この二川紗雪は、彼の想像以上に手強い相手だった。俊介の額にはじんわりと冷や汗が滲み、唇が震えて言葉が出てこない。紗雪はそれ以上無駄口を叩くことなく、くるりと踵を返し、俊介のオフィスを後にした。ヒールが大理石の床を叩くたびに、澄んだ音が響く。その音は俊介の心臓を直接叩くようで、彼の苛立ちはどんどん膨れ上がった。彼は椅子に座ったまま、怒りで全身を震わせる。何様のつもりだ?たかが貧乏くさい大学生が、自分の前でいい気になっているだと?考えれば考えるほど、俊介の胸中は煮えくり返った。彼は勢いよく立ち上がると、そのままオフィスを飛び出した。ちょうどその頃、紗雪は社員フロアに足を踏み入れていた。すると、すぐにひそひそとした囁き声が耳に入ってくる。「二川紗雪?なんでここに?辞めたんじゃなかったの?」「さあな、前田部長に泣きつきにでも来たんじゃない?」何人かの社員が顔を寄せ合い、嘲るように笑う。しかし、紗雪はそんな雑音には一切耳を貸さず、ただ自分のデスクへ向かおうと歩みを進めた。その時突然、肩を強く引かれたかと思うと、次の瞬間、頬に焼けつくような痛みが走った。「パシン!」鋭い音がオフィスに響き渡る。「このクソ女!俺を脅すなんていい度胸じゃねえか!」怒り狂った俊介が、歪んだ顔で吼える。獲物を狙う獣のような形相で、彼の瞳は怒りに燃えていた。紗雪が状況を飲み込む間もなく、二発目の平手打ちが飛んできた。激しい衝撃が頬を襲い、頭の中が一瞬真っ白になる。耳鳴りがして、視界がぐらりと揺れた。オフィス内は騒然となった。社員たちは驚愕し、誰もが息を呑んでいた。まさか、俊介が会社の中で堂々と手を上げるとは。紗雪は深く息を吸い込み、込み上げる怒りを必死に抑えた。震える指で頬を押さえながら、ゆっくりと顔を上げる。冷たい瞳が俊介を射抜く。「あんた、終わったな」彼女は一言一言を噛み締めるように、低く静かに言い放った。俊介は鼻で笑う。「終わった?誰を脅してんだよ?お前の手元にあるもんで、俺をどうにかできるとでも?」「言っとくがな、俺は二川お嬢様の側近だぞ?俺に手を出すってことは、彼女を敵に回すってことだ!」紗雪は冷ややかに微笑んだ。「緒莉が?あんたがここまで派手に
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