翌日の放課後。やはり寒波の影響で冷たい風が吹いている。旧校舎は新校舎から少し離れた坂をさらに上ったところにある。吹き抜ける風は冷たく、ポケットに手をつっこむ。耳が、ちぎれそうになる。小刻みに震えながら文芸部の教室のドアを開ける。 伏見ななせがそこにいた。僕がいつも座る特等席に腰を掛けてスマホをいじっている。「あ、マコトだ!」「そりゃ、そうだろ。ここは僕の部室で、僕しか来ない場所だ」「最近、上田さんがちょくちょく来ているみたいだけど?」「暇なんだろ。黒魔術研究部って、普段何してるんだ?」「知らないわよ、そんなこと。自分で聞いてみたら? 仲いいんだから」「別に、仲がいいわけじゃない」「でも、エッチな想像をしてオカズにしてるんでしょ?」「してないよ、昨日のあれはなんだ、言葉のあやというか、その場のノリで言ってるだけだ」「どうだか」 ――そんなこと、正直に言えるわけないだろ。「ところで、なんか用か?」「うん、昨日ね、ついに新曲が完成したから聞きに来ないかなって。今から部室で通しで演奏するから聞きに来てよ」「まあ、新曲って言っても、僕としてはもうとっくに知っている曲なんだけどな。なにせ真下で音をずっと聞いてる。何なら、僕が歌うことだってできるかもしれない」「え、まじ? だったらさ、今度演奏するときにコーラス参加してよ」「冗談だろ?」「まじまじ!」「断るよ」「だってマコトは頼まれれば断らないタイプでしょ?」「え、普通に断るよ。絶対嫌だ」「どうしても?」「僕は決して押しに弱くない」「じゃあ、仕方ない。コーラスに参加してもらうのはあきらめるからさ、そのかわり今日は付き合ってよ、今日だけ。お願い。いいでしょ?」 まったく。美少女にこうまでして頼まれると、さすがに断ることなんてできない。「ちょっとだけな」 言いながら、荷物を置いて教室を出る。ななせと二人、軽音部の部室へと向かう。「はーい、みんなー。ギャラリー連れてきたよ」ギャラリーとはいってもどうやら僕一人だけのようだ。 僕の姿を見るなりバンドメンバーは一様に頭を下げる。ここ旧校舎にいるメンバーは僕を含め全員が同い年の一年生なのだが、皆は僕のことを一目置いてくれているように思える。 まずその要因の一つとして、軽音楽部もオカルト研究部も今年の秋に新設されたばかりの新しい部だが、僕のいる文芸部はもっと以前からこの旧校舎を使っていたか
Terakhir Diperbarui : 2025-03-17 Baca selengkapnya