それだけではなく、ぶつかった後も謝るどころか、林檎は唇を歪めて皮肉げに笑った。USBメモリの中にある企画を思い浮かべるだけで、彼女の気分は晴れやかになる。もう少しでこのプロジェクトを自分のものにし、紗雪を蹴落とせる。そうなれば、もう怖いものは何もない。この会社で、堂々と好き勝手に振る舞えるようになるはずだ。極端な言い方をすれば、このプロジェクトを手に入れた瞬間、彼女は二川グループの英雄になる。そんな立場になれば、紗雪なんて邪魔者に過ぎない。ぶつかろうが、謝らなかろうが、何の問題もない。円は驚いた表情で息を呑んだ。「何あれ!?ぶつかっておいて、一言も謝らないなんて、ありえないでしょ!?」「絶対に許せない!ちょっと言いに行く!」怒りに燃えた円は袖をまくり上げ、今にも飛び出しそうな勢いだった。しかし、その前に紗雪が素早く彼女の腕を掴み、静かに首を横に振る。「やめておけ、円」「こんな相手のために感情を無駄にする必要はない。それに、今日は大事な会議があるんだから、椎名プロジェクトの次の方針を決める方が重要よ」その言葉に、円は悔しそうに唇を噛んだ。「紗雪......わかったよ」二人は静かに席に着いた。林檎はちょうど向かい側に座っており、得意げな笑みを浮かべている。円は我慢できずに小声でつぶやいた。「何がそんなに嬉しいのか知らないけど、あんな顔、見てるだけでムカつく……」紗雪は軽く円の腕を叩き、余計なことを言わないように合図した。ここは会社だ。俊介の関係者や目が光っている者がどこに潜んでいるかわからない。下手なことを口にすれば、それこそ何をされるかわからなかった。円はすぐに口をつぐみ、手で口元を押さえた。プロジェクトマネージャーが会議を進行し、重要な話に入ると、少し声のトーンを上げた。「さて、椎名プロジェクトについて意見がある者は、企画案を持って前に出て発表してくれ」そう言いながら、プレゼン用のスクリーンの前を空ける。一応、誰にでも発表の機会があるように言ったが、実際には彼の視線はずっと紗雪を見つめていた。彼は知っている。二川家の次女は才能がある。以前提出した企画案のフレームワークが、こんなにも早く椎名側の目に留まり、評価されたことからも、それは明らかだった。椎
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