「ううん」紗雪は淡々と言った。「彼はそういう場が嫌いよ」それは彼女の本心だった。京弥は高嶺の花のように見え、清廉で冷ややかな雰囲気をまとっている。確かに、そういった場には馴染まないだろう。緒莉の唇の端がさらに深く持ち上がる。彼女はもちろん、紗雪が結婚したことを聞いていた。ただ、これほどひっそりと入籍するなんて。それならば、紗雪の夫という男は、きっと人前に出せるような相手ではないのだろう。「それは残念ね」緒莉は惜しむように言いながら、茶化すように笑った。「うちの彼も、紗雪の結婚の話を聞いて会いたがってたのに」「母さんは、結婚は二川家の決まり事だと言っていた」紗雪は二川母を見つめ、平静に続けた。「母さんにとって、私の夫が誰かなんてどうでもいいこと。だから、私も二川家のせいで彼に迷惑をかけるつもりはないわ」二川母は眉をわずかにひそめ、冷淡に言った。「緒莉は心配してるだけよ。嫌ならそれでいいわ。いずれ会うことになるでしょうから」紗雪の表情は変わらなかった。彼女は本気で、二川家の事情に京弥を巻き込みたくなかった。母は昔から彼女を徹底的に教育し、姉の代わりに多くの責任を負わせた。人生でたった二度の反抗、一度は加津也に、もう一度は京弥に向けられた。二川家の責任は、彼女が背負う。けれど、京弥はその必要はない。そう考えながら会議室を出た瞬間、携帯が再び鳴った。画面には「西山加津也」の名。電話を取ると、彼は冷笑混じりの声で言った。「紗雪、俺が贈ったものはどこだ?まさか、まだ手元に残してるんじゃないだろうな?本当に惨めな女だな」あまりにも露骨な侮辱に、紗雪は逆に笑ってしまった。思い浮かぶのは、あの安っぽい品々。そして、それらを宝物のように大事にしていた自分。当時の恋愛脳だった自分を思い出し、心底過去の自分を叩き起こしてやりたくなる。彼女は冷たく笑い、「物なら返してもいいわよ」と答えた。「ただ、その前に、いくつか清算すべきことがあるの。直接会って話しましょう」加津也の目に、嘲りの色がよぎった。結局のところ、彼に会いたいだけだろ。何が清算だ。そう言いつつも、きっぱり縁を切るために、淡々と約束を決めた。「いいだろう。午後二時、清水レストランで。そこで精
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