Semua Bab 放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた: Bab 11 - Bab 20

35 Bab

2DAY 水曜日 軽音楽部

 翌日の放課後。やはり寒波の影響で冷たい風が吹いている。旧校舎は新校舎から少し離れた坂をさらに上ったところにある。吹き抜ける風は冷たく、ポケットに手をつっこむ。耳が、ちぎれそうになる。小刻みに震えながら文芸部の教室のドアを開ける。 伏見ななせがそこにいた。僕がいつも座る特等席に腰を掛けてスマホをいじっている。「あ、マコトだ!」「そりゃ、そうだろ。ここは僕の部室で、僕しか来ない場所だ」「最近、上田さんがちょくちょく来ているみたいだけど?」「暇なんだろ。黒魔術研究部って、普段何してるんだ?」「知らないわよ、そんなこと。自分で聞いてみたら? 仲いいんだから」「別に、仲がいいわけじゃない」「でも、エッチな想像をしてオカズにしてるんでしょ?」「してないよ、昨日のあれはなんだ、言葉のあやというか、その場のノリで言ってるだけだ」「どうだか」 ――そんなこと、正直に言えるわけないだろ。「ところで、なんか用か?」「うん、昨日ね、ついに新曲が完成したから聞きに来ないかなって。今から部室で通しで演奏するから聞きに来てよ」「まあ、新曲って言っても、僕としてはもうとっくに知っている曲なんだけどな。なにせ真下で音をずっと聞いてる。何なら、僕が歌うことだってできるかもしれない」「え、まじ? だったらさ、今度演奏するときにコーラス参加してよ」「冗談だろ?」「まじまじ!」「断るよ」「だってマコトは頼まれれば断らないタイプでしょ?」「え、普通に断るよ。絶対嫌だ」「どうしても?」「僕は決して押しに弱くない」「じゃあ、仕方ない。コーラスに参加してもらうのはあきらめるからさ、そのかわり今日は付き合ってよ、今日だけ。お願い。いいでしょ?」 まったく。美少女にこうまでして頼まれると、さすがに断ることなんてできない。「ちょっとだけな」 言いながら、荷物を置いて教室を出る。ななせと二人、軽音部の部室へと向かう。「はーい、みんなー。ギャラリー連れてきたよ」ギャラリーとはいってもどうやら僕一人だけのようだ。 僕の姿を見るなりバンドメンバーは一様に頭を下げる。ここ旧校舎にいるメンバーは僕を含め全員が同い年の一年生なのだが、皆は僕のことを一目置いてくれているように思える。 まずその要因の一つとして、軽音楽部もオカルト研究部も今年の秋に新設されたばかりの新しい部だが、僕のいる文芸部はもっと以前からこの旧校舎を使っていたか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-17
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2DAY 水曜日 旧校舎の裏山

 階段を降り、文芸部の部室の戸を開ける。 いつもの僕の指定席に怪しい女が座っていた。 制服の上に学校指定の紺のダッフルコートを着て、漆黒のつやのある髪に、右目には黒い眼帯。そしてさらに今日は大きな黒い布マスクが鼻から口にかけて覆っている。もう、ほとんど真っ黒で、一瞬、ヒグマか何かと勘違いするところだった。 彼女は僕のほうをギロリと睨む。「ねえ、約束。忘れていたでしょう?」 今日の上田は、少し鼻にかかった声を出す。「それより、風でも引いたのか?」「ちょっと調子がわるいだけです」「こんな寒い中、アイスを四玉も食べるからだよ」「それを言うなら、伏見さんだって……」「あいつは特別なんだよ。それに、僕だって少し手伝った」「そう、伏見さんは特別だから手伝ってあげたのね」「それだと少し、意味がちがうくないか?」「厭味で行ったのよ?」「厭味?」 ――よく、意味が解らない。「まあ、ともかく僕は約束を忘れていたわけじゃあないよ。僕だっていろいろと忙しいんだ。っていうか、別に約束はしていないよね?」「そういうヘリクツはいいからさ」「そうだな、とりあえず祠へ行ってみるか」 僕は上着を羽織る。昨日と同じ轍は踏まない。「まあ、そうがっかりするなよ」 昨日油揚げを置いた場所に何ら変わらずそこにあり続ける状態に肩を落とした上田に、僕は優しい声を掛ける。このままここに置いておいて腐ってしまうと見栄えも悪いだろうし、いかんせんそんなことになってしまったら、石像ではあるがキツネ様に悪いような気もして片付けようと近づく僕を「ちょっと待って」と上田が制す。「あの繁みの中から、何かがこっちを見ています」 また上田の中二病的妄想かと思いきや、本当に繁みからこちらをうかがう光る双眸がある。どうやらこちらを警戒しているようだ。僕たちは言葉を交わすことなく、そのまま静かに後ずさりして、旧校舎の陰からじっと祠を観察した。 ほどなくして、繁みから何かが姿を現した。 人面犬。と言えばなかなかしっくりくる言葉ではある。それは小さな子犬ではあるけれど、まるで立派なひげを蓄えた老人の顔にも見える。 確かシュナウザーという犬種だったと思う。全身がグレーの毛並みだが、泥がこびりついていて、薄汚れた上にガビガビしている。怪我でもしているのか、片脚をひきずっているように見える。あたりに誰もいないことを確認したその子犬は、警戒しながら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-18
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2DAY 水曜日 一人暮らしの家

上田をベッドに寝かせる。コートを脱がせ、呼吸がしにくいだろうと黒いマスクを外し、代わりに白い熱さましシートを額に貼ると、なんだかオセロのゲームのように思えた。黒いものをやたらと好む上田だが、その肌は陶器のように白い。印象が急に黒から白に替わったようだ。右目を覆う黒い眼帯も汗でぬれている。これも外してやったほうがいいかと思いながら、手を触れようとした直前に思い直す。なんだか自分の行為がとてつもなくスケベなことをしているように感じたのだ。眼帯が、黒のレースでできていて、違う何かを連想してしまったのかもしれない。汗にぬれた眼帯は、そのままにしておくことにした。僕はそのまま立ち去ってもよかったのだが、やはりそれは何か無責任のように感じて上田の隣でしばらく待つことにした。 ここはそれなりに静かな場所だ。あるいはここならゆっくりと読書ができるのではないかと無神経な考えが頭をよぎったが、そもそも手元に本を持っていないし、もし持っていたとしてもやはりここでは落ち着いて読むことなんてできないだろう。 しばらくして、上田が目を覚ました。「高野君、ごめんなさい。わたし……」「僕のほうこそ悪かった。気づいてあげられなくて……」「そんなことないの、あれは……」 上田はいつもよりも急にしおらしくなってしまっていて……なんだか急にかわいらしくもある。「気にせずにもう少し休んでいろよ」「うん……」 僕は保健の先生に言われ、部室においてある上田の荷物を取りに行った。帰ってくると上田はもう起き上がっていて、だいぶ楽になったとのことだ。「上田さんはおうちの方は連絡が取れるかしら? 今日は無理しないように迎えに来てもらったほうがいいの思うのだけれど」 保健の先生が気を遣っていってくるが、「今日は、家に誰もいないので……」「あら、そう。それは大変ねえ、どうしようかしら?」「大丈夫です。家、ここから近いので」「そう、なら無理をしないようにね」「はい」「じゃあ、彼氏君は家まで送って行ってあげるのよ」 ――カレシクン? きっと、僕のことを言っているのだろう。僕たちは当然そんな関係ではないのだけど、だからと言ってここで即否定するような野暮なことはしない。そもそも、僕にも責任があるのだから家まで送っていくことくらいは吝かではない。 確か上田の家は39アイスから少し先に行ったところだと聞いている。ならば、歩いたとこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-18
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2DAY 水曜日 約束忘れてる?

〝約束忘れてる?〟のワードをこんな短時間に二度も聞くような男もそうそういないだろう。いったいどこのプレイボーイなんだと言ってやりたいところではあるが、真実はそんな浮かれたような話ではない。 「ああ、えっとー、そのさ。上田、黒魔術研究部の上田さんが熱を出してしまって……  それでちょっと家まで送っていったんだよ。そしたらさ、彼女どうやら一人暮らしらしくってさ……」  ――言葉のチョイスがへたくそすぎた。 『ふーん。なるほど。つまりマコトは今、アタシとの約束をほったらかしにして一人暮らしの女の子の部屋に上がり込んでいるというわけね? しかもその子は弱っていて抵抗も出来ない状態にあると……』 「いや、えー、あの、いや、そういうことじゃなくてだな」 『うん、わかってる。わかってるから。そこ、場所教えて! 今からアタシも行くから!』  ななせが到着するのは早かった。少し息を切らしているようだったし、走ってきたのだろう。小さなアパートのとってつけたような簡易なキッチンに立ち、おかゆでも作ろうかと考えていたところだ。大した料理なんかはできないけれど、おかゆくらいなら僕にだってどうにか作れる。 「熱があるっていうのに、そんなもの食べたいわけないでしょ」  ななせの指摘は適切だったと思う。確かに僕だって、熱があるというのにそんなものを食べたいとは思わないだろう。ななせはコンビニの袋からゼリーを取り出してベッドのわきに並べた。 「何か僕にできることはないかな?」  情けないことに、僕はこんな時、何をしてあげればいいのかがわからなくてななせの指示を仰いでしまう。 「だいじょぶよ。あとはアタシに任せて。もう、帰ってもいいよ」 「いや、でも……」 「汗もかいているだろうし、着替えなきゃなんないでしょ。それともその間、ずっとそこで見ているつもり?」 「あ、いや……なんだかゴメン。力になれなくて……」 「そんなことないよ。マコトはできることをしてあげたんだからそれで十分じゃない。こっからはアタシができることする番ってだけだよ」 「わかった。後のことは任せるよ」  
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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3DAY 木曜日 大きなマスクの女

 その日の放課後、旧校舎は極めて静かだった。 猛烈な寒波も少し収まり静かにそよぐ風が茶色く乾燥した木の葉を揺らしてカサカサと音立てる。 上田は今日一日学校を休むらしい。今朝、律儀に電話をかけてきた。『わたし、麻里です。今、家にいます。まだ体調があまりよくないので今日は一日休むことにしました。あと、昨日はありがとうございます。その……伏見さんにもお礼を言っておいてください』「ああ、わかった。でも、ななせへのお礼は自分で伝えろよ。今日はゆっくり休んでろ」 それだけ言って電話を切った。 上田が一人いないからと言って、それほど静かになるわけではない。元々上田は物静かなほうだ。 少ししてななせがやってきた。元々が小顔ではあるのだが、その日の彼女はその顔の半分を覆いつくすような大きな白いマスクを着けていた。「マコト、元気?」 僕はいたって元気なのだが、当のななせはとても元気だとは言い難い声だった。のどがかすれて明らかに風邪声だった。「うつされたのか?」「人聞き悪いこと言わないで。麻里ちゃんがうつしたわけじゃなくてアタシが勝手に持って帰っただけだから」「まあ、確かにそれはそうだけど……。そういえば上田は今日学校休むって、ななせにもお礼を言っておいてくれと言われたので、自分で言えと言ったんだが、連絡はあったか?」「ううん、ないよ。アタシ、麻里ちゃんの連絡先知らないし」「え、そうなのか?」「だって、別に同じ部でもないし、そんなもんでしょ?」 ななせは文芸部唯一の電化製品、湯沸かしポットのところに行きスイッチを入れる。「マコトも飲む?」「ああ、お願いする……っていうか。いいよ。ななせは座っていてくれ。コーヒーくらい僕が淹れるよ」 さすがに風邪をひいた様子のななせにそんなことまでやらせるわけにはいかない。「そう、ありがと……こほん」 お湯が沸くのを待つ間、椅子に座ったポケットから手鏡を出したななせは自分の姿を鏡で見ながら前髪を整え、ぽつりと「あ、やっぱイケてるわ」とつぶやく。 気になってそちらのほうを見ると、ななせは待っていましたかと言わんばかりに言う。「ねえ、アタシってさ、マスクでこれだけ顔隠れてても十分にかわいいよね?」「は?」「は? じゃないでしょ。かわいい? って聞いてるの」「マスクをした状態でカワイイ? って聞かれてもな。なに裂け女だよって感じだ」「そんなことを聞いてるんじ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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3DAY 木曜日 金山の巫女

「――そう、裏山にそんなところがあったんだ……ねえ、もしかしてその場所って、金山(カナヤマ)の巫女のお堂の跡じゃないかしら?」「金山の巫女?」「そう、アタシ、少し前に知ったんだけど、この学校のある山、『金の山』と書いてカナヤマって呼ばれているけど、昔は『神の山』と書いてカナヤマだったらしいの」「そういやなんか聞いたことあるな。上田の調べていた学校七不思議の中にもそんな話が合った」「うん、アタシが聞いた話によるとね。この山には神様のお堂があって、代々選ばれた若い女性が巫女となってそのお堂に住み、町を守ってきたらしいのね。だけど、その巫女は神様の使いだからずっと恋愛禁止だったの。 でも、ある時その巫女に恋をしてしまった男性がいて、夜な夜な人目を忍んで巫女に逢いに行っていたそうなの。 だけど、そのことが町の人に見つかって、みんなはカンカンに怒ったらしいの。 決して許されない二人の愛。その二人は最終的にお堂に火をつけて心中を図ったらしいの。 愛の、物語よねえ」「なんというかまあ、古い田舎の因習といった感じだな。神の巫女なんて言って祀り上げられて、いいところただの生贄だよな。自由を奪われて町のために祈るだけの人生なんて」「まあそうよね。特に恋愛禁止ってのはないわ。自分が幸せじゃないのに他人の幸せを願えっていうのはちょっと酷ね」「でもまあ、そこに夜這いを掛けようって男もなかなか大した度胸だ。その巫女がそれほどまでに魅力的だったのか、あるいは他に相手をしてくれる女の子がいなかったのか。 恋愛を禁止されている巫女の前に現れた男に、巫女としても相手を選ぶ権利もなかっただろう。ただ初めての恋愛に、舞い上がって命まで賭けてしまったのかもしれない」「ちょっとマコト、テンション下がるようなこと言わないでよね。二人はさ、すごく愛し合ったの! 命を惜しいと思わないくらいにね」「まあ、そういうことにしておこう」「でもさ、そういわれるとこの学校って素敵じゃない? だって命を懸けて恋した男女の伝説が残る山なんでしょ?」「呪いの山、らしいよ」「なんでそうなるのよ!」「そういう都市伝説になっているらしい。命をかけて愛を成就したとみるか、愛を許されないがゆえに命を絶たなければならなかったとみるのか。もちろん、後者で考えるならばここで恋愛することは巫女の恨みを買いかねないことから呪いと考えるだろう。もしかす
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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3DAY 木曜日 二階に誰かいる

「あ、どうも」「どうも」 相手のあいさつに合わせて同じように声を掛ける。まるで老犬のような優しい表情だ。ドラムセットのシートに腰掛け、シンバルを一人磨いている。「井上、来てたのか?」「うん、ごめん。邪魔しちゃったかな」「ジャマ? 何を言ってるんだ?」「いや、ほら、その、伏見さんと……」 どうやら井上は、僕とななせが付き合っているとでも思っているらしい。まあ、悪い気はしないけど。「別に、ななせが練習できなくて暇だからとコーヒーを飲みに来ただけだよ。よかったら一緒にどうだ?」「うん、でも……」 井上はドラムに視線を落とす。どうやら一人でも練習をしようとやってきたのだろう。だけど、僕がななせと一緒にいるところを見て音を出してもいいか悩んでいたのかもしれない。「練習、しに来たのか?」「うん、一応家に練習用の音の小さいドラムセットは置いてあるんだけどさ、やっぱり雰囲気が出ないというか……。あ、でも、やぱぱり邪魔、だったかな?」「気にするところじゃないだろ。部室なんだし」 本音を言えば、邪魔だと言ってしまいたいという気持ちもある。しかし、はやりそれは筋違いだというもの。仕方ない。ささやかな、静寂だった。「それじゃあ、お言葉に甘えて――」 井上が練習の準備を始めたところで、部室の戸が開く。「あ、やっぱり井上くんじゃん! 練習?」「うん」「そっかー。アタシも歌いたいな」「ななせ、お前は風邪ひいてるんだろ。今はやめとけよ」「だよね。わかってる、わかってる。だから部活動もお休みになってるわけだし……」 いいながら、折角練習を始めようとしている井上に話しかけて邪魔をしてしまうななせ。 あきれた僕はスマホの着信音に気づき、通話ボタンを押す。『あ、もしもし、わたし、麻里です。今、家にいるんですけど……』「と、言うか、ヒドイ鼻声だな」『風邪ひいちゃったみたいです』「わかってるよ。今朝聞いた。ゆっくり寝てろよ」『はい、すいません。ちょっとお願いがありまして……』「なんだ?」『はい、あの、犬に餌をやってほしくて……』「犬?」『昨日見かけた、あの犬です。おなか、空かせてるかもしれないので』「下手に餌付けすると住み着くぞ」『たぶん、もう住み着いてます』「だろうな」『だったら、あげたほうが優しいです』「まあ、そりゃあそうかもな」『お願いします』「ああ、わかった。わかったから上田はもう寝てろ」『はい、す
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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3DAY 木曜日 その薄暗い公園には

「ドッグフードって、コンビニに売ってるのかな? まさか学校の購買には売ってないだろうし」「麻里ちゃんに頼まれた犬の餌のこと? でも、その犬って幽霊なんじゃないの?」「そんなわけあるか。あれは別の犬だよ。ちゃんと生きている、ふつうの犬だ」 見た目が全然違う、ということは伏せておいた。何を言われるかわからない。「まあ、そういうことなら、これでいいんじゃない?」 ななせはポケットから、ラップにくるまれた揚げを二枚取り出した。「昨日さ、マコトたちから話を聞いていたから、アタシも餌付けでもしようかなって思っててさ」「それって……」「みんなには内緒だよ。知ってる? これって犯罪なんだよ」「金払ってないのか?」「えへへ。しかもさ、油揚げの中には余った鶏肉も入れてあるの」「それはダメだろ……。いや、むしろこれは、弱みを握ったことになるのかな? もし、このことをばらされたくなかったら……」「うー。わかったよ。ハイ」 二枚の油揚げのうち一枚を僕に差し出す。「なんだよ、それで買収しようってのか? 僕はキツネか?」「いや、これを裏の稲荷にお供えすることで、願いがかなう訳だよね。それって、すごい価値あるものだと思わない?」「あいにくだけど、僕はそんなにまじないとか占いを信じていないからなあ。そんな曖昧な願いごとをするよりはななせを脅迫して願いを叶えてもらったほうが手っ取り早い」「ああ、さてはエッチな脅迫を!」「ぐへへへへへ」「まあ、マコトがそんな度胸がないことくらいはわかってるから、別に怖くないよ。それに、脅迫なんてしなくても土下座して足を舐めればある程度なら考えてあげてもいいしね」「それ、喜んでいいのかわからない話だな」「喜んでいいに決まってんじゃん。足を舐めさせてもらえるうえに、エッチな要求までできるんだよ」「うん、それじゃあ、まあ、考えておくよ」 言いながら、僕たちは旧校舎の裏手に回り、稲荷の祠の前でそれぞれ手に持った油揚げを供え、手を合わせて願い事をした。「ねえ、マコト。何をお願いした?」「教えないよ。ガチのやつだからね」 今日の寄り道。『柴田のたい焼き』は学校を出て、駅とは逆方向へ少し行ったところ。公立の中学校のすぐ隣にある。放課後の時間ともなると部活を終えた下校途中の中学生が多く通る場所ではあるが、基本買い食いが禁止の中学校の目の前ともなれば生徒のほとんどは素通りするしかない
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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3DAY 木曜日 トイレの花子さん

「はい、あーん」 ……もぐもぐもぐもぐ。「ねえ、おいしい?」「いや、めちゃくちゃ甘いんだって。僕が甘いものは苦手だと知っていて、どうしてななせは僕をこうやって連れまわすんだよ」「え、だって……ここのずんだあんって、めちゃくちゃおいしいんだよ。甘いのに、結構しっかり目に塩も効いてるでしょ、それが絶妙なわけ。かといってさ、定番のつぶあんを食べないわけにもいかないじゃない? だけどさ、さすがにふたつも食べちゃうとあれでしょ? アタシ、思春期の乙女だよ」「だから、僕に半分食べさせるというわけだね」「そうよ、いつも言ってるでしょ」「時に僕は思うんだが、」「なあに?」「それならば、39アイスのスノーマンズキャンペーンに行くというのはどうなんだろう? ただでさえ、ボリュームが倍になっているというのに、何も僕を連れて四倍で食べる必要はないんじゃないのか?」「え、何言ってんの? だって倍だよ? おとくじゃん」「うーん、だからさ……」 ななせは僕の言葉になど耳を傾けず、僕がひとくち齧った残りのずんだたい焼きを胃の中に収める。僕は少しあきれ顔でそんなななせを見ていた。続いて今度はつぶあんたい焼きを取り出す。「ねえ、マコトはたい焼きを食べるときはあたまから? それともしっぽから?」「そうだな、どちらかと言えば頭からかな。なんでかっていうと、頭のほうがあんこの――」「アタシはしっぽからだな」人の話は全然聞かない。続けて、「じゃあ、こういうのはどうかな。このたい焼き、マコトがあたまからで、アタシがしっぽから。ポッキーゲームみたいにさ―― あは、何紅くなってんのよ。エロいの想像しすぎ!」 なんて言いながら、つぶあんたい焼きを一匹丸々食べつくした。結局のところ、僕が一口齧っただけで実質ななせが二つ食べているようなものだ。これで、本人がダイエット的なものを気にしているというのだから驚きだ。「じゃあ、そろそろ帰ろうか」 僕が立ち上がろうとすると、「あ、ちょっと待って、アタシ、ちょっとお手洗いに行っておきたいの」「そうか」 僕は再びベンチに腰掛ける。が、ななせも座ったままでトイレのほうへと移動する気配がない。まさか、トイレに行きたいなんてのは嘘で、ただもう少し僕と一緒にいたいだけではないか……というようなバカげた妄想を僕はしない。「トイレ、行かないのか?」「うん、ちょっと待ってる」「待ってるって、なに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-09
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4DAY 金曜日 お弁当を一緒に

ななせが風邪をこじらせてしまったらしく、今日は学校を休むとのLINEが来た。昼休みになり、ひとりで学食へ向かおうとしているときに着信があった。『もしもし、わたし麻里です。今、旧校舎にいるのですが……その……今から一緒にお昼をどうかと……思いまして……』 今まで、上田と昼食を一緒に取ったというようなことはないし、そんな誘いは正直意外だった。しかし……「今日、学校来てるのか? 調子、少しはよくなった?」『いや、少しも何も全快ですよ。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした』「そうか、それはよかった。でも、昼飯のことはすまない。僕は、あいにく弁当派ではなく学食派なんだよ。そっちに行っても、食べるものを持っていない」『あ、いや、そのことなんですけど……た、高野君の分もあるのです』「え、僕の分?」『あ、いや、その……ですね。今日は少したくさん作りすぎてしまいまして……どうにも食べきれないんですよね。ほら、残してしまっても荷物が重くなるだけというか、衛生的のことも考えると……あ、そうだ、そうです。フードロスですよ。そういうの、SDGS的にも気を付けなくてはいけないので……』 まったくもって意見がまとまっていないようだ。しかし、今日の僕は一人だし、小遣い的なことも考えると節約できるものは節約したほうがいいのだし、その、なんと言おうか、断る理由が見当たらないのだ。 しいて言うならば、このことをななせが知ったら、なんと思うだろうかということだ。 無論。ななせは僕の恋人というわけではないし、そのことでとやかく言われる心配もないと言えばないのだけれども……「ああ、それじゃあ、今からそっちに行くよ」『はい、待っています』 昼休みの旧校舎は、放課後のそれよりもさらに静かだ。二階の黒魔術研究部の部室を覗いたが、誰もいなかった。 おかしいな、上田は確かに今部室にいると言っていたはずなのに…… 不意に、後ろに誰かの視線を感じて振り返る。「高野、お前クロ研の部室で何してんだ?」 長髪で丸眼鏡のキザな男、ギターの天野がそこにいた。鞄を抱え、ひとり軽音楽部の部室に入ろうとしているところだった。 もしかすると今、僕は誰もいないクロ研の部室に侵入しようとしている不審者に見えていたのかもしれない。「あ、いや、違うんだ。その、上田を探してて」「そのうち来るんじゃないのか? 昼食はいつも部室で一人で食べて
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