元々、二川家の次女が会社に来たのは、基層から経験を積むため。ただの形だけだと思われていた。どうせ、口だけの話だろう、と。豪門の子供は皆、生まれた時からお金持ち。家の資産もあるし、仕事をすると言っても、ほとんどは見せかけのものにすぎない。しかし、紗雪はプロジェクトマネージャーが知っているそういった人間とは、まるで違っていた。いや、それどころか、彼の認識を根本から覆すほどだった。そもそも、彼女ほど真剣に仕事に向き合う人は滅多にいない。二川家はもともと裕福で、彼女は二川グループでのんびり過ごすこともできたはずだ。だが、紗雪の真剣な姿勢は、彼の目にはっきりと映っていた。それだけではない。彼女は誠実で、人当たりも穏やかだ。そう考えると、プロジェクトマネージャーは紗雪を見る目に、さらに温かみを増した。紗雪は周りがどう思おうと、ただ自分のやるべきことをやるだけだった。彼女の背筋はまっすぐに伸び、古い木のように、ひとりで大きな空を支えていた。その姿を見ると、不思議と安心感を覚える。「じゃあ、君に任せるよ」プロジェクトマネージャーは改めて言い聞かせるように言った。「二川さん、椎名のプロジェクトの重要性は、君が一番よくわかっているはずだ」紗雪は力強く頷き、目には堅い決意の光を宿した。「全力を尽くします」彼女のその決意は、オフィスの他の人々にも伝染した。誰もがこのプロジェクトに十二分の気持ちを込め、紗雪のように真剣に取り組むようになった。前田の件以来、もう誰も紗雪を侮ることはなかった。それどころか、彼女は「分別のある人間」として、一目置かれるようになった。そんな職場の空気の中で、紗雪もまた、落ち着いて仕事に打ち込めた。午後、彼女は整えた資料を持ち、椎名へと向かった。オフィスの皆が彼女を励まし、背中を押してくれた。会社の車に乗り、目的地に着く。そびえ立つ高層ビルを見上げると、周囲には都心部の建築物が立ち並んでいる。その景色を見て、紗雪は改めて、椎名の規模と実力に圧倒された。ずっと前から、この会社が凄いことは知っていた。しかし、こうして実際にその場に足を踏み入れると、また別の畏怖を感じる。紗雪はきゅっと赤い唇を引き結び、心の中で気合を入れた。そして、しっかりと歩みを
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