1昨日までのあたしは、平凡ながらも幸せだった。 大恋愛の末、結婚をした知紘《ちひろ》との暮らしに。……なのに、たった一日でグルリンパっとあたしの幸せが ひっくり返ってしまった。それはものの見事に。こんなことって、ある? びっくりし過ぎて涙も出やしない。 それは……ほんの小一時間ほど前の出来事。[今は夜時間]知紘が珍しく酩酊状態に近いぐらい酔っぱらって帰宅。 ドアを開けるなりいきなり、トーク炸裂。「ねね、聞いてぇー。うひひ、俺ってなんでこうモテちゃうんだろねー」「チーちゃん、気をつけて。こけそうだよ」知紘が片手を壁について、靴を脱ごうとしているんだけど、 身体がふらついていて危うい。それでも話は止まらない。「俺さぁ~、田中真知子さんからデート誘われたんだぜ。 あーっ、モテてごめんねっ。うひひっ。 あっ、おいっ、そこのおばさん、嘘じゃないぜっ。 信じてないなぁ~。ちよっと待ってみ……」 くだらないことを言いながら知紘がふらふらしながら ポケットに手を突っ込む。出してきたのは小さなカードのような名刺。 「これ、見てー」 私に手渡してきたので仕方なく名刺を見た。 『田中真知子』と保険会社の社名入りの名刺だった。 確かに知紘の言う名前と一致している。『そんな女とどこで知り合ったのよ』 知紘に聞きたいわけじゃないから訊かない。 知りたいのは本当だけど。 名刺からして、彼女の営業絡みというのはおよそ察しはつくけども。だけど今日は野球のサークルからのご帰還なわけで、どいうこと? って思うわけよ。会社に来て会ったというのでないのなら、野球の練習している場所に 彼女が来てたってことになるわよね。 「はい、はいー。見た? じゃっ、も……返してっ。 彼女さぁ、むちゃくちゃ俺好みなのよー。ドストライクぅ~」『はぁはぁ、さようでございますかっだわさ』 ここまではギリ許容範囲だった。 「んとにな、古女房とは比べ物にならんっ。あははははーっ。 真知子ぉ~、スキっ」 そう言いながら知紘は名刺にキスをした。 『ぎゃあ~、阿保タレがっ、なにを……』「ねねっ、ちょ、聞いてるぅ? おばさん」「おばさんって誰やねん」 私が訊くと、ちゃんと反応する知紘。 いらんところ
Last Updated : 2025-03-09 Read more