All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 61 - Chapter 70

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冬休みの素敵なプレゼント page4

****『拝啓、あしながおじさん。 お元気ですか? わたしは今日も元気です。 期末テストも無事に終わって、わたしは今回も一〇位以内に入りました。 そして、学校はもうすぐ冬休みに入ります。それで、さやかちゃんがわたしを「冬休みはウチにおいで」って誘ってくれました。 さやかちゃんのお家は埼玉県にあって、ご両親とお祖母さん、早稲田大学三年生のお兄さん、中学一年生の弟さん、五歳の妹さん、そしてネコ一匹の大家族です! ものすごく賑やかで楽しそう! わたし、この高校に入ってからお友達のお家に招かれたのは初めてなんです。それでもって、お友達のお家にお泊りするのは生まれて初めてです。わかば園では、学校行事以外での外泊は禁止されてましたから。 さやかちゃんのお父さんは小さいけど会社を経営されてて、クリスマスは従業員さんのお子さんを招いてクリスマスパーティーをやるそうですし、お正月にはご家族で川崎大師に初詣に行くそうです。さやかちゃんだけじゃなくて、ご家族もわたしのこと大歓迎して下さるそうです。 わたし、さやかちゃんのお家に行きたいです。おじさま、どうか反対しないで下さい。お願いします!             十二月十六日        愛美  』**** ――それから四日後。「……ん?」 寮に帰ってきた愛美は、郵便受けに一通の封筒を見つけて固まった。(久留島さん……、おじさまの秘書さんから? まさか、さやかちゃんのお家に行くの反対されてるワケじゃないよね?) 差出人の名前を見るなり、愛美の眉(み)間(けん)にシワが寄る。「どしたの、愛美?」 そんな彼女のただならぬ様子に、さやかが心配そうに声をかけてきた。「あー……。おじさまの秘書さんから手紙が来てるんだけど、なんかイヤな予感がして」「まだそうと決まったワケじゃないじゃん? 開けてみなよ」「うん……」 さやかに促され、愛美は封を切った。すると、その中から出てきたのはパソコンで書かれた手紙と、一枚の小切手。「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……、十万円!?」 そこに書かれた数字のゼロの数を数えていた愛美は、困惑した。 毎月送られてくるお小遣いの三万五千円だって、愛美には十分な大金なのに。十万円はケタが大きすぎる。(こんな大金送ってくるなんて、おじさまは一体なに考えてるんだろ?)「…
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page5

「えっ、コレだけ? クリスマスプレゼント……がお金って」 愛美は小首を傾げ、うーんと唸った。ますます、〝あしながおじさん〟という人のことが分からなくなった気がする。(プレゼントは嬉しいけど、お金っていう発想は……どうなの?) 彼の意図をはかりかねているのは、さやかと珠莉も同じようで。「まあ、なんて現実的なプレゼントなんでしょ。一体どういう発想なのかしらね?」「何を贈っていいか分かんないから、無難にお金にしたんじゃないの? ほら、女の子の援助するの、愛美が初めてらしいし」「あー、なるほどね」  さやかの推測に、愛美は納得した。 娘がいる父親なら、愛美くらいの年頃の女の子が欲しがるものも大体分かるはず。ということは、彼には子供――少なくとも娘はいないということだろうか。(もしいたとしても、まだ小さいんだろうな。まだ若い感じだったし)「――んで? あたしの家に来ることについては、何か書いてないの?」「ううん、何も書いてないよ。ってことは、おじさまも反対じゃないってことなのかな?」 愛美はこの手紙の内容を、そう解釈した。 それだけではない。反対していないどころか、自由に使えるお金まで〝プレゼント〟という名目で送ってくれたのだ。「そうなんじゃない? よかったね、愛美」「うん!」 愛美は笑顔で頷いた。 一番の心配ごとが解決し、愛美の新しい悩みが生まれる。「――さてと。このお金で何を買おうかな……」 使いきれないほどの大金の使い道に、愛美は少々困りながらもワクワクしていたのだった。   * * * * ――あの十万円が贈られてきた日の午後、愛美は街に買い物に出かけた。 『それだけの金額あったら、欲しかったもの何でも買えるんじゃない?』 というさやかの提案に乗り、自分へのクリスマスプレゼントをドッサリ買い込むことにしたのだ。 ひざ掛けのブランケットに腕時計、大好きな作家の本をシリーズで大人買い。暖かそうなモコモコのルームソックス、新しいブーツ、洋服。そして……、テディベア。「わぁー、ずいぶんいっぱい買い込んできたねえ。……っていうか、他のものは分かるけど、なんでテディベア?」「実は、前から欲しかったの。施設にいた頃、毎年理事さんからのクリスマスプレゼントの中に可愛いテディベアがあったんだけど、わたしは遠慮して小さい子たちに譲
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page6

   * * * * ――それから五日が過ぎ、あっという間に冬休み。「愛美ー、そろそろ出よっか」 時刻は午前十時。夏休み前とは違い、すっかり荷作りを終えた愛美の部屋に、さやかが呼びに来た。「うん、そうだね。電車で行くんだよね?」「そうだよ。品川(しながわ)駅から乗り換えるの。今日は新幹線には乗らないからね」 新幹線なら、新横浜から一駅で品川に着くけれど。たった一駅を新幹線で行くのはもったいないので、今回は「総(そう)武(ぶ)線で行こう」ということになったのだ。「あたしの家、浦(うら)和(わ)駅からわりと近いから。そこからは歩きでも十分行けるんだよ」「へえ、そうなんだ」 二人がスーツケースと大きめのバッグを携(たずさ)えて愛美の部屋を出ると、ちょうど東京の実家に帰ろうとしてる珠莉と合流した。「ねえ、珠莉ちゃんはどうやって東京に帰るの? 電車で?」 愛美は珠莉に訊ねる。もしも電車で帰るのなら、途中までは自分たちと一緒かな、と思ったのだけれど。「いいえ。校門の前まで迎えの車が来ることになってるわ。お抱えの運転手がハンドルを握ってね」「お抱えの運転手…………。アンタん家ってマジでスゴいわ」 さやかが思わず漏らした感想に、愛美もコクコクと頷く。(わたし、そんな車って施設の理事さんたちの車しか見たことない……) しかも、「あれに乗ってみたい」と憧れを込めた空想を膨らませて、だ。「……ねえ、もしかして純也さんにもいるの? お抱えの運転手さん」 彼だって一応、辺唐院一族の一人である。他の親族との折り合いは悪いと聞いたけれど、その辺りはどうなんだろう?「いないと思いますわよ。純也叔父さまはご自分で運転なさいますから。乗用車だけじゃなくて、バイクも」「そうなの? カッコいいなぁ」 彼が車を運転する姿は想像がつくけれど、バイクに乗る姿までは想像がつかない。「愛美、そろそろ。ね」 さやかは「夕方までには家に着くはず」と実家の母親に連絡を入れてあるのだ。長々とお喋りをしていたら、着くのが遅くなってしまう。「……あ、そうだった。じゃあ珠莉ちゃん、よいお年を。また三学期にね」「よいお年をー」「ええ、よいお年を。来年もよろしくお願い致しますわ」 愛美とさやかの二人は、そこで珠莉と別れて新横浜の駅に向かった。「――ねえ、お昼ゴハンはどうする?
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page7

「ん? どしたの?」「あー……、えっとねえ。わたし、このお家をどこかで見たような気がして。来るの初めてのはずなのに」 初めてのはずなのに、どこかで見たような感じ。それは愛美にとって、不思議な既視感(デジャヴ)だった。(えーっと、どこだったかなぁ……? う~ん……) 愛美は自分の記憶を一生懸命たどっていく。高校に入ってからではないはずだから、多分その前だ。きっと、まだ施設にいた頃――。「……あ、思い出した!」「えっ、どこで見たか分かったの?」「うん。わたしね、施設にいた頃によく理事さんたちの車眺めながら空想してたの。自分があのリムジンに乗って、お屋敷に帰っていくところ。その中に、ここにそっくりなお家が出てきてたんだ」 ……そうだ。この家の外観は、あの時の空想に出てきた豪邸にそっくりだったのだ。 あの頃の愛美は、こんな大きな家に住むことに憧れていた。その光景が今、現実に自分の目の前にある。厳密には、友達の家だけれど。「そうなんだ? けどまあ、ウチは立派なのは外観だけで、中はホントに普通の家と変わんないよ? 珠莉の家の方がずっと豪(ごう)華(か)なんじゃないかな。あたしも行ったことないけど」「そうなの? あんまり立派すぎると、わたし萎(い)縮(しゅく)しちゃうな……」「まあ、そうなるかもね。とにかく中入ろ? ――お母さーん、ただいまぁ! 友達連れてきたよー」 さやかが玄関のドアを開け、愛美にも「おいでおいで」と手招き。愛美は「おジャマしまーす」と礼儀よく声をかけ、玄関の三和土(たたき)で脱いだウェスタンブーツをキレイに揃えた。ついでに、さやかの編み上げショートブーツも揃えておく。「さやか、おかえりなさい。あら! 愛美ちゃんね? いらっしゃい」「はい。冬休みの間、お世話になります」 出迎えてくれたさやかの母親に(写真を見せてもらっていたので、顔は覚えていた)、愛美は丁寧に頭を下げた。 彼女は四十代半ばくらいで、髪はサッパリとしたショートボブカット。身長はさやかとほぼ同じくらいに見える。千藤農園の多恵さんや〈わかば園〉の聡美園長に似た、優しそうで温厚そうな顔立ちだ。「さやかから話は聞いてるわ。ここを自分の家だと思って、寛(くつろ)いでいってね」「はいっ! ありがとうございます!」(さやかちゃんのお母さん、いい人だなぁ) きっと彼女は
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page8

「もう、お兄ちゃん! やめなよ、みっともない! 愛美も引いてんじゃん! ――ゴメンね―、愛美。お兄ちゃん、こんなんで」「ううん、大丈夫。……ただ、ちょっとビックリしたけど」 驚いたのは本当だった。愛美は今まで、こういうチャラ男系の男性と接したことがなかったのだ。 写真だけではそこまで分からなかったので、実際に会って初めて分かった事実に引いてしまっただけだ。「さやか、お前なぁ……。兄ちゃんに向かって〝こんなん〟ってなんちゅう言い草だよ」「だって事実じゃん。長男なのに頼んないし、女の子見たらデレデレ鼻の下伸ばすし。〝こんなん〟呼ばわりされても仕方ないっしょ」 そんな愛美をよそに、兄妹で言い合い(というか漫才?)を始めたさやかたちに、愛美は思わず吹き出した。「はははっ、面白ーい! さやかちゃんって、お兄さんと仲いいんだね―。わたし羨ましいな」 こうして遠慮なく言い合えるのは、実の兄妹だからだ。施設で育った愛美にとっては、こういう光景も憧れだった。「愛美っ! もう……。ここ笑うとこじゃないって。……まあいっか」 さやかは笑っている愛美に抗議しながらも、どこか楽しそうだ。というか、初めて家に来た友達の前で兄とやりあったことがよっぽど恥ずかしかったらしい。「――あ、お兄ちゃん。そういやお父さんは?」「今日はちょっと遅くなるって言ってたけど。父さんも愛美ちゃんに会えるの楽しみにしてたから、晩メシには間に合うんじゃねえの?」「そっか……。四月から新年度だから、今からあちこち注文入るんだよね」 さやかの父親が経営しているのは、作業服メーカーである。自社製品だけではなく外部の企業からユニフォームの注文も受けているため、この時期は忙しくなるのだ。 特に、社長の忙しさは他の社員の比ではない。「――あの、治樹さん……でしたっけ。わたしからちょっとお話があるんですけど」「ん? なに?」 治樹が自分に好意を持っているらしいことを思い出した愛美は、思いきって自分から「好きな人がいる」と打ち明けることにした。「あの……、さやかちゃんからも聞いてると思うんですけど。わたし、他に好きな人がいて。わたしのこと気に入ってくれてるのは嬉しいんですけど、お付き合いとかそういうのは……、ちょっと……。ゴメンなさい」 本当は、もっとキッパリ言うつもりだったのだけれど。愛美は
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page9

「――あ、姉ちゃん。おかえりー。そのお姉さん、誰?」 愛美がさやかと治樹と一緒にリビングへ入ると、あの家族写真に写っていた父親以外の家族がズラッと揃っていた。 そして、その中で中学一年生だというさやかの弟が口を開く。「ただいま、翼(つばさ)。このコはお姉ちゃんの友達で、相川愛美ちゃんだよ」「翼くんっていうの? よろしくね」「っていうかアンタ、また靴脱ぎ散らかしたまんまにしてたでしょ。『脱いだ靴はちゃんと揃えなさい』って、いっつもお母さんに言われてるでしょ?」「あ、ゴメン! 忘れてた」 翼というさやかの弟は、ボサボサ頭を掻きながらペロッと舌を出す。(素直なコだなぁ) 中学生の男の子なら、反抗期に入っていてもおかしくないのに。両親の育て方がいいからなんだろうか。(さやかちゃんも治樹さんも優しいし)「おねえたん、おかえりなさぁい。ココたんも『おかえり』っていってるよー」「ただいま、美空(みく)。ココもただいま」 五歳の妹・美空に微笑みかけたさやかは、彼女が抱っこしている三毛猫の頭を撫でた。(可愛いなぁ……) 愛美はその光景にホッコリした。 美空は写真で見ても十分可愛かったけれど、実物はそれ以上に可愛い。猫のココを抱っこしているので、今はその可愛さが二倍になっている。「美空ちゃんっていうんだね。初めまして。わたしはお姉さんのお友達で、愛美っていうの。仲良くしてね」「うんっ! まなみおねえちゃん、よろしくおねがいしますっ」 美空が舌足らずで一生懸命言うのを待って、ココも「にゃあん」と一鳴き。「かぁわいい~~!」 思わずほわぁんとなってしまう愛美だった。「――さやかちゃん、おかえりなさい。愛美ちゃんも、よく来てくれたわねえ」 次にさやかと愛美の二人に声をかけてくれたのは、さやかの祖母・雪(ゆき)乃(の)だった。 歳は七十代初めくらいで、髪は肩までの長さのロマンスグレー。物腰の柔らかそうな、おっとりした感じの女性である。「おばあちゃん、ただいま。しばらく帰ってこられなかったけど、元気そうだね。安心した」「相川愛美です。さやかちゃんにはいつもよくしてもらってます」「そう? よかったわ。ウチの孫たちはみんな、いいコに育ってくれて。私も嬉しいわ」 このリビングにいる面々に一通り挨拶を済ませた頃、さやかの母・秀(ひで)美(み)がテ
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page10

「そうそう。中学生以下のコたち限定なんだけどね。毎年、お兄ちゃんがサンタさんのコスプレしてプレゼント配るの。んで、あたしもトナカイコスで手伝ってるんだよ。今年は愛美にも手伝ってもらおっかな」「わあ、楽しそう☆ わたしも手伝うよ!」「んじゃ、愛美はサンタガールコスかな。トナカイじゃかわいそうだもんね」「おお、いいじゃん! ぜってー可愛いとオレも思う」 兄妹が盛り上がる中、愛美は自分がミニスカサンタになった姿を想像してみる。 (わたし、小柄なんだけど。似合うのかな……? でもまあ、トナカイよりは……)「…………そうかな? じゃあ……、それで。でもいいの? さやかちゃん、今年もトナカイだよ? たまにはミニスカサンタのカッコしてみたいとか思わない?」「あー、いいのいいの。もう慣れたし」(慣れたんだ……) この兄と一緒に育ってきたら、きっとそうなるだろうと愛美も思った。「あとね、お母さんが毎年クリスマスケーキ焼いてくれるんだ。それが超美味しいんだよねー」「へえ、そうなんだ。それも楽しみだなあ」 クリスマスは毎年ワクワクしていた愛美だけれど、今年は友達のお家で過ごす初めてのクリスマス。いつも以上にワクワクしていた。(この楽しい時間は、あしながおじさんが下さった最高のプレゼントかも!) 彼は十万円という大金と一緒に、友人と過ごす冬休みというこの有意義な時間もプレゼントしてくれたんだと愛美は思ったのだった。「――愛美ちゃん。今日の晩ゴハンはハンバーグなんだけど、好き? あと、嫌いなものとか、アレルギーとかはない?」 秀美さんが愛美に訊ねる。一家の主婦として、我が子の友人が家に連泊するとなれば色々と気を遣うんだろう。「あ、はい。ハンバーグ、大好物です。好き嫌いもアレルギーもないです。何でも食べられますよ」 施設で育ったので、好き嫌いなんて言っていられなかった。幸い、生まれつき食品アレルギーもないようだし。「っていうか愛美とあたし、今日ハンバーグ二回目だね。お昼も食べてきたじゃん?」「……あ。そうだった」 お昼に品川で食べたハンバーグも美味しかった。でも、家庭のお母さんハンバーグはまた別である。「あら、そうだったの? ゴメンなさいねえ、気が利かなくて。でもね、ウチのは煮込みハンバーグだから、また違うと思うわよ?」「お母さんの煮込みハンバ
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page11

   * * * * ――翌日の午後、治樹が言っていた通り、クリスマスパーティーが開催された。 とはいっても、牧村家ではスペースが限られるので、自宅から徒歩数分のところにある〈作業服のマキムラ〉の工場にある梱包スペースを借り切って、である。 この縦長の広いスペースをキレイに片付け、飾りつけし、クリスマスツリーを飾ったらクリスマスパーティーの会場の出来上がり。「中学生以下のコ限定」とさやかが言っていたわりには、二十人近い子供たちが集まって、とても賑やかになった。「――やあやあ、みんな。サンタのお兄さんだよ。みんないい子にしてるかね?」 そこへ、サンタクロースのコスプレをした治樹が、白い大きな袋を担いで参上した。ミニスカサンタのコスプレをした愛美と、トナカイの着ぐるみでコスプレをしたさやかも一緒である。「お兄ちゃん……、〝サンタのお兄さん〟はないんじゃない? 子供たち、リアクションに困ってるって」 トナカイさやかから、すかさずツッコミが入る。 彼女の言う通り、子供たちは〝サンタのお兄さん〟の登場にポカーンとしている。……特に、小学校高学年から上の子たちが。「まあまあ、細かいことは気にするな☆ ……ほーい、じゃあみんな、プレゼント配るぞー。サンタのお姉さんも手伝ってな」「はーい。サンタのお姉さんだよー。みんなよろしくねー」 ミニスカサンタになれた愛美もノリノリである。一人冷静なさやかは、「……ダメだこりゃ」と呆れていた。 ちなみに、用意したプレゼントは百円ショップで買ってきたおもちゃや文房具、手袋や靴下などだ。これまた百円ショップで仕入れてきたラッピング用品で、三人で手分けして可愛くラッピングしてある。 トナカイさやかも一緒に、三人で子供たちにプレゼントを手渡していく。小さい子たちは「わーい、ありがとー」とはしゃぎながら受け取り、大きい子たちは比較的クールに、それでも嬉しそうに受け取っていた。(……なんか、不思議な気持ち。〈わかば園〉の理事さんたちもきっと、こんな気持ちだったのかな) 子供たちの喜ぶ顔を見ると、自分も嬉しくなる。理事さんたちも、それが嬉しくて援助してくれていたのかな、と愛美は思った。(きっと、今のあしながおじさんだってそうなんだ) 愛美が自分のおかげで楽しい高校生活を送れているんだと、彼だって思っているに違いない。だか
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page12

「じゃあみんな、いただきま~す!」「「「いただきま~す!」」」 ケーキを食べ始めると、そこはもう大変なことになっていた。 愛美たちお兄さんお姉さんの三人はそうでもないけれど、小さい子たちの食べ方といったらもう。愛美は母性本能をくすぐられた。「あーあー、クリームでお顔がベタベタだねえ。お姉さんが拭いてあげる」 すぐ隣りに座っている小さな男の子の、クリームまみれになった顔を、愛美はテーブルの上のウェットティッシュでキレイに拭いてあげた。「愛美、やっぱ手馴れてるね―」「施設にいた頃、よく小さいコたちにやってあげてたからね。――はい、いいお顔になったよ」「愛美ちゃん、いいお母さんになりそうだな」「……いやいや、そんな」 愛美は治樹の言葉を謙遜(けんそん)で返した。「お兄ちゃん、まだ愛美のこと諦めてないの?」「……うっさいわ。オレはただ、素直に褒めただけ。なっ、愛美ちゃん?」「えっ、そうだったんですか?」 愛美が素でキョトンとしたので、さやかが大笑い。「愛美、さぁいこー! めちゃめちゃ天然じゃんー!」「……えっ、なにが?」 今まで「天然だ」と言われたことがなかったし、自分でもそう思ったこともなかったので、愛美にはいまいちピンとこない。「いいのいいの。愛美はもうそのまんまで」「…………?」 愛美が首を傾げたので、さやかはまた大笑い。治樹もつられて笑い、兄妹二人で大爆笑になったのだった。   * * * * ――新年を迎え、冬休みも終わりに近づいた頃、愛美は一通の手紙を〝あしながおじさん〟に書き送った。一枚の写真を添えて。
last updateLast Updated : 2025-02-14
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冬休みの素敵なプレゼント page13

****『拝啓、あしながおじさん。 あけましておめでとうございます。少し遅くなりましたけど、今年もよろしくお願いします。 今年の冬休みは、埼玉県さいたま市のさやかちゃんのお家で楽しく有意義に過ごしました。色々ありすぎて、何から書こうかな。 まず、お家にビックリ。わかば園にいた頃、わたしが空想していたお家にそっくりだったんです。まさか自分があのお家の中に入れるなんて、夢にも思いませんでした! でも今、わたしはこのお家にいます。もうすぐ寮に帰らないといけないのが淋しいです。 そして、ご家族もステキでいい人ばかりです。さやかちゃんのご両親にお祖母さん、早稲田大学三年生で東京で一人暮らし中のお兄さん(治樹さんっていいます)、しょっちゅう脱いだ靴をそろえ忘れる中学一年生の弟の翼君、五歳ですごく可愛い妹の美空ちゃん、そして三毛猫のココちゃん。 ゴハンの時もすごく賑やかだし、みんな楽しい人たちで、すごくあったかい家庭です。わたしも将来結婚したら、こんな家庭を作りたいなって思います。 さやかちゃんのお父さんは作業服メーカーの社長さんで、お家のすぐ近くに工場があります。クリスマスには、その工場の梱包スペースを飾りつけしてクリスマスパーティーをしました。 従業員さんのお子さんたちを招いて、治樹さんがサンタさんのコスプレをして、お子さんたちにプレゼントを配りました。さやかちゃんはトナカイの、わたしもミニスカサンタのコスプレをして、それをお手伝いしました。 何だか不思議な気持ちになりました。きっと、わかば園の理事さんたちもこんな気持ちなのかな、って。もちろん、今わたしを援助して下さってるおじさまも。 大晦日はみんなで紅白(こうはく)歌合戦を観て、除夜の鐘の音を聴いてから寝ました。 元日にはさやかちゃんのお父さんの車で、川崎大師まで初詣に行きました。何をお願いしたのかは、おじさまにもナイショです。 そこでおみくじを引いたら、治樹さんは凶、さやかちゃんは吉で、わたしはなんと大吉でした! 今年もいい一年になりそうです。 治樹さんは「なんで自分だけ凶なんだ!?」って大騒ぎしてて、わたしとさやかちゃんは二人で大爆笑しました(笑) そして、さやかちゃんのお父さんからお年玉を頂きました。おじさま、気を悪くなさらないで下さいね。さやかちゃんの友達だから、娘も同然みたいに思って
last updateLast Updated : 2025-02-14
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