「奥様は仕事場へ向かいました」定律は唇を引き結び、「胃はもう大丈夫なのか?」と尋ねた。「見たところ、特に問題はなさそうです」定律は淡々と「ああ」とだけ返し、視線を手元の書類に落として、それ以上は何も言わなかった。「羽成様、奥様からのお届け物があります」蒔人はそのことを思い出し、定律の前に封筒を差し出した。定律は顔も上げずに「読め」と命じた。「は」蒔人は封筒を開け、中の書類に目を通すと、一瞬動きを止めた。そこに書かれたタイトル——「離婚協議書」の五文字に驚愕し、声が詰まった。「読まないのか?」定律が問い詰める。蒔人は腹を括り、意を決して読み上げた。「羽成様、奥様は離婚を求めています。離婚理由は『夫の機能障害により、夫婦の基本的義務を果たせず』という……」定律の表情が一気に冷え込んだ。「これは何のつもりだ?」「奥様からの離婚協議書です」蒔人は息を詰めながら答えた。自分はとんでもない秘密を知ってしまったのではないかと、視線を泳がせ、震える手で書類を定律に差し出した。定律はそれを奪い取り、冷たい視線で内容を確認する。そこに記載された条件は、彼女が欲しがったのは「九台の別荘」ただ一つ。それは、かつて泰世が所有していた物件だった。「賢い選択だな」定律は鼻で笑った。自分が何のために彼女と結婚したのか、彼女はよく理解している。だからこそ、金銭については一切触れなかったのだろう。だが、それはともかく——この離婚理由には、彼の怒りを煽るには十分すぎるほどだった。彼はすぐに星奈に電話をかけた。「星奈、これは何のつもりだ?」その頃、星奈は彩月と一緒に家具を見ていた。彼女は仕事場に着くなり、彩月を呼び出していた。九台の家に戻るつもりだったが、その家は二年前に完全に片付けられ、今は家具も何もない状態。住むためには、新しく家具を買い揃える必要があった。定律の電話を受け、彼女は冷たい声で答えた。「見ればわかるでしょ?離婚協議書よ」「聞きたいのは離婚理由のことだ」定律の声は低く冷たい。「俺が性的機能障害?ふっ、俺がいつお前を満足させられなかった?」男のプライドを傷つけられ、彼の怒りは想像に難くない。星奈はくすりと笑った。「だって、あんたって十日や半月に一度しか帰って
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