥じることなく付き合えますからね」「はい……」私は心の中で彼に謝罪した。『ごめんなさい。一度、他の誰かと結ばれてしまった身で』と。これは心の中でずっとこの先も思い続けると思う。だけど、彼に言うつもりはない。 こんなことを言ってしまえば、彼を嫌な気持ちにさせるだけだと思うから。 私が結婚する前に私たち、出会えれば良かったのに。だけど、欲張ってはいけないのかもしれない。 出会えてなかったことを考えてみれば、こんなふうな再会になったとはいえ、 今生で今からでも夫婦になれるような形で出会えたのだから。 しみじみと感傷に浸
last updateLast Updated : 2025-04-21
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