取締役副社長はさっきロビーで見かけたあの男だった。翔によく似た目をした男だった。純伶は呆然とした。近くで見ると、男の目はますます翔にそっくりで、まるで瓜二つだった。ただ、似ているのは目だけだった。それ以外、鼻や顔の輪郭、肌の色、身長はどれも違っていた。記憶の中の翔は色白で細身の少年で、まるで漫画から抜け出してきたような美しさだった。目の前の男はやや日焼けした肌をしていて、体格は引き締まり力強く、短く刈り込まれた髪に、彫刻のような顔立ちだった。男性的な特徴が際立っていた。それはまさに、鋭く洗練された大人の男だった。千鶴の目がまた輝き出し、小声で感嘆した。「若くて、かっこよくて、すごくスタイルいい副社長ですね」男は革張りのチェアから立ち上がり、長い脚でこちらに歩み寄ってきた。純伶はすっと立ったまま、じっとその目を見つめた。その瞳は、まるで彼女の痛ましい記憶を開く鍵のようだった。ひとたび記憶が開かれれば、中には触れてはならない痛みが幾重にも積み重なっていた。男は彼女の前に立ち、右手を差し出して、礼儀正しく言った。「こんにちは。北条翔と申します」「翔」という名を聞いたとたん、純伶は一瞬固まった。彼女は無意識のうちに彼の差し出した手を見た。長く力強い指、右の人差し指の両側には薄く硬いタコができていた。それは長年銃を握ってきた手だった。純伶が呆然と立ち尽くしているのを見て、千鶴が彼女の腕を小突いた。「早く握手して!」そこでやっと純伶は手を伸ばし、翔と握手した。ふたりは長く手を握り合っていた。普通の握手の時間をとうに超えていた。純伶は彼の目を見てからというもの、頭の中が真っ白で、ぼんやりしていて、握手の時間が長すぎたことに気づいていなかった。千鶴が咳払いをして言った。「早く絵を広げて、北条さんに見せなきゃ」その言葉で純伶はようやく我に返り、慌てて手を引いた。翔は絵を受け取りながら、ふと目を伏せ、ドアに挟まれて傷ついた彼女の左手に目をやった。あんなに綺麗な指に傷跡が残り、爪は黒紫色のままで、まだ完全に治っていなかった。彼の目が一瞬冷たくなり、しかし表情を変えずに絵を広げ、じっと確認し、上に押された数個の赤い印を見たあと言った。「本物ですね。いくらで売るつもりですか?」千鶴が慌てて口を
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