Semua Bab 放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた: Bab 21 - Bab 30

35 Bab

4DAY 金曜日 密室の首なし死体

 放課後の旧校舎、僕はゆっくりと読書をしようと考えていた。 ななせが風邪をひいてしまって、軽音楽部の部活動はしばらく休みだと聞いていた。それに、上田の姿も見当たらない。鞄から読みかけの文庫を取り出して読書を開始する。昨晩読んでいて遭遇した密室について、僕なりの予想は立てている。さあ、答え合わせの時間だ。 ――と、思っていたのだが、文芸部の部室の前の古い板張りの廊下をギイギイと音を立てて歩いていく一行がある。軽音楽部のメンバーだ。 教室の窓をそっと開け、ベースの河本と目が合った。「あれ、部活、休みじゃなかったの?」「ああ、今日伏見さん休みでしょ。それで」「それで?」 意味がよくわからなかった僕に、ギターの天野が説明をしてくれる。「本当はみんな、ちゃんと練習はしたかったんだ。だけど、昨日は伏見が喉を傷めていたみたいだから、みんなで休むことにしたんだ。彼女、もし俺たちが練習していたなら、きっと無理してでも自分も参加しようとするだろ?」「ああ、なるほど」「まあ、そういうわけで、迷惑かける」 ――自分たちの練習が迷惑をかけているとわかっているのなら……いや、こんなことを言うのはやめておこうか。彼らだって、悪気があってやっているわけではない。 本を閉じて湯沸かしポットにスイッチを入れる。男四人が古い階段を上がり、真上の教室の中を歩き回る音がはっきりと聞こえる。 やがて、演奏が始まり、騒音の中でそんな足音さえも聞きとおせるような静寂はなくなり、僕は放課後の読書をあきらめた。 スマホをいじりながら、上田から連絡が来ないだろうかと考えている自分に気づく。最近すっかり放課後に読書ができなくなり、そんな持て余した時間をなんだかんだ言いながら上田が埋めてくれていたことに気づく。 上田は、今どこにいるのだろうか……  そんなことを考えている最中、ゴトンと大きな音が上のほうから聞こえた。おそらく真上の軽音楽部の部室よりもさらに上のほう。しかし、二階から階段を上って存在するのはこの旧校舎の止まってしまったままの時計台の機械室だけだ。そしてその機械室には常に鍵がかかっており、その鍵を管理しているのは僕。いつも財布と一緒に持ち歩いている。 その音を不審に思ったのは僕だけじゃないようだった。軽音楽部は演奏をやめ、何やら話し合っているようだった。 少しして、誰かがギイギイと音を立てて二階から階段を下り
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4DAY 金曜日 死体を埋める

 旧校舎に戻った僕は借りてきた鍵を嗅ぎ穴に差し込み、半回転させる。カチリ。という音と共に扉が開かれる。やはり職員室の鍵はずっと前から本物だったようだ。鍵を閉めた人間は、職員室の鍵を使ったわけではなく、機械室に閉じ込められている河本がもっている僕の鍵とはさらに別の鍵を使って鍵を閉めたことになる。しかし、僕は自分の管理しているこの鍵を、誰かに貸してスペアキーを作られたかもしれないというような記憶もない。と、なるとやはり考えられるのは……中から憔悴しきってぐったりとした河本が出てくる。その手には、汗でべっとりとした機械室の鍵が握りしめられていた。 旧校舎機械室の中を覗き込むと、部屋の中央には茶色い何かが転がっている。そして床一面には赤い何かが……「おい、嘘だろ……」 つぶやきながら僕はそれに近づく。 毛足の短い、茶色い四足歩行の胴体。 僕がそんな言葉を使ったのは、その胴体には頭部がついていないからだ。 おそらく柴犬か何かの首なし死体。無残に切り取られた頭部があったであろう断面には凄惨な肉の断面と、赤黒い血が垂れ流され、小さな溜まりを形成している。 そこにいる誰もが戦々恐々としているのだが、井上の表情が、その場の誰よりもこわばっているということは言うまでもない。血の気が引いて、いまにも倒れてしまいそうなほどだ。 その胴体は、明らかに昨日井上が見せてくれた、事故にあって死んでしまったという犬の姿そっくりだ。 本当は僕だって声を上げて逃げ出したい気分だ。だけどそこはあえて気をしっかりと持ち、冷静にあたりを見渡す。周囲に血しぶきが飛び散っている様子はない。かといって、それなりに血の溜まりができているにもかかわらず、見渡す限りその場所以外に血の痕跡は見られないということは、おそらくここで生きた犬の首を切ったわけではないだろう。どこかで殺し、死体をここへ運んでから首を切り落としたのだ。そしてその切り落とされた首は見当たらず、首から滴り落ちるであろう血の跡もないことから、切り落とされた首をビニール袋か何かに入れられて持ち出されたのだろうと僕は推測する。犬の死体を触ってみる。まだ、あたたかい。おそらく、首を切られてまだそれほど時間は経っていないのだろう。「どうしよう。警察か、保健所に連絡したほうがいいか?」 長髪の丸眼鏡、ギターの天野が僕に訪ねる。「いや、首輪もないし、おそらくこの辺り
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4DAY 金曜日 放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた

僕は文芸部の部室に戻り、一人きりになった。天井裏からは軽音楽部の演奏は聞こえなかった。さっきの事件があり、井上はすっかり委縮してしまったし、河本だって平常を装っては見せていたものの心中穏やかではなかったはずだ。他の二人にしても、それなりに思うこともあり、何事もなく練習をするという雰囲気にもならなかったのだろう。 せっかくの静かな放課後、本当なら読書に打ち込みたいところではあるが、やはり僕としてもなかなか読書をするという気持ちにはなれなかった。オセロ盤を机に引っ張り出し、湯沸かしポットにはコーヒー二杯分の水を沸かした。 すぐに、上田がやってくるものだろうと考えていたのだが、いつまでたっても上田はやってこない。 仕方なく、ダラダラとスマホをいじりながら時間をつぶすことにした。 僕は、ひそかに『カクヨム』というネットの小説投稿サイトを利用している。自分のいつかは小説家になりたいと考えていて、こっそりと書いてみた小説をサイトにあげてみたりもしている。 しかし、なかなかどうして、そう簡単に僕の書いた小説なんて誰も読んではくれないものだ。 なにせ、数えきれないほどの数の小説が日々サイト上に投稿されている。そこで、全く無名の新人である僕の小説なんかが誰かの目に留まるということもなかなかに考えにくい事象で、日々そこに頭を悩ませている。 そういえばどこかで、エッセイなんかのタグだとあまり競合がないから比較的読んでもらいやすくて、そこから小説のほうへ読者を引っ張るなんて方法があると聞いた。 物は試しにやってみようと、ちょとした記事を書いてみることにした。『岡山のとある山にまつわる都市伝説について、情報がある方は教えてください』 というタイトルで記事を書いてみた。 自分の通う学校名は伏せ、その学校にあるという学園七不思議の一部情報と、その学校のある金山という小さな山に関する巫女のの伝説。上田とななせから聞いた話を簡単にまとめ、その真相を探るために何か情報があれば教えてほしいという記事だ。 我ながらに、うまく書けたと思う。 満足げに二杯目のコーヒーをすすりながら、適当に暇をつぶしていると、地元の駅前にあるストリートピアノを弾く天才美少女の動画を見つけた。小柄で、黒いワンピースを着た子。黒髪ロングの美少女が男さながらに激しくピアノジャズを弾き語る姿に多くのギャラリーが集まっている。その
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4DAY 金曜日 スクナのいた、山の上の空き地

 いずれにせよ、上田は僕の助けを求めているようだった。面倒くさいとは思いながらも、旧校舎の裏手に回り、稲荷の祠の裏から山奥へと入って行く。 道は、以前通った時よりもだいぶ歩きやすくなっていた。一度目の登頂は木々が生い茂っていて大変だったが、それから上田を背負って降り、今日また上田が一人で登ったせいで脇の木々は少なくなり、地面もそれなりに踏みしめられて難なく道を上がることができた。 こうしてみると、初めての時はそれなりに距離があると思っていた山道だったが、その距離は意外と短かった。 山頂の開けたその場所にしゃがみ込んでいる上田。その手には土にまみれた頭蓋骨のようなものをいとおしそうに眺めている。 僕の姿を見つけるなり立ち上がり、手に持った髑髏を突き出して小走りに駆け寄ってくる。「これ! これです! すごくないですか!」 すごいかどうかと言われれば確かにすごい。思わず目をそらしたくなる光景だ。にもかかわらず、それを嬉しそうに素手で抱えている女子校生という絵柄が一番すごいと思う。「これ、見てください」 差し出されたのはあきらかに人間の頭蓋骨。全体的に土にまみれており、眼窩には土がぎっしりと詰まっている。顎の部分はなく、頭骨だけだ。上田は僕から見やすいようにそれを180度回転させ、後頭部をこちらに向ける。抱える上田の手元から中にたまった土がぼろぼろと落ちてくる。 そこには、正面に比べると少し小さめの二つの眼窩と、折れてしまってぽっかりと開いた鼻腔が存在する。つまり、一つの頭部に二つの顔があるということだ。「これ、リョウメンスクナですよね!」 うれしそうに笑う上田に、「そうだな」と僕はつぶやく。 しかし、僕の正直な感想は、まさかそれが本物のはずがないだろうということだ。二日前にここに来た時にどこにもなかったそんな特級呪物が、何の予告もなく突然こんなところに現れるわけがないのだ。それにもし、そんなものを見つけて普通に喜んでいられるイカレた女子高生もまた、存在しないと考えている。 ――たぶん、上田が自分で用意したレプリカだろう。「どうしたんだ、それ?」 僕のはなった言葉の意味は、『どうしてそんなものを用意したんだ?』だった。しかし彼女はあくまで知らんぷりを決め込み、「あの子犬がですね、持ってきたんですよ!」と言った。「子犬?」「ほら、あの片脚をけがしていた子犬ですよ! やっぱり
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4DAY 金曜日 スクナの頭蓋骨について

 僕たちは山を下り、旧校舎へと向かう。 上田は嬉しそうに旧校舎の入り口前にある手洗い場に走り、水道の蛇口をひねってスクナの頭蓋骨をジャブジャブと水で洗う。「上田さあ、祟りとか、呪いとか、そういうの怖くないの?」「え、そりゃあ怖いですよ。なにせ特級呪物ですからね。でも、だからこそワクワクするんです。こんなもの普通出会えませんよ」「そりゃ、普通はね」「それにもし、呪いがあるにしてもですよ。道理としてきれいに洗ってあげているわたしを呪いにはかけないですよ。大災害があったとして、きっとわたしだけが助かりますよね」「呪いに道理を求めるなよ」「そういう高野君こそ、怖くないんですか? 呪い?」「あいにく僕はそういうの信じてないんでね」「信じるも何も、今こうして目の前にスクナの髑髏があるのが何よりの証拠じゃないですか!」 ――本物なわけないだろう。 そんな言葉を言いかけた時、「あ、おつかれさまー」という声が聞こえた。部活動を終えた軽音楽部の男子四人が旧校舎から出てきたのだ。「あっ!」 と言いながら、上田はまだ水に濡れたままのスクナの頭蓋骨を後ろ手に隠す。「ん? 今何か隠した?」「い、いいえ! な、なにもかくしてい、いませんよお!」 天野の言葉に、上ずった声でごまかそうとする上田。 まったく。見え透いた下手な演技だ。本当は皆に見せたくて仕方がないのだろうけれど、なまじ警察のことを持ち出したために堂々と見せることをためらったのだろう。僕からも、あまり人に見せてはいけないと言ったばかりだ。「みんなには見せてもいいんじゃないのか? どうせ、いつまでも隠しているわけにもいかないだろう」「な、なにがあるんです?」「こ、これは……」 上田が僕のほうを見る。僕は黙って頷いた。「だ、誰にも言わないでくださいよ。とっても大事な秘密です」 そう言って、スクナの骸骨を皆の前に差し出す。 突然に目の前に差し出されたそれが、ただの人骨であっても十分に恐ろしく感じるだろう。それがまさか、一つの頭部に顔が二つ付いているリョウメンスクナの骸骨であるとわかったとき、その場にいた誰もが息を飲み込み、言葉を失った。「い、犬が……持ってきたんです。まるで、わたしにプレゼントするみたいに……」「犬、だって?」「はい、足をひきずった子犬です」 その言葉に、皆が反応した。無理もない。今の彼らにとって犬と言えば、ついさっき地
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4DAY 金曜日 週末の作戦会議

上田のアパートの部屋の前、上田はわざとらしく部屋の鍵を取り出し、指先でくるくると回転させた。いい加減茶番に付き合うのも飽きてきたころ合いなので、僕は鞄から鍵を取り出した。旧校舎三階機械室というタグのついたあの鍵だ。上田のアパートの部屋の扉にある鍵穴にそれを差し込み、サムターンを回す。ガタンという鈍い金属音が鳴り響く。「ど、どうしてわたしの部屋の鍵を!」「どうしてと言われてもな。いつでも夜這いを掛けられるようにこっそり作っておいたんだけど?」「た、高野君。いくらなんでもそれはヤバいんじゃないですか?」「そうだな。それじゃあこの鍵は返しておくから、その鍵と交換しようか?」 ひとまず上田の部屋に入り、僕はキーホルダーから上田の部屋の鍵をはずし上田の持っている鍵と交換した。「悪いが、僕にはすべてお見通しだぞ」「うーん、そうなのですかあ。でも、このことは全部黙っていてくれるんですよね?」「ああ、もちろんだ。僕には犯人を見つけ、皆にその正体を暴くことに何のメリットもない。むしろ、この作戦が全部うまくいくほうが都合いいからね」 上田から受け取った二つの鍵を並べると、どちらも同じメーカーの、古くてシンプルな鍵だ。しかし、その二つはやはり凹凸の違う別の鍵。 以前上田が熱を出して家まで送ったときに、その部屋の鍵に妙な愛着がわいた。それは、古いシンプルな、よくあるメーカーの鍵で、僕が管理している時計塔の鍵と同じメーカーのものだった。 はっきり言って鍵なんて、同じメーカーのものであれは一見違いなんて誰にも分らない。もしそれが、すり替えられていたとしても僕は気づきもしないだろう。おそらく今日の昼休み、上田に旧校舎に呼び出されたときに鍵をすり替えられてしまったのだろう。放課後に誰よりも早く旧校舎に向かい、僕の鍵で三階時計塔の機械室に入り込み、犬の首なし死体を置いた。わざと大きな音を立て、誰かが様子を見に来るように仕掛けた彼女は、おそらく機械室のドアの裏にでも隠れていて、河本が入るのと入れ替わりに外に出て、持っていた鍵で外側から施錠した。河本は薄暗い機械室の電気をつけることであの犬の死体を発見して、叫び声をあげた。皆が駆けつける。おそらくその間に上田は二階の女子トイレにでも隠れていたのだろう。あの場所にいたのは男子生徒ばかりで、たとえその可能性に誰かが気づいたところで、女子トイレの中まで探しに
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4DAY 金曜日 カワウソ君と河童君

「正直に言うとね、僕は河童の正体はカワウソじゃないかと思ってるんだよ」「カワウソ……ですか? それじゃあなんですか? あの名作ギャグマンガのコンビ、かっぱ君とかわうそ君は同族だったとでも?」「まあ、そのギャグ漫画がどうであるかはさておき、今ではほぼ絶滅したと言われている二ホンカワウソだけど、水辺なんがでは割と二足で立ち上がったりするんだよね。身長90センチくらいで水かきもある。頭のてっぺんは平べったくて、水からあがった際にはそこに残った水が太陽の光に反射してお皿のように見えたんじゃないのかって思うわけだ」「それはまあ、確かにそういう事例なんかもあるかもしれないですけれど、だからと言って探さなくてもいいという理由にはなりませんよ? それに、そもそも河童を目撃したその人は、なんで、カワウソを発見したって言わなかったんですか? だってそのほうが普通じゃないですか? それなのにわざわざ河童を見たと証言するのは、それがとてもカワウソには見えなかったからじゃないんですか?」「でもさ、初めから河童とかわうそと両方を知っている人からすればどうだろう?」「そりゃあ、カワウソならカワウソを見た。そうでないものを見たなら河童を見たというの言うのでは?」「僕が思うに、その見たものがどうであれ、河童を見たいと思っている人は河童を見たといい、カワウソを見たいと思っている人ならカワウソを見たと証言するんじゃないかな? 人はどうしても見たい世界を見ようとする癖がある。だから、それを見たときに自分にとって都合の良いところだけを観察して、都合の悪いところは見ても見ぬふりをするんじゃないだろうか?」「うーん……そういう穿った見方をするのは好きじゃないです。ともかく、とりあえずそいつを捕まえればわかることです。つかまえてから、じっくりと河童なのかカワウソなのか判断すればいいんじゃないですか?」「ま、まあ、そうだね……もしかしてこの調査は、河童を捕まえるまで続いたり……しないよね?」「でも、わたしが納得するまでは終わりませんよ。わたし、そう簡単にはあきらめたりしないタイプなので、それが嫌ならなるべく早くに捕まえることをお勧めします」「そう、なのか……まいったなあ」「さあ、話がそれました。本題に戻りましょう。ここ、高野君、わかります? ここじゃないかと思うんです」 僕が手に持ったスマホの航空図とにらめっこを
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5DAY 土曜日 フィールドワーク

 十一月の午前七時はまだ薄暗い。 東日本に住んでいる人間からすれば疑問の声も上がるかもしれないが、西日本では実際そうなのである。日本国内ではどこに行っても一つの標準時刻で生活しているが、なにせ日本列島は全長3000キロメートルもあるのだ。その東西では経度の関係上、実質二時間近くの差があるため、統一された一つの時間で語っても、その感じ方は生活の環境次第で違ったものになる。 僕らは皆、そういう世界で生きているのだ。 まだ外は薄暗いにもかかわらず、今日が土曜日だというにもかかわらず、運動部に所属している学生たちはすでにユニフォーム姿のままで登校し、部活動の朝練へと出発しているものも少なくない。実にご苦労なことだ。くだらないことでほとんど眠れなかったと愚痴をこぼしている自分がまるでヒドイ怠け者のように感じてしまう。 電車に乗り上田の住むアパートに到着するころにはしっかりと陽の光も上がってきている。 ドアチャイムを鳴らし、しばらくすると玄関が開き、パジャマ姿で眠そうな上田が出迎えてくれる。「ふああ、すいません。まだ準備ができていなくて……すぐに用意するので少しだけ待っていてください……どうしたんです? 外じゃ寒いので、中に入ってください」「あ、ああ……それにしても上田……お前、寝るときもカラコン、つけたままなのか?」「ふぇ? からこん?」 上田本人も、気づいていなかったようだ。さも寝起き間もないという風体にもかかわらず、上田の左目はいつものような漆黒の瞳。にもかかわらず、たいして右目は真紅の瞳孔だ。「は! はわわわわわわ!」 上田は右てのひらで慌てて赤い目を覆い隠し、部屋の奥へと走って行った。 帰ってくると、いつもの見慣れた黒いレースの眼帯で右目を覆っている。 上田が普段放課後に黒い眼帯をつけていて、しかもその目には赤いカラコンをつけているというのは割と有名なうわさだが、実際に赤い瞳を見ることはあまりない。確かコンタクトレンズを入れたまま眠ると目が腫れるというような話を聞いたこともあるが、ソフトだとかハードだとかそういうのがあるらしくて実際どうなのかはよく知らない。僕は、視力だけはやたらと良いので眼鏡だとかコンタクトレンズだとかそういうものの知識がほとんどない。 上田の部屋に上がり、隅のほうに腰を据える。たとえ上田が一人暮らしだと知っていても、これが通算三度目ともなると僕
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5DAY 土曜日 神田池の河童の正体は

 入山して約一時間ほどしたところで僕たちは山間にひっそりとたたずむ小さな池にたどり着いた。 まかり間違っても、絶景とは言い難い。さほど大きくもなく、水も緑色に濁っていて、その水面の三分の一ほどは落葉に埋め尽くされてしまっている。 その昔、河童が住んでいたというのだからもう少しきれいな水質を予想していたのだが、これでは河童どころか魚もそれほど住んでいるとは思い難い。あるいは昔はもっと、山水の流入が多く水質もきれいだったのかもしれない。「あ、でもこの水中が不透明なところだとか、もしかしたら謎の巨大生物とかいたりする可能性を感じませんか」 オカルト好きな上田は相変わらず夢見ごころなことを言いながら池のほとりに座り込んだ。 散々歩き通して疲れていただろう。僕も横に座り、ペットボトルの水を飲みながらくだらない蘊蓄を垂れる。「残念だけど、この池に巨大生物はいないよ。それに河童にしたって無理だ。もっと流動のある川の様な所なら住んでいてもおかしくないけれど、何しろここは山に降った雨水が集まってできた大きな水たまりみたいなものだ。もちろん、下流で川ともつながっているだろうし、魚が昇ってきて住んでいたっておかしくはないけれど、巨大生物や河童が餌を確保できるほどにはいないだろうね。 ほら、イギリスのネス湖に有名なネッシ―という巨大生物の伝説があるだろう? ネッシーの伝説自体は六世紀ごろから伝えられてはいるけれど、なんといっても有名なのはあの、いわゆる外科医の写真だ。あれはもともとエイプリルフールネタとして作られたおもちゃの潜水艦の写真だったということが公表された今でも多くの人々がネッシーの存在を今でも信じている。  だけど、規模としてはかなり大きいけれど泥炭が流れ込むことで水の透明度の低いネス湖は同時に食物連鎖の底辺となる植物プランクトンも極めて少ないと言える。そのプランクトン量で生存可能な水棲小動物があり、それを餌とする中型水棲動物、それを餌にする大型という風に計算すると、ネス湖はあれだけの大きさがあっても、せいぜいワニが10匹生存できるかどうか程度らしい。で、あれば、古代よりネッシーのような超大型動物が繁殖を行い今日に至るために常に二匹以上のネッシーが存在し続けたということは、どう考えても無理なんじゃないかな」 僕はまた、くだらないことを言ってしまったと思う。悪い癖だ。 隣で、炭酸
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5DAY 土曜日 ハーメルンの笛吹

 僕が子犬に近づこうすると、子犬は自分のくわえているそれを奪われるとでも思ったのか、小走りで逃げ出し、脇にあった入口とは別の小さな横穴に入って行った。その場を追いかけてみたけれど、流石に横穴は小さすぎて人間では入れない。横穴にスマホを差し込みライトを照らしてみると、どうやら上のほうに続く縦穴になっているようだ。 その先が、どこにつながっているのか? それは意外にも簡単に想像がついた。子犬が走って逃げたと入れ違いに滑り落ちてきた筒状の金属。僕はそれに見覚えがある。 安物ではあるけれど、災害時などに持っていると便利だろうと買っておいたLED式の懐中電灯だ。 昨日、上田と旧校舎の裏山に行き、その時に井戸らしき場所に落としてしまったライト。それがここにあるということは、おそらくこの場所はちょうどあの井戸の底だということだ。いや、そもそもここは井戸なんかではなかったのかもしれない。この神田池から巫女の住む社へと続く通路。神田池で汲まれた水をこの通路を使って持ってあがっていたのかもしれない。長い年月使用されずにそのほとんどは土で埋まってしまっているが、まだわずかな隙間があり、あの子犬が通路として使っていたのだろう。おそらく子犬はこのボロイ廃屋に住み着いていて、この通路を通って、あの裏山の広場や旧校舎の稲荷のあたりまで餌を探してさまよっているのだろう。 LEDの懐中電灯を拾い上げスイッチを押すとスマホよりもだいぶ明るい光が手に入った。 昨日落した時にはついていたはずの照明が消えていたのでてっきり壊れているかと思ったが、どうやらここまで落下してくる間にどこかでスイッチが押されてしまっただけのようだ。「どうしたんですかそれ?」「昨日あの井戸に落としたライトだよ。ここに落ちていた」「それってつまり……」 上田が何かを言いかけたとき、僕は懐中電灯をさっき子犬が土を掘り返していたあたりを照らす。「ひいぃ!」 オカルト好きのはずの上田もさすがにこれには声を上げずにはいられなかった。 僕は先ほど犬が何か白いものをくわえているのを見たときに、あれは骨だったのではないかと感じたので、それなりの心構えはあった。 だけど、まさかこんなにもヒドイと思っていなかったのでさすがに息をのむ。 小犬が掘り返していたあたり一面、土の中にぎっしりと敷き詰められた人骨。いったい、何人分のものだろう? 多すぎてとても
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